女騎士との対峙
「うわわわぁ!逃げろ逃げろ!!」
***
いい加減走りつかれてきたところだ。
しつこいくらいの怒号が追いかけてくる。
様子を伺うために振り向くのも億劫だった。
街の門まであとどれくらいだろうか。
「はぁ……はぁ……」
息が切れてきた。
「ロット様、もしよろしければ私がおとりになりますが?」
あまり気が進まない提案だった。というのもーー
「いえ、無駄ですよ。あの物量だと状況はそんなに変わりません。僕たち二人を追う超大群が、おとりに対処する大群と僕を追う大群に分かれるだけに過ぎないでしょう」
「では、どうすれば……投げナイフももう底をつきそうです。馬車に行けば、数百本ほど予備があるのですが……」
あと数百本もあるのか……
ちなみにフランさんは僕と違っていくら走っても息は乱さず、消耗する様子を見せない。
「せめて、一度隠れる事が出来れば……」
「でしたら私に考えがあります。次の角を右に曲がります」
「考え?」
彼女の言う角というのは、すでに目の前まで迫っていたので、そこでその考えとやらを聞き出す事はできなかった。
そしてそのまま曲がった刹那、一瞬だった。
「ロット様、失礼します」
「えっ?」
体が強く押し飛ばされたと思ったら、視界が真っ暗になる。
それでいて何か柔らかくボソボソしたものに包まれているような、そんな中に僕はいた。
そのうちに怒号の群れが過ぎ去っていく。
それにしても市民が頼るべき騎士に追いかけられているというのに、まるで悪い奴らに追われているかのような、そんなイカつさと迫力のある追撃者達だった。
ーーえっと、そろそろ良いのかな?
状況が理解できないままもがいてみると、やがて光が差し込んできた。
「これは……荷車?ははぁ、なるほど」
僕は荷車に積まれている藁の山の中に押し込まれたようだ。
アサシンとかがこういうところに隠れるというのを聞いたことがある。
辺りを伺い荷車から降りる。
左右に他にも色々乗せてある荷車が並んでいた。
「ケホッ…ゴホ」
むせながら、服の藁をはらう。
ーーとなると結局、フランさんが一人で追いかけられているのだろうか?
多少心配だが、言い出した本人なのだし多分大丈夫なのだろう、簡単にやり過ごせるに違いない。
というか一人の方が好都合だったのかも…
つまるところ、不甲斐ないが僕は足でまといだったのだ。
〜info〜
フランソワーズがパーティから離脱しました。
さて…ここから、どうするかな
このまま街からでてタニア婦人の馬車を探すのもいい。
フランさんを探すのもいいが。
でもまあその前に、不安の種を取り除く事が先決か。
「出てきてください、いるんでしょう?」
顔の向きは変えず大声でいう。
別に誰かの気配を感じ取っているわけじゃない。
これはクリアリングだ。
まあ、あれだけの人がフランさんに追従していったのだ。誰か残っているとも思えなーー
「あら、気づかれていたようね。結構気をつけていたつもりなのだけど」
建物の影からさっき僕に切りかかってきた女騎士が現れる。
僕はというと、言葉が出なかった。
いや実際は「うわぁ……本当にいたよ……」ぐらい言ってやりたかったが。
出て来い!そこにいるのは分かってるぞ!なんて言ってみれば隠れているものが出てくるものだけど…よりにもよって厄介なのが残っているものだとは。
彼女は一般騎士の鎧を外し、ピンクが基調の独自の軽装へと変わっていた。
腰にベルトで括り付けてある板のようなものが少し気のなる。
あれはなんだろう?
あまりに僕が黙っているものだからか、彼女の表情からも疑問の心境が見て取れた。
「なんとか言ったらどうかしら?」
「え?ああ……じゃあ、こんにちは」
「ーーあなた、大丈夫?」
本気で心配されているようだ。
まあ、のほほんと挨拶できる雰囲気でもないのは理解できる。
「いや、昨日から忙しくて少し疲れてるんですよ。できれば5分ほど休憩タイムが欲しいくらいで」
「お生憎さま、こちらはそんなに時間が取れないの」
彼女は微笑みを浮かべながら、容赦なく抜剣した。
恐るべき存在で、この状況も危惧するべきものだ。
しかしこちらも、意外と軽口を叩ける程度には余裕があるらしい。
「剣を収めてくれませんか?僕は一応一般人なんですが」
「そうかしら、あれだけ大騒ぎを起こす原因となる一般人はそうはいないわ。一体何したのあなた?潜入感はご法度なのだけど、あまり悪事を働きそうには見えない……」
「実際、悪い事をしたつもりはないんですけどね。ーーあれ?ところであなたはどれだけ事情を理解しているんですか?」
ここで疑問に思ったのは、騎士達は僕の事を捕まえようとしていたものの、イヴさんに関してはあまり重要視していなそうにしていた事だ。
馬車も止めようとはしていたが、走り去っていった後は特に追跡しようとはしていなかった。
聞いたのは、ヒュードさんといた時にある場所である物質を強奪したという情報のみ。
ひょっとしたら僕が拉致されていたイヴさんを連れ去った。ーーという事実自体は正確には把握させていないのか?
「さぁ、私は別の件でさっきこの街に到着したばかりなの。詳しくは知らないわ、ただ着いてみればスタット街はゴタついてるし、上官は人質にされているし」
「別件?じゃあこの街には僕を捕まえるためではなく?」
「ええ、偶然よ。運が悪かったわね」
彼女がいるのはたまたまらしい。
ではどちらにせよ僕の疑問は解消できないだろう。
しかしこんな時に別件とはなんだ?
一か八か、あるワードを投げかけてみた。
「別件ーー屋敷ですか?」
それを聞いた彼女はハッとしていた。
「あなた、何か知っているの?関係者?」
ビンゴだ。
「やっぱり、あなたは幽霊屋敷の調査のために訪れたんですね?」
「ーー調査?」
若干首を傾げていた。
あれ?ここで食い違うのか?どうなってるんだ?
「僕は本気でそうだと思ったんですが…ではなぜ?」
「あなたには関係ないーーと言いたいところだけど、重要物資の輸送、その護衛任務を与えられてきたのよ」
重要物資!!
その言葉が出てきた事で一瞬にして嫌な考えが頭に浮かんだ。
まさか……彼ら騎士団の言う重要物資ってそういう事なのか?
「その物資の正体は……どういう物なんですか?」
「それ、答えてもらえると思って聞いてるの?」
女騎士は睨みつけてくる。
逃走者が、重要なんて言葉が付く物の詳細なんかを知りたがるなんて、そりゃ向こうも警戒するだろう。
「いいえ全く思ってません。聞き方を変えます。あなたもその物資の詳細を知らされてはいない。謎の物体を運ぶ事になっている。そうですね?」
「ーーええそうよ、なんだかキナ臭いと思っていたけれど。もう一度聞くけど、何を知っているの?話してくれるかしら」
そう言って彼女は剣を収めた。
僕が剣を抜いていなくてよかった。
臨戦態勢で対峙していたら、落ち着いて話をする事もできなかっただろう。




