咄嗟の思いつき
さて再び体制を構え直したはいいが、走り出した馬車もまだ弓兵の射程圏内だ。
せめてあと一度凌げれば……
「弓構えぇ!!」
号令がかかり、弓兵達が矢をつがえ始めた。
「ああ!そうこうしてるうちに!?何か手立ては……」
号令を出していた指揮官が目に付いたからか、僕は思いがけない閃きをする。
この思いつきは我ながら人が悪い。
「フランさん、僕が突貫するので、ひたすら援護してくれませんか?」
「何かお考えが?あまり懸命な判断とは思えませんが……」
僕が何をしたいのかが分からないフランさんは怪訝な顔をしている。
しかし説明している暇はない。
「咄嗟の思いつきなので上手くいくかは分かりませんが」
僕はレイピアを鞘に納めながら答えた。
全力疾走するにはこうするのが一番だ。
「分かりました。お好きなタイミングでどうぞ」
一回頷いてすぐに走り始め、馬鹿正直に正面から騎士の群れに突っ込んでいく
「うおおおお!!!」
声を上げる。
今度は先ほど騎士を素通りした時とは違って、気合のあまり自然に出たものだ。
「な、なんだ?坊主が駆けてくるぞ」
「ええい止めろ!」
多勢が僕を止める事に躍起になって接近してくる。
「邪魔はさせません。ーー止水幻法・木枯らし!!!」
「うお!ナイフが!?」
す、凄い。
どういう原理だろう、フランさんが投げた数々のナイフはまるで僕の周りを囲って舞っているようだった。
止めようとした騎士もそう簡単には近づけない。
「用意整いました!!」
「よし、いいか!!次の合図で一斉掃射だぁ!」
いよいよ発射までは秒読みのようだ。
「間に合えぇ!!」
僕が狙っていたのは弓兵の号令役、指揮官ただ一人。
要は号令さえ出させなければ矢は発射されないのだ。
でもこのままでは間に合いそうになかった。
くそう、なにかないのか!!このままでは……
僕は全力で走っている。
それも割と死ぬ気で走っている。
それでも間に合わなくて、馬車が停止する羽目になったら割に会わない。
今もなお正確な援護をしてくれているフランさんにも示しがつかない。
そして何よりーーかっこ悪い。
しかし、迂闊なことに鞄は馬車に投げ入れてしまった。
いっそこのレイピアを指揮官に投げてみるか?
もしかしたらフランさんの投げナイフ並に勢いが出るかも。
どうせ安物のシルバーレイピアだ、思い入れなんてない。
でもその後が問題だ。
仮に馬車を逃す事に成功したとして、丸腰になった僕に残される選択肢など、素直に両手をあげ、無慈悲なお縄を涙目で頂戴する事ぐらいだ。
ーーと、その時僕はポケットに入っているあるものに気が付いた。
もしかしたら、どんなに役立たずに見える物でも、一か八かには使えるかもしれない。
「これでも、食らえぇぇ!!」
僕は立ち止まらずにその物体を思い切りぶん投げた。
狙いは曖昧だが、可能な限り前方の騎士達に見えるようにしたつもりだ。
「では、全員放ーー」
「うぉ!?どうどうどう……!!」
ついに号令がかかる寸前のところだった。
指揮官の側にいた騎士がたじろいだ。
「どうした!?」
「何か投げ込まれました!!」
「これはーー缶?」
遠目でマジマジとその物体の正体を確認する様子が見て取れた。
そう、正体はただのロイヤルな缶である。
宿でヒュードさんから貰った袋の中身の一つだ。
どうやら僕はあの時、袋から取り出した物をそのままコートのポケットに突っ込んでいたらしい。
「少佐!接近者です!!」
「なに…!?」
「隙あり!!」
僕は思い切り指揮官に突進すると、そのまま体勢を崩した彼に組みついて、その喉元に抜いたレイピアを向けた。
「く、貴様、いつの間に!?」
「ゼェ…ハァ…まずは弓を下させてください。周りのみんなも動くんじゃない!!」
さらにグイッと刃を当てる、もちろん傷はつけないように心がけた。
「ひ、ひぃ!中止!中止!!」
良かった。
この怯えよう、それなりに小物のようだ。
馬車はそろそろ見えなくなる、これで矢が届く心配は無さそうだ。
飛び道具の対処はできた。
さてあとは僕がどうやって退却するかだが…
騎士のさらなる懐に飛び込んだ僕は囲まれているわけで…
「はは……どうしたものかな」
状況を把握すると、つい乾いた笑いが出てしまう。
すると、フランさんが軽快に跳躍を繰り返しながら僕の背後へと飛んできた。
「お見事な走りでした。ロット様」
「フランさん…わざわざ敵のど真ん中に飛び込んで来なくても」
「馬車の防衛を成し遂げてくれた貴方様を放っておくわけにも参りませんので、性分です」
よくよく考えたら、フランさんが駆けた方が僕の何倍も確実だったのでは?
まあ、ここまで飛び込んできた事を含め、今になって言い出しても、いずれも後の祭りだ。
「まあ、とりあえず……」
僕は未だにレイピアを突きつけたままの指揮官を起こし……
「な、何をする貴様!卑怯だぞ!」
「ははは……僕もそう思います、ごめんなさい」
右腕でしっかりと体を抑えながら、左手のレイピアの刃を相も変わらず首に当てた。
要は人質である。
さっき少佐って言ってたっけ、こりゃ下手をすれば僕も大々的に指名手配だなぁ……
「フランさん。これくらいしか思いつかなかったんですが」
「いえ、最善の手です」
賛同してくれるのはうれしいけど、そこまで言い切ってくれるのか。
一息おいて大きな声で周囲に告げる。
「君たちに告ぐ!この首は君たちの行動次第だ!速やかに道を開けたまえ!」




