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破滅した悪役令嬢が田舎にやって来た  作者: バスチアン
第二章 小さな復讐者と怪物の王
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人と虫と怪物と


目の前で繰り広げられた光景にレンドは歓喜した。


(人間とはかくも凄まじい生き物なのか)


ダボンが強いのは最初から分かっていた。しかしそれだけではない。マンバナ村の戦士達の戦いは凄まじいのひと言に尽きるものだった。ダボンの猛攻で竜王の翼を折られると同時に彼らは勇猛果敢に竜王へと飛び掛かった。中でも戦士長達の活躍は目を見張るものだった。


北の戦士長のダダンは戦斧を振り回し竜王の足を切り刻んでいく。その度に竜王の動きは衰えていく。

南の戦士長のグンガは巨体からは想像もつかない身軽な動きで飛び回り、その硬い拳を竜王の鼻先に叩き込む。その度に竜王は苦鳴を上げて仰け反った。

西の戦士長のザガの射撃は執拗だった。彼は竜王の炎が届くか届かないかの距離を走り回りながら矢を放ち竜王を牽制する。もちろん弓矢の威力も無視できるようなものではない。3本同時に矢を放てる彼の射撃は竜王の翼に空いた穴を広げたかと思えば、火を吐き終えた口腔を狙撃し、ときには威力を集中させて1本ずつの射撃で指の先を狙う。

他の鬼子達の槍捌きも苛烈で、確実に竜王の肉体と体力を削り取っていく。


そして何より目を引いたのはそれ以外の戦士達だ。彼らは鬼子ではない。もちろん強いには強いが、並みの騎士よりも少し腕が立つ程度だろう。にも関わらず、鬼子達と同様勇猛果敢に巨大な竜王に迫っていく。今回の戦いで最も需要なことは竜王の飛行能力を如何にして奪うかという点だった。そのためにまずザガが虚を突いて撃墜しダボンが左翼を傷つけた。だが竜王は巨大で、その翼を短時間で完全に奪うのは難しい。その証拠にダボンは左の翼骨を損傷させたが、翼自体は竜王が前足や尾を振るう度に動いている。まだ完全に機能が停止した訳ではないのだ。

彼らは竜王に近づく間に炎で焼かれ、巨体に圧し潰されながらも、その背に到達しまだ飛行機能が残っている翼に刃を突き立てた。


「素晴らしい……」


分厚い装甲馬車から身を乗り出しレンドは呟いた。恐らく父であるザカードもかつての魔物の大氾濫で同じ光景を見たのだろう。

確かにこれは人生を一変させるほどの光景だ。

人間とはかくも、強く、勇敢で、素晴らしい生き物なのだ。

レンドは内に湧き上がる感動を抑えきれず総身を震わせた。





目の前で繰り広げられた光景にレグウェイは恐怖した。


(人間とはかくも恐ろしい生き物なのか)


それは彼の知る常識を超える出来事だった。最強の魔物である竜王。人間ではまるで歯が立たぬはずの大怪物。それを人間の形をした()()が蹂躙している。

特に異常なのはこの村の領主を名乗る男だった。あれは明らかにおかしい。炎を何度浴びても燃えず、竜王の前足を叩きつけられても潰れず、平然と動き続けて棍棒を振るう。

おかしい、異常だ、考えられない。

それはまるで地獄から現れた悪鬼のようだった。


そして領主には劣るが3人の戦士長も同様だ。並みの人間では持ち上げるのがやっとな分厚い戦斧を平然と振るい、竜王の巨体の上を一足飛びで登り顔面に拳を叩き込み、文字通り一度も休むことなく戦場を駆け回りって正面から背後から化物じみた威力の射撃を撃ち続ける。

他にも何人か異常な挙動をする戦士がおり、その中には先ほど見たガイガの姿もあった。恐らくはあの連中が鬼子なのだろう。6人の鬼子達はその槍を臆することなく竜王に突き立てている。


だが何よりレグウェイが恐ろしく感じたのは、領主でも、戦士長でも、他の鬼子でもない。彼が戦慄を禁じえなかったのは、それ以外のマンバナ村の戦士達だった。彼らは精鋭であり、確かに並みの騎士よりかは強いのだろう。だがその強さはあくまで常識の範疇でありレグウェイと同じか少し強い程度のはずだった。現に彼らの一部は竜王に到達する前に炎で焼かれ、近づけてもその巨体の一撃に耐え切れずに死んでいる。

にも関わらず、だと言うのに、彼らは決して止まらないのだ。仲間の屍を踏み越えて彼らは進む。まるで狂戦士。その在り方にレグウェイは戦慄する。

そして先頭の戦士が竜王に到達すると竜王の巨躯に腕を伸ばす。そこには矢が突き刺さっていた。それも1本だけでない。間隔は広いが何本もの矢が目印のように竜王の背に向かい並んでいる。誰が射たのかは考える間でもないだろう。最初の戦士はそれに沿って登りきるとそこに杭を打ちつけ縄梯子を下ろす。あとはもう作業だった。続く戦士達は次々と登り竜王の翼に取りついた。人数は二十には届かないだろうか。手には山刀。それがザクザクと竜王の翼に残った皮膜を切り裂いていく。


(おぞ)ましい……」


まるで砂糖菓子に群がる蟻のようだった。恐怖を感じる心がない、知性のない虫。普通の騎士より少し強い程度の、ただの人間であるはずの彼らは竜王に取りつき、貪るようにその肉を削り取っていく。それが堪らなく、気味悪く、恐ろしい。

レグウェイは内から湧き上がる恐怖を抑えきれず総身を震わせた。





土煙が舞う中、竜王は朦朧とする意識の中で空を見た。空は蒼く、所々で白い雲が溶けるように風に流れていく。見慣れた色の空。だが見え方がいつもと違う。そこで竜王は自分が腹を向けて倒れていることを思い出した。


空を飛ばねば……


すぐにでも飛ぶ必要がある。混濁する意識の中でそれだけを思い出す。

身じろぎした竜王は何とか腹を大地に向けると四肢に力を込めて起き上がろうとする。その際に翼についていた何かがポロポロと落ちて行ったが、それが何なのか竜王には思い出せなかった。彼の頭の中にある思いはただ一つ。飛んで逃げることだけだ。

それを実現させるために翼を広げようとするが、体に力が入らない。それどころか四肢で身体を支えることさえも困難だった。


動けぬ……


逃げられないという事実を認識し、少しずつ意識が戻り出す。同時に戻ってくるのは激痛と不快感だ。(はらわた)を千切られたような、喉を喰い破られたような、心臓を(えぐ)り出されたような痛みが全身を支配する。体内から熱いものが流れ続け躰は冷えていく。このままだと半刻と待たずに命を落とすことだろう。

だが、しかし――


あ、あれは……


現れた死神はその僅かな時間すら許さぬ存在だった。

樽のような体型から伸びた太い手足、丸い顔に団子鼻、目は線を引いたように細い。炎を浴びても燃えず、巨体を受け止めても潰れず、振るう一撃は強靭な竜王の生命すらも削り取る。二本足の虫(ニンゲン)の姿をした、人間(ニンゲン)とは違う生き物がそこに居た。


怪物め……


竜の言語でそう呟く。それは本来彼自身を装飾するに相応しい筈の言葉だ。だが彼は今それを恐怖とともに吐き出した。

もちろんそれは竜の言語は解さぬ目の前の怪物には届かない。ただ怪物はそれに呼応するように小さく呟いた。もちろんそれは人間の言語を解さぬ竜王には届かない。

怪物は竜王の鼻先に立つと棍棒を振りかぶり力を込める。その背後に広がる空を見ながら竜王は夢想した。


空さえ飛べれば……


空さえ飛べれば負けはしなかった。

空さえ飛べれば逃げることが出来た。

空さえ飛べればこの怪物にも勝てた。


様々な想いが走馬灯のように流れていく。

その頭上に怪物の鉄槌が振り下ろされた。


俺は飛びたいのだ――


棍棒は竜王の赤い鱗を砕き、頭蓋を陥没させながらもなお勢いを止めず、そのまま脳を粉砕する。

その直後、怪物が何かを叫んだ。

竜王との戦いの中、終始何の感情も見せず棍棒を振るい続けた怪物とは思えぬ、強い感情が凝縮されたような咆哮。しかし撒き散らかされた竜王の脳漿と脳髄は、すでに考える機能を失ってしまっていた。


周囲から(とき)の声が上がる。

飛来した竜王は戦士達の手によって倒された。

こうして竜王との戦いはマンバナ村の勝利で幕を下ろした。



『ロードス島戦記』という小説があります。言わずと知れたライトノベルの元祖のひとつであり、国産ファンタジー小説の金字塔です。ただラノベ的には古典になるので名前は知っているけど読んだことがない人も多いとは思います。ちなみにどれだけ凄い小説なのかを解りやすく説明すると


“エルフの美少女ヒロイン”


という概念を生み出したのがロードス島戦記です。本来のエルフって耳もそんなに長くないし、そもそももっと不気味なビジュアルなんです(笑)


さてそんな偉大な小説であるロードス島戦記なのですが、その中でドラゴンと戦う話があり本章はそれを大いにパクらせて……もとい参考にさせていただいています。

本作の竜王はかなり控えめの強さ設定になっていますので、竜と勇者の戦う本物の英雄譚に興味があるかたは一度ご覧ください。

「ドラゴンって強い」

「ドラゴンってヤバい」

「えっ!? そんな攻撃すんの!?」

の強いドラゴンを英雄達が退治するお話(全7巻の3,4巻に収録)です。

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耳かき小説

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― 新着の感想 ―
[良い点] ロードス島・・・懐かしすぎる ドラゴンつながりなら 「明日でよければドラゴンと戦うよ」 「それはよかった」うろ覚え 位しか覚えてないが [気になる点] >そもそももっと不気味なビジュアルな…
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