表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
破滅した悪役令嬢が田舎にやって来た  作者: バスチアン
第二章 小さな復讐者と怪物の王
91/107

竜の怯え


それは竜王にとって悪夢だった。力では大きく劣る筈の二本足の小虫により両翼を奪われたのだ。そして悪夢はそれだけでは終わらない。


何なのだ、こいつらは!


飛べなくなったと知るや二本足の小虫は自分達に向かい殺到し始めたのだ。その多くはとるに足りない塵芥だ。炎を吐けば二度は耐えれるが三度目には燃え落ちる。しかしその間で十分だった。自分よりもはるかに小さな二本足の生き物。それらが次々と竜王に攻撃を加えだす。

多くの攻撃はさしたダメージを与えることはないが、その中でも注意しなければならない連中がいる。彼がいう所の毒針を持つ小虫だ。


左頬に傷のある男は戦斧を振り回し竜王の足に叩きつける。その度に脚の肉が削られていく。

ひと際、太く、分厚い体躯をした男は、その鈍重な見た目に反して軽業師のように竜王の背に飛び乗り、長い首の上を走り、拳につけた鈍器で頭部を殴りつけていく。

右腕が異様に太い男。こいつは他の二人と違い自分に近づいてこない。その代わり飛び道具を使い執拗に翼を狙ってくる。そのせいで翼に空いた穴はどんどんと広がっていった。

十匹ほどいる毒虫の中でもこの三匹は特に手強い。


そしてさらにもう一匹。

毒虫の中でもさらに桁の違う個体が一匹混じっていた。

こいつは明らかに異常だった。何しろ炎が効かないのだ。他の小虫は3度、多くても4度炎を浴びせれば動かなくなった。だがこいつは違う。何度炎を浴びても燃えないのだ。

目の前を凄まじい勢いで動き回る猛毒の虫。瞬く間に距離を詰めたかと思うと、手に持った棍棒を叩きつける。その威力も他の毒虫とは明らかに違う。身体の表面だけでなく芯まで響く一撃。それは鱗や肉だけでなく明確に竜王の命を削っていくものだった。だから無視出来ない。意識を割かざるえない。そしてその隙をついて他の毒虫が彼の肉体を削り続けていく。竜王は巨体だ。だからこそ密着して取りつかれてしまえば炎も爪も届かない。


空さえ飛べれば――


相手は地を這うしか能のない小虫だ。空さえ飛べれば一方的に蹂躙することが出来るのだ。だと言うのに折れた翼を動かそうとすると激痛が走り満足に開かない。

目の前に毒虫が迫る。竜王は怒りに任せて前足を振るうと、その一撃は猛毒の小虫に直撃した。

如何に強くともその質量差は比べ物にすらならない。叩きつけられた猛毒の虫は弾かれた小石のように飛んでいく。だというのに――


何故、死なない??


前足の一撃に吹っ飛ばされ地面に落ちた猛毒の虫は空中で受け身でもとったのか、地面に両脚をついた瞬間にすぐに向かってくる。さっき近づいてきた別の小虫は同じ方法で赤い液体をまき散らしながら死んだのだ。だというのに、この猛毒の虫ときたら叩きつけても吹き飛ばしても死ぬ気配がない。そして叫び声一つ上げず、静かに黙々と攻撃してくるのだ。

竜王は恐怖した。

最強の存在としてデザインされた自分が今、毒虫達に殺されようとしている。その事実を意識せずにはいられなかった。


こうなれば――


逃げるしかない。

プライドを押し殺し竜王は決心した。幸いにも左翼は完全に折れた訳ではない。激痛さえ我慢すればある程度は動く。翼も穴だらけだが、まだ無理をすれば飛べる筈だ。

悔し気に唸る。

しかしこの時にまで至って竜王は未だ気づいていなかった。恐ろしいのは毒虫だけでない。始まりは背中に生じた何かが蠢くような違和感だった。


何だ?


毒虫達の攻撃とは明らかに違う感覚に戸惑いながら長い首を巡らせ背中を見ると、その光景に竜王は絶句した。

そこにいたのは猛毒の虫と恐れたダボンでも、毒虫と警戒した鬼子達でもない。彼が小虫と馬鹿にしていたマンバナ村の鬼子ではない普通の戦士達だった。その数は見えるだけで10人以上。それらが両翼に取りついている。

背中には杭が撃ち込まれ、そこから縄梯子(なわばしご)が伸びていた。鬼子のように一足飛びで駆けあがれぬ彼らは、そこを入り口にして一歩一歩登ってきたのだ。

彼らが持っているのは大ぶりなナイフである山刀だ。そしてそれはすでに太い右腕の毒虫によって穴の開いた翼に向かい振るわれる。

ザクザクと翼に張った皮膜が切り裂かれていく。その感触に竜王は狼狽する。このまま翼がズタズタに切り裂かれてしまえば、もう飛んで逃げることは出来なくなる。

満足に翼が動かせぬ以上、即座に振り払うことは難しい。竜王の決断は早かった。背を地面に向け勢いよく転がったのだ。

上向きに寝る。翼のある彼がこういった姿勢をとることは滅多にない。しかし翼に取りつく小虫を一気に駆除するには、これが最適解だ。猛毒の小虫と違い、ただの小虫は彼の巨躯に圧し潰されれば生き残ることが出来ない。

大きな音と共に土煙が舞った。


あとは飛ぶだけだ。


翼の折れた激痛にさえ耐えればまだ飛べる。

天を仰ぎながら竜王は考える。しかしここでも彼はまだ考え違いをしていた。もっともそれも仕方がない。今彼が見せている上向きに寝る。すなわち腹を見せるという行為は、獣が敗北を認めたときに見せる行為であり、最強の存在である筈の彼が今まで行ったことのない行為だったのだ。

それが竜王の運命を決した。

土煙が収まるよりも早く六人の槍を持った男達が竜王の腹に飛び乗ったのだ。


身の丈を超える長大な槍を持った六人の戦士。彼は知らぬが村の中では鬼子と呼ばれる戦士だ。それぞれが並外れた巨躯の持ち主で尋常ならぬ覇気を発している。彼らは銘々に叫び声を上げると竜王の腹に向かい槍を突き立てた。


同時に首の上に立っていたのは左頬に傷のある男だった。その手に持っているのは身幅の広い戦斧だ。男は深く息を吸う。それは渾身の一撃を繰り出す前の予備動作だ。身体に取り込まれた外気は血液に取り込まれ、全身を巡り、体内を気で満たす。男は戦斧を振り上げると、その気を全て放出するように雷鳴のような怒号を響かせ戦斧を振り下ろした。


二人の男が立っていたのは胸の上。大抵の生き物ならば心臓のある場所だ。両手に手甲をつけた肉厚な男は全身から熱気を発しながら拳を構える。相対するのは異形の右腕を持つ男だ。彼は先ほどまで手にしていた弓を捨て、拳に(びょう)を打った革紐(かわひも)を巻きつけていた。向き合った二人の益荒男(ますらお)は同時に拳を構える。それはかつて彼らが地竜の甲羅を叩き割った時と同じ所作だった。互いに目を合わせることはない。そんなことをせずとも相手の呼吸は知り尽くしている。拳を渾身の力で固めた後、ほんのわずかに緩める。それが振り下ろされるのは六人の戦士達と、傷の戦士長達が各々の武器を叩きつけると同時だった。

全身から熱気を発しながら、右腕の筋肉を隆起させながら、二人の拳は竜王の心の臓に向けて叩きつけられた――――



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
耳かき小説

他にもこんな小説を書いてます
狂婚 -lunatic fairy tale-

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ