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破滅した悪役令嬢が田舎にやって来た  作者: バスチアン
第二章 小さな復讐者と怪物の王
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竜の焦燥


竜王は混乱していた。群れの中心と思しき荷車に突貫をかけようとした瞬間、飛来した何かに胸を撃たれて墜落したのだ。


()せない。


彼は個体として最強の生き物だ。それを彼自身は本能的に理解している。二本足とは比べるべくもない巨躯。空を飛ぶ翼。炎の息は大抵の生き物を焼き殺すことが可能だ。にも関わらず、今自分は地面に墜ちている。


いいだろう。


彼は先ほどのこだわりを捨て、ただ勝つための決心をする。飛んで火を吐く。それだけでこの二本足の小虫は対応出来ずに潰走するのだ。散り散りに逃げられれば全て殺すことは叶わないが、今はそれでいい。以前は適当に燃やしただけで見逃したが、もう少し飛べば二本足達の巣がある。逃げた小虫どもは、どうせそこに帰るのだろうから、そこも完全に焼いてやる。

そう決心して翼を広げる。だがその決心は少しばかり遅すぎた。彼が翼を広げたときだ。つんざくような風切り音が聞こえ、何かが自分の右翼を貫いた。

その痛みに彼は苦鳴の咆哮を上げる。同時に飛びたとうとしていた巨体がガクンと傾いた。

皮膜の張った蝙蝠(こうもり)のような翼。そこに穴が空いている。だがまだ飛べないほどではない。そう判断し再び翼を広げようとする。しかし彼はまたも飛びたつことが叶わなかった。それを成したのは空に広がる無数の影。バリスタからの一斉斉射だ。

竜王には知る由もないが、レンドはザガに迎撃の準備をさせると同時に墜落予想地点を半円で囲むようにして陣を配置していたのだ。そして空を飛ぶ敵に向かって弧を描く矢より、地に伏す的に一直線に進む矢の方が圧倒的に速い。

竜王は身をすくませる。先ほどの胸を射抜いた痛烈な一撃を思い出したのだ。

バリスタの矢が竜王に到達する。先ほどのバリスタからの攻撃よりも明らかに勢いがあるものの、それでも何とか鱗に刺さり肉に届く程度だ。


小賢しい。


竜王は怯んでしまった自らを恥じた。そうして必勝の型を思い出す。

飛びさえすれば勝てるのだ。

飛び交う小さな矢は鬱陶しいものの、彼の飛翔を邪魔するほどではない。だが彼は気づかなかった。ザガの射撃とは違い。今の一斉斉射はただの目くらまし、時間稼ぎ。そして気づいたときには遅かった。


その男は竜王の背の上に立っていた。大柄ではあるが、まだ成人する前の少年だ。樽のような体型に太い手足。顔は丸く、団子鼻で、目は線を引いたように細い。手には棘つき鉄球のついた棍棒が握られている。マンバナ村で最強の男、ダボンだ。

ちょっとした屋敷ほどの大きさがある竜王の上では、巨躯のダボンとはいえまるで栗鼠(りす)のようだ。だからこそ竜王からすれば、背中に何かが乗っているという程度の感覚だったのだろう。気にすることもなく翼を広げるために背に神経を向ける。

ダボンはそれに視線を向けながら棍棒を握りしめた。視線の先は翼の付け根だ。背の一部が盛り上がり、そこから帆船のマストのように翼骨が伸び、帆のように皮膜が張っている。


ダボンは双眸(そうぼう)に興奮も怒りも湛えぬまま、無表情に棍棒を握りしめ振り上げる。振り下ろされたのは左翼の翼骨の根本だ。

轟音が響く。それも一度ではない。何度も何度もだ。

それは竜王の感じたことのない感覚だった。最初の一撃で全身が痺れあがり動きが止まる。その感覚の正体が痛みだと感じたのは続いて叩きつけられる打撃音に気づいてからだ。


何が起きている!??


意味も解らぬまま飛びたとうと翼を広げる。しかしその時にはすでに凶行は終わっていた。

背に激痛が走り左翼が上手く広がらないのだ。


馬鹿な!!


生物として格下である小虫に翼を奪われる。その事実に竜王は驚愕する。大空を舞うための右翼は射撃により穴が空き、左翼は棍棒による打撃で圧し折られだらりと力なく垂れさがっていた。

背に乗るダボンはそんな竜王を無感情な顔で見下ろしていた。その足元には(おびただ)しい血だまり。側では先ほどまで真っすぐに伸びて竜王の右翼を支えていた翼骨が白い本体を剥き出しになっていた。完全にふたつに折れた訳ではないが、まともに動かすことは難しいだろう。

竜王の青黒い返り血を浴びたダボンは手元に視線を向けるとそこには柄の部分で折れた棍棒が握られている。かつてルナ家の当主であるザカードから送られた特別な合金で鍛造された棍棒であったが、翼骨の強度とダボンの剛力に耐え切れず、へし折れてしまったのだ。

ダボンはやはり無感情に柄を捨てる。戦うには武器がある方が効率的だ。幸いにも武器には予備がある。ザカードからもらった棍棒は2本あり、以前使っていたやや短いものだ。ダボンは周囲の気配を探ると、すでに次の行動は起こされている。ならば無理に継戦する必要はないだろう。ダボンは躊躇することなく竜王の背から飛び降りる。

狩りは無慈悲に着々と進み続けていた。



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