傍観と牽制と奇襲と
「お~っ、スゲー速さの矢だな」
竜王を襲うバリスタの第一波を見ながら大男は声をあげる。肉厚な男だった。だが肥満と言う訳ではない。がっちりとした骨格が高密度な肉で覆われており近づくだけで熱を感じるような男だった。南の戦士長であるグンガだ。彼の側にもバリスタが一基。竜王からは距離があるため、まだ矢じりは放たれてはいない。
「あ~、でもほとんど刺さってねぇな」
「戦士長、見えるんっすか?」
グンガの側にいる若い戦士が尋ねる。空を舞う竜もそれを襲う無数の矢も、もちろん見えるのだが如何せん距離が遠すぎて、その矢が刺さっているかどうかまでは分からない。向かっていった矢がボロボロと落ちていることから刺さっていないと判断しているのかとも思ったのだが、その割には妙に確信を持っている。
「ああ、見えるぞ。いちおう何本か刺さっているんだが浅そうだな」
「そうっすか……」
目を凝らせばひょっとしたら見えるかもと淡い思いを込めて目を細めるが、彼の目にはそこまで詳しい状況は判らない。やはり鬼子の身体能力は格別らしい。
「おっ、火を吹きやがった」
「すげぇ、火っすね」
「ああ……」
青ざめる若い戦士だが、見えているグンガは何でもないように答えた。
「だが、効いていないな」
「マジっすか!?」
「ああ、さっき使ってもらった水の魔法のおかげだろうな」
彼の見る限り竜王の炎は水の魔法によって作られた皮膜によりほとんど効いているようには見えない。
「へぇ~、魔法ってスゲーんですね」
「回数制限があるようだから、あんまりバカスカ浴び続けたらヤバいんだろうけどな。あとは距離か……」
吐き出された炎の帯の形状を見るに竜王は射程ギリギリで放っている。ここさらさらに距離を詰められると、同じ結果になるとは限らないだろう。だがそれはこちらのバリスタと同じことだ。
「……ここまでは若様の読み通りだ。おい、ボケっとするなよ」
「ウス」
グンガは太い腕を組む。その両の拳は金属で覆われていた。手甲の一種だ。通常武器と言うと剣や槍といった長物だが、グンガはこれを好んで使っていた。自らの剛腕をダイレクトに叩きつけることが彼の性格にあっているからだ。
グンガは再び戦場に視線を向けると、竜王はやや高度を下げて口腔から次撃を放っていた。
「ほう……耐えたな」
先ほどよりも激しい火炎にも水魔法の皮膜は耐えた。しかしそれは竜王も同じことだ。放たれたバリスタの第二射も明らかに刺さり方が浅い。
「刺さってないっすか?」
「ああ、竜王も慎重だな」
「そりゃ、一方的に攻撃出来る方がいいっすからね」
やっているのは距離の刺し合いだ。竜王は一方的に炎の息で焼き尽くしたい。マンバナ村の戦士達は一方的にバリスタで射殺したい。幾度か炎と矢が飛び交い合い、互いの思惑が空で交錯する。
その内に竜王が勝負に出た。
「おっ、次は一気に急降下か」
痛い所を突かれたなとグンガは考えた。
竜王は陣形を切り裂くつもりだ。バリスタには欠点がある。それは真上に放てないことだ。そもそもが動かない城壁や敵の陣地に向けて放つ兵器なのだから上に撃つ必要がない。おまけに動き回る的を狙うようにも作られていない。そのためにもこちらはレンドの指示で戦車が走り回りバリスタを攻撃しやすい位置に移動させている。その布陣が乱れればこちらの矢は一気に届かなくなる。
竜王はさらに高度を下げる。それを見てグンガは嗤った。
「残念、場所が悪かったな」




