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破滅した悪役令嬢が田舎にやって来た  作者: バスチアン
第二章 小さな復讐者と怪物の王
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戦士長と妻と昔話と


皿の上に大ぶりの肉がのっていた。鬼鹿と呼ばれる魔物の肉だ。足の長さだけでも女性の背丈ほどもあり、大の男を蹴り殺せるほどに強靭な脚力を持つ。その凶暴な魔物の足が今、大男の口の中へと運ばれていた。食べているのは南の戦士長のグンガだ。

大ぶりな肉は彼の妻達によって薄く切り分けられ、次々に取り皿の上に並べられる。それをグンガはフォークで2~3枚ずつ突き刺しては口の中へと放り込む。

咀嚼しては飲み込み、また放り込む。


「旨いな」


次々と平らげていく。香草の薫り、肉の脂の甘味、岩塩の塩味とその裏にある雑味、それらを味わいながらグンガは食事を楽しんでいた。肉の塊を妻の一人が切り、別の一人が並べ、さらにもう一人が彼の元へと運ぶが間に合わない。肉がなくなった合間に食べているのは鉢に入った麦粥だ。それをまたスプーンで掬って食べる。


「ふぅ……」


さらに別の妻が杯についだのは酒ではなく水だ。グンガはマンバナ村の戦士達の中では珍しく酒を好まない。飲めない訳ではないのだが、好きではない。飲んでいるとすぐに料理の味が分からなくなるからだ。

巨大な肉の塊が全て切り分けられ彼の腹の中に消えたタイミングで、最も年嵩(としかさ)な五人目の妻が茶を持ってくる。


「ん?……これは」

「今日は機嫌が良いみたいだから、良いお茶をと淹れてみたの」

「悪くねぇな」


以前はマンバナ村に流れて来ることのなかった若い物だけを手摘みしているという上質の茶葉だ。やや渋味が強いのだが飲み終えた後、舌の上にほのかな甘みが残る。


「前よりも旨いな」

「ゼベさんに淹れ方を教わったのよ」

「それでか」

「そうよ、あんまりしつこく誘ったら迷惑でしょ?」


食道楽のグンガはダボンの侍女であるゼベを何度も引き抜こう声をかけているのだが、彼女は頑として首を縦に振らない。辺境に逃げのびて来た自分と亭主を拾ってくれたダボンの祖父に恩義を感じているからだ。


「それで昨日の話合いについてきたのか」

「そうよ。ダボンの所での話合いも良い方向に進んだみたいね」

「まぁな。悪くねえ。三日後にはマンバナ村の戦士がルナの騎士団を引き連れてでっかい竜を狩るんだ。しかも昔爺さん達が自慢げに話していた竜王が相手だ。腕が鳴る」

「アンタがそんな顔をするの久しぶりね」

「そうか?」

「そうよ、ザガが相手をしてくれなくなってから、狩りに行っても、前ほど楽しそうな顔はしなくなったもの」

「何だとっ!」


ザガの名前を出されてグンガは気色ばむも、長い付き合いである妻の言葉に結局押し黙ることになる。そんなグンガの様子に周囲の四人の妻たちもクスクスと笑い出した。そんな妻達を見てグンガは鼻を鳴らした。


「ふん、いつまでもガキみたいな真似が出来るか」

「確かにこんなに身体の大きな子どもはいないわね」


そう言って、彼女はグンガの大きな身体を眺めて笑う。続けて四人の妻達も楽し気に笑う。グンガは渋い顔だ。


「まぁ、ザガがつまらなくなったのは確かよね。グダンダさんに言われて、ダボンの面倒を見るようになってからかしら?」

「そうだよ。あの野郎、急に偉ぶりやがって、気に入らねぇ」

「別に偉ぶってはいないけど……まぁ、でも今のアイツは退屈なのよね。だからアンタと結婚したんだけど」


そんな並ぶ二人を見て、食器を片付けていた一番年若い妻が不思議そうに尋ねる。シルフィーよりも若い、まだ少女と言っても差し支えない年齢の娘だ。


「昔のザガさんはそんなに雰囲気が違ったんですか?」

「ああ、アンタはそりゃ知らないわよね。昔はもっと、こう……無茶するヤツだったのよ。子どものときはよくグンガと一緒にダダン(オヤジ)さんに殴られてたわ」

「へぇ~、そうなんですね~。じゃあ~」


自分の知らないグンガのことを聞くのが楽しいのか彼女はさらに質問を重ね、残った妻達もグンガの子ども時代を訊いてくる。

初めての狩りに行ったときはグンガもザガも勝手に飛び出して、ダダンに顔の形が変わるくらいボコボコに殴られて帰ってきたこと。

グンガが首にかけている戦士の首飾りはひとつの魔石を半分に割ったもので、残りの半分はザガの首飾りになっていること。

大山脈から大きな地竜が降りて来た際、二人で力を合わせて甲羅を叩き割り見事に退治したこと。

ザガがダボンの面倒を見るようになったのに加え、その後に飢饉があり、それから自然と競い合いが減っていったこと。

その後に自分がグンガと結婚したこと。

話が進むにつれ、残る四人の妻達が「そこで自分は声をかけられた」などと言いながら(かしま)しく語り合う。それをどこか他人事のようにグンガは半眼で眺めるのだが、最初の妻のひと言にその目が大きく開かれることになった。


「ねぇ、グンガ。今回の狩りが終わったら、たぶんオヤジさんは戦士長を辞めるわよ」

「だろうな。オヤジさんも年だからな」

「そしたらさ、ザガとまたやるんでしょ?」

「もちろんだ。アイツが西の戦士長になったせいで、俺の方が弱いみたいな感じになっちまってるからな。その辺はキッチリしとかねぇとな」


獰猛(どうもう)に笑う。肉食獣のような笑みだった。それを見て彼の妻達も頼もし気に笑う。


「まぁ、だが今は竜王狩りだ。今回の狩りはオヤジさんの引退記念でもあるからね、ド派手にぶちかましてやるぜ!」


まるで空を飛ぶ竜王が見えているかのように天井を睨み拳を突き上げる。指が太く分厚い皮で覆われている。巨岩のような肉体を持つ彼に相応しい石巖のような拳だ。その勇壮な姿に五人の妻達はめいめいにしな垂れかかる。グンガは豪快な笑みを浮かべると彼女達をまとめて抱き寄せた。



ザガとグンガとグンガの奥さんは三角関係でした。グンガ達は知りませんが、とある事件があってからザガは少しだけ性格が変わっています。

それ以降ザガと二人はちょっと疎遠になってしまい、その流れでグンガ達は結婚しています。ちなみにザガは今でも彼女のことがちょっと好きだったりします。


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