表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
破滅した悪役令嬢が田舎にやって来た  作者: バスチアン
第二章 小さな復讐者と怪物の王
78/107

軍議


マンバナ村にある領主の屋敷。数カ月前に作られた執務室の中に四人の巨漢が向き合っていた。

一人目は西の戦士長ザガ。ただでさえ巨躯だというのに、右腕の太さが左腕と比べて明らかに太い。異形の右腕を持つ男だ。

二人目は北の戦士長ダダン。落雷のような怒声は気弱な者なら腰を抜かしてしまうだろう。左の頬に傷は如何にも歴戦の戦士と言った風情だった。

三人目は南の戦士長グンガ。この男も巨躯だが、その中でも横幅が広い。密度の高い肉を鎧のように纏っており、まるで巨岩のような趣の男だ。

そうして最後はダボン。この三人の益荒男達がまとめてかかってきてもまるで敵わない。この村で最強の男だった。

鬼子と呼ばれる、この村の中でも隔絶した戦士達。そんな四人の超人達を前にしてレンドは一通りの説明を終えた。竜王を倒すための作戦概要だ。もっとも大まかな内容は先日各集落を訪れた際に説明しているので、この会議はあくまでも意思統一を確認するためのものに過ぎない。


ザガもダダンもグンガも竜王退治には大いに乗り気だった。彼らは生粋の戦士であり、強敵を前に奮い立っているのだ。ただダボンだけはいつもと同じ様子で気負った雰囲気はなかった。戦いは彼にとって単なる作業であり、特段好きでも何でもないのだと、レンドはシルフィーから聞いて知っていた。そしてそんな好悪は勝敗には一切関係がない。好きでなかろうと何であろうと、彼は棍棒を振るいあらゆる敵を粉砕する。


(だからこそマンバナ村の戦士達は、彼に絶対の信頼を置いている)


レンドは横目でダボンを見る。

相変わらず表情が読みにくい顔だった。彼がレンドの申し出を断ったのは昨日のことだ。この話はまだ妹にも伝えていない。

油断していなかったといえば嘘になるだろう。ここ数日で四つの集落を巡ったレンドだが、どの集落でもシルフィーや彼女のもたらした変化は歓迎されていた。酒や食事の質が上がった。衣料品や薬が流通するようになった。皆がそう口にしていた。


(うま過ぎる話だと警戒されたか?)


ダボンが()詰めで考える人間だと知っていたから、()を差し出せば了承してくれると思い込んでいた。しかし彼は利では動かなかった。

レンドの説明を聞くダボンはいつもの仏頂面だ。だが彼はこの顔が苦々しく歪み、懊悩しながらレンドの提案を断ったことを知っている。


(そうなると他の、何か感情的な理由か……)


そうなると今すぐに説得というのは難しい。竜王との戦いは二日後。互いに忙しいことを考えると、それまでに説得するのは難しいだろう。


(シルフィーの力を借りれば何とかなるのかもしれないが……ここで頼るようなら、この村に来た意味はない)


ここに来てまで妹の力を借りるのには抵抗があった。もちろん有効な手段があれば何でも使うべきではあるのだが、対価(コスト)が釣り合わないとレンドは考えた。この場合のコストとは彼の今後の人生だ。ここが意地の張り所だとレンドは考えた。


「ルナ家からは907名の兵を出そう。工兵が78名、騎兵が102名、歩兵が305名、魔法兵が285名、その他後方部隊が137名だ。マンバナ村からは戦士が約400名、そして傭兵として他所から流れて来た戦士達が114名。合計で約1400名。いやはや一体の魔物を倒すのにこれほどの数を準備するのだから竜王というのは恐ろしいものだね」

「若様、解ってると思うが――」

「もちろん、解っているさ。竜王と戦うのはあくまでもマンバナ村の戦士達だ。バリスタを扱う工兵や魔法兵はあくまで補助。歩兵の多くはそれらの護衛に当てる。余所者の戦士達は竜王との戦いに他の魔物達の邪魔が入らないための露払いだ」

「ならいいさ」


満足げにグンガは頷く。ダダンや普段は意見の合わないザガやも同じようだった。

そうして軍議が一通り進んだとき「そう言えば、姫様の具合はどうだ?」疑問を口にしたのはザガだった。短期間で四つの集落を巡り戻って来たのが三日前。強行軍が祟ったのか、シルフィーが熱を出して寝込んでしまったのだ。

答えたのはダボンだ。


「大事をとって大人しくするようにしているけど、もう問題ない」

「そいつは良かった」

「まったくだ。姫様に倒れられたら、儂らも安心して戦えねぇ」


その答えにザガは安堵しダダンも追従する。ダボンや戦士長が竜王との戦いの要ならば、シルフィーは戦いが終わったあとの戦後処理の要だ。多くの怪我人が出ることが予想される戦いの後において、優秀な治癒魔法の使い手であるシルフィーの力は必要となる。そうでなくとも傷ついた戦士に彼女がひと言労いの言葉をかけるだけで多くの者は感涙し、さらなる忠誠を彼女に誓うだろう。

本当ならば戦いの場で戦士達を鼓舞すればより士気は上がるのだが、そんなことは誰も口にしないし思ってもいない。王国では女性を戦場に立たせることは恥であり、マンバナ村もその例外ではない。もしも誰かがそんなことを口にすれば、それこそダダンが「戦士の矜持を汚す行為だ!」と激昂するだろう。


「戦場には19名の治癒魔法の使い手を連れて行く予定だ。とはいえ、シルフィーほどの使い手はルナ家でもすぐには準備が出来ないけどね」


半分嘘を交えてレンドは言う。シルフィーは優秀であるが天才ではない。もちろん本物の聖女のような例外を除けば同年代ではトップではあるが、それはあくまでかつていた学園基準での話。一人前と言っても良い腕前はクリアしているが、それでも甘く見て一流半といった所だろう。ただ、そもそも一流の人間というのはそうはいない。ましてや戦闘もこなして治癒魔法も一流となるとさらに数は少ない。実際に今回従軍する戦力の中でシルフィーの腕前に並ぶものはいても超えるものはいなかった。


「そりゃ、そうだろう」

「さすがは我らが聖女様だ……とはいえ、うちの馬鹿どもにもシルフィー様に癒して欲しくてわざと怪我をしねぇように念を押しておかないとな」

「ザガ……お前んとこもか」

「まぁな。オヤジさんのとこもそうなんじゃねぇか?」

「そうだな……普段なら骨が折れたくらいじゃ、次の日も狩りに出るような奴らが、ちょっと痣が出来たくらいで姫様に看てもらいたがりやがる」

「やれやれ、我が妹君は何とも人気者だね。僕も兄として鼻が高いよ」


魔物を素手で捻り殺す益荒男(ますらお)たちがこぞって妹を慕う様子を見てレンドは笑う。だがその笑みはどこか苦々しい。


(今はこれでいい。まずは連れて来た手勢でマンバナ村の戦士達に花を持たせて竜王を倒す。シルフィーの手を借りるのは、その後でも遅くはない)


居並ぶ戦士達を見てもう一度決心する。

竜王との戦いは残り4日に迫っていた。



作中でダボンは村人から「ダボン様」と呼ばれたり「ダボン」と呼び捨てにされたりと、複数の呼称で呼ばれています。マンバナ村は戦士が上位の社会構造になっているのですが、戦士間での上下関係は割とフランクです。

ただダボンはダダンの台詞の中にあった通り「言い伝えにある始祖様そのもの」と言われており、畏敬の念を込めて年長の戦士達からも「ダボン様」と呼ばれることが多くなっています。


読んでみて面白いと感じた方は、ブックマーク、感想、評価など、よろしくお願いいたします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
耳かき小説

他にもこんな小説を書いてます
狂婚 -lunatic fairy tale-

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ