守銭奴と浪人と
男は頭に巻かれた包帯を見て、レグウェイ達は色めきだった。
「どういうことだ?」
「金を出せだと?」
「その怪我は本当に!?」
レグウェイ達は口々に言う。その様子を疎ましく思いながらもダボンは懇切丁寧に説明した。
「その方の言ったままです。僕と手合わせしたければ金銭を要求します。恐らくその方は支払いを渋った上に、兵舎で問題を起こしたんじゃないですか? 貴方の報告はちゃんと聞いていますよ。本来なら暴行を働いた犯罪者として処断してもいいのですが、ここは辺境の小さな村なのです。裁判をしたり、拘留するような余裕もありません。ですから重傷者でもでない限りは喧嘩程度の罪は不問にします。それとも正式な裁判をお望みですか、ジンバ流のダガーさん」
名を呼ばれダガーと呼ばれた包帯の男は顔色を青くする。代わりに声をあげたのはレグウェイだった。
「いくら支払えばいいのか?」と問いかけたのでダボンは金額を告げる。その額を聞きレグウェイ達は仰天した。
「馬鹿な! そんな法外な金額を……」
「そうは言っても、この勝負を受けて僕に何の得があるんでしょうか?」
「ア、アンタは武人として力試しはしてみたくないのか?」
「僕はただ強いだけで、別に武人というわけではありません。そんなことを言われても……」
心底困ったように頬を掻き言い切った。
「だから金銭くらいはいただけないと困ります」
「しかしだからと言って、この金額は……」
「では魔石で支払ってくれても構いません。ダガーさんはすでに兵舎で聞いていると思いますが、魔物を狩って、その分の魔石を一定割合納めて下さい。一定額を納めていただければ、皆さんの言う立ち合いにも応じましょう」
ダボンの提案にレグウェイは言いあぐねる。そして男たちは異口同音に反論しようとしたとき、黒髪の美女がさも意外そうに言い放った。
「あら? それほどお高い金額かしら?」
「そんなこと決まっている。一家が三カ月は食っていけるような金額だろうか!」
「ああ、そうね。平民の貴方からすれば少し高いかもしれないわね」
ほんの僅かに唇の端を上げ、長い黒髪を指先で弄んで見せる。ただそれだけでまるで目の前の男どもを見下したような印象を与える。計算された動作だった。その様子を見て男の一人が「黒薔薇の魔女」と口にする。
「そもそも貴方たちは勘違いをしているわ」
「何だと?」
「ダボン・ルナはこの村の領主であり、ルナ家の人間なの。本来ならば突然に現れて手合わせしろだなんて失礼極まりないことなのよ。そこはお分かりかしら?」
「ルナ家だって!?」
ルナ家の名を出され男たちは押し黙る。あの一件以来ダボンはルナ家に迎えられダボン・ルナを名乗っている。ダボンが王都で暴れた事実は知っていても、詳しい話は知らないらしい。
かつての権勢は失ったとはいえルナ家は四大貴族一角だ。その大看板を掲げられレグウェイ達だけでなく、ダガーも沈黙する。その後、何か言おうとするものの、結局何も思いつかなかったのか悪態をつくことさえせずすごすごと引き下がった。
その背中を見てダボンはげんなりと言った。
「いつも思うのですが初対面の相手にいきなり立ち会えだなんて、あの人たちはどういうつもりなんでしょうね」
「自分の都合しか考えていないのでしょうね。見た所、浪人みたいだったから、ダボンを倒したと喧伝してどこかに仕官しようとしているんじゃないかしら?」
それとも純粋に武人として自分の力を試したいのかもしれないが、やはりダボンには理解出来なかった。彼は生まれついて強く、鍛え上げて強さを確かめるという行為に共感を持つことが出来ないからだ。
そもそも戦いは勝たなければ意味がない。そして勝ちたいならば個人の技術を高めるよりも複数人で囲む方が容易く、如何にしてそういう状態に持ち込むのかが重要だとダボンは考える。一対一の試合で勝ちたいというのは単なる個人的な趣味であり、勝利のための不純物なのだ。
「もっともたまたま兵舎に居合わせた戦士にやられているようじゃ、まるで話にならないけれど」
「それには同感ですね。レグウェイさん達はどうかは知りませんが、先のダガーさんは僕と同年代の若い戦士にあっさりと押さえつけられたと聞きましたから」
「やっぱり大したことないのね」
「そうとは言えません。比較対象が少ないので断言出来ませんが、マンバナ村の戦士達は1対1で戦っても、王国の一般的な騎士より強いという印象がありますから――」
急に言葉の止んだダボンを胡乱に思い、シルフィーは彼の顔に視線を向ける。すると糸のように細いダボンの目が細められ、一人の少年を追っていた。それは先ほど傭兵崩れの中に混じっていた少年だ。
10歳を超えたか超えないかという年齢だろうか。軽装の皮鎧に、腰には小剣を佩いている。薄い茶髪をした少年だった。
「あの子がどうかしたの?」
「いえ……」
ダボンは首を横に振るのだが、少年はどんどんとシルフィー達に近づいてくる。その視線はまっすぐにシルフィーに向けられていた。
(あら? でも、あの子……どこかで?)
既視感に襲われる。少年の姿がいつか見た誰かと重なる。だが、それが誰なのか思い出せない。
困惑するシルフィーに向かい少年は歩を進める。そしてその距離が3歩となった時、少年は口を開いた。
「お前がシルフィー・ルナだな」
強い口調であるが、その声はまだ声変わりする前の子どものものだ。シルフィーは戸惑いながらも「ええ」と肯定する。次の瞬間だった。
少年の口から怒声と思しき掛け声が放たれると、小剣の刃が銀光を照り返しながらシルフィーの心臓目掛けて抜き放たれた。
ダボンの苗字がマンバナからルナに変わっているのですが、殿様から苗字を与えられたくらいの感じがご理解ください。加えてダボンが自らルナ派閥に属しているのを宣言することでシルフィーを守ろうとする意味合いもあります。あと、彼は名誉とか栄誉に憧れがあるので、そういうのに弱いというのもあります……う~ん、ちょっと苦しいかな?
あちこちと脇の甘い本作ですが、興味を持っていただけた方は、ポイント評価、感想、ブックマーク登録など、お待ちしております。




