表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
破滅した悪役令嬢が田舎にやって来た  作者: バスチアン
第一章 悪役令嬢と野豚の騎士
21/107

【準備】


出会ったばかりの頃、ガランはシルフィーに言った。


「でも兄ちゃんは勉強は大人になるための準備だって言うんだ」

「そう、準備……ね」

「うん、変な話だよなぁ。同い年で勉強なんかしてるのはオレだけなのに」

「でも、ガランちゃん、準備……準備することは大切なことなのよ」

「そうかなぁ」

「準備することはとっても大切なのよ世の中何があるのかわからないもの」


その後、彼女はガランの祖父や、さらにその祖父を例に出し、彼に興味を村の歴史に興味を持たせるように誘導した。ガランの勉強嫌いが治ったわけではないが、それでも彼はバンの授業を受けるようになった。





狩りからダボンが帰って来たある日、ダボンはシルフィーに言った。


「今回は疲れたよ」

「あら? ダボンがそんなことを言うのは珍しいわね」

「今回の狩りは若い子を連れて行きましたから、いつもよりも気を張りました。しっかり準備したつもりでしたが、毎回どうしても予想外のことが起こるので」

「準備……ね」

「大切なことなんで気を使っているんですが、全てに対応するのは難しいですね」

「そうね……どれだけしても限界はあるもの。大切なことなんだけどね」

「ええ」


シルフィは頷いた。

それは彼女の考えと合致する言葉で否定する理由がないからだ。





村にやって来た彼女が手慰みに始めた教師の真似事が思う以上に上手くいき、バンやダボンと歓談していたときのことだ。


「ミンとリンはなかなか見どころがありますな」

「ええ、二人とも頑張っているわ。ちゃんと仕事は手伝えているかしら?」

「はい、今のところは十分ですな。数を数えて教えてくれるだけでも役に立ちます。後は仕事の準備ですな。これをやってくれるだけでもはかどりが違いますわい」

「そう、準備……ね」

「はい、やはり年をとるとあちこち行って実務をこなすのがしんどくなってきますからな」

「なら良かったわ。準備することはとても大切だもの」

「そうですな。とはいえ、まずはそれで十分。帳簿はおいおいという事で……ワシの方でも少しずつ教えていきましょうかな」


その後は何と答えただろうか。

確か自分も実務に関わってみようか。そんな調子のいいことを彼女は言っていた。





準備は大切だ。

彼女は何度もそれを口にする。

なるほど準備することは大切だ。あらかじめ危機に対して備えておけば、いざという時に適切な対応がとれる。だから彼女はこれまでの人生の中で危機に対する備えを怠らぬよう準備し続けていた。

優雅にお辞儀をしてみたり、楚々とした仕草で歩いて見せたり、舞踏会では男性を立てるように踊って見せたり、貴族の令嬢として恥ずかしくない教育と躾をシルフィーは受けてきた。


勉強、魔法、礼儀作法、準備に膨大な時間と労力を費やした彼女は同世代が相手なら無敵だ。大抵の勝負には負けなかった。だから彼女は準備することの大切さを誰よりも知っている。自分が勝つのは天才だからではなく、勝てる環境を作るために準備を怠らなかったからだ。


準備することは大切だ。


ただ彼女はもうそれを信じてなどいない。

彼女の準備を怠らない人生は、幸運や不運の前には歯が立たず、たった一度の失敗で何もかもが引っくり返されたからだ。



「じゃあ、ダボン。貴方に宮廷の作法というものを教えてあげるわ」

「助かります。そういうものとは無縁の生活をしてきましたから。正直、どんな振る舞いをすればいいのか見当もつかなくて」

「大丈夫よ。あらかじめ準備していれば大抵のことには対応出来るわ」

「そ、そうですよね」

「ええ、準備することは……とっても大切だもの」




準備/了


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
耳かき小説

他にもこんな小説を書いてます
狂婚 -lunatic fairy tale-

― 新着の感想 ―
[一言] シルフィーがやたら『準備』って言葉を使うな…ってのは思ってたので、今回のサブタイで『ダボン達との暮らしに馴染み、本音を打ち明け始めるかに見えたシルフィー。「計算通り」すべてはシルフィーの掌の…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ