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破滅した悪役令嬢が田舎にやって来た  作者: バスチアン
第一章 悪役令嬢と野豚の騎士
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悪役令嬢は過去の悪事を暴露する


「あ、暗殺未遂ですか!?」


それは思ってもいなかった出来事で、さすがにダボンも驚愕した。未遂とはいえ暗殺、しかもそれが王族となるとどれだけ重い罪になるのか見当がつかない。平民なら死罪。下手をすれば一族郎党まで罪状が及ぶかもしれない。


「あの……容疑なんですよね?」

「もちろんよ。やってないわよ。でも誰も信用してくれなかったし……そういう事にしたい人間が山ほどいたのよ」


悔しさに小さな拳が強く握られる。


「私の決闘の代理人に誰もなってくれなかった話をしたでしょ。前も言ったけど、学園内の決闘は必ず学内から選ばないといけないの……だからズルしたわ。学外からすごく強い男の子を見つけてきて入学させたの」

「そ、それは……凄く強引な手ですね」

「別にルール違反じゃないのよ。その……入学手続き自体はちょっと無茶な手を使ったけど」


確かにルール上は問題ないのだろうが、納得する人間はまずいない。ダボンの意見などシルフィー自身も百も承知なのだろう。言い難そうに視線を逸らす。


「それで……その後なんですよね? 何か起こったのは」

「そうよ」

「じゃあ、その強引に入学させた男の子が問題を?」

「違うわ……多分」

「違うんですか?」


予想が違ったとダボンは眉を顰める。するとシルフィーはさらに言い難そうに続けた。


「私……そのときはどうしても勝ちたかったのよ。だから武器と鎧に細工をしたの。学内の決闘って、普通の決闘と違うのよ。基本は剣と魔法で勝負するんだけど、その時に使う武装は決められてるの。安全と公平を期すためね。決闘用の武器は当てても衝撃が走るだけで、そこまで大きなダメージにならないの。もちろんある程度は痛いみたいだけど、当てると鎧の色が変わって、そのポイントで決着をつけるのよ」

「へぇ、王都には面白い魔道具があるんですね。子どもたちの練習にも使ってみたいな」


マンバナ村では対人の練習はあまりしない。しかし戦士同士の腕試しはどうしてもしたくなってしまうのが(さが)というものだ。


「じゃあ、王子様の武器が弱くなったり、逆にこっちの鎧の色が変わりにくくなるような細工をしたんですね?」

「それも……ちょっと違うわ。そんな分かりやすいことをしたら、すぐにバレちゃうじゃない。私がやったのは鎧と武器の選び方よ。決闘用の武器と鎧は同じ規格で作られているんだけど、それでも個々に癖があるのよ。色がつきやすい組み合わせ、逆につきにくい組み合わせ。道具を管理している倉庫番にお金を握らせて、エリオット様が一番不利になる組み合わせを選ばせたのよ。こ、これだって……別にルール違反じゃないんだから」

「まぁ、褒められた手段じゃないですね……勝ちに最善を尽くすのは個人的には好きですが」


日夜命がけの狩りを続けるマンバナ村では勝ちに拘るのは良い事だ。だがそれも魔物と戦うことが前提で、戦士同士の試合をするときにそういう行為をすればさすがに倦厭(けんえん)される。

しかしここでダボンは改めて首を傾げた。


「でもそれなら、結局何が悪かったんですか?」

「結界よ。決闘用の武器で直接的なダメージは消せるけど、魔法の威力を消すには決闘場の結界が必要なの。それが作動しなかったのよ」


思い出すのは決闘の最後の一瞬だ。シルフィーが外部から呼んだ少年は本当に強かった。王太子として英才教育を受けていたエリオットは正規の騎士ですら倒してのけるほどの天才だったが、その彼に喰らいついて見せたのだ。エリオットの華麗な剣技には粘り強い守りの技で耐えきり、強力な炎の魔法には練り上げた土の魔法で対抗した。しかし徐々にエリオットに押し込まれていかれ、彼は最後の賭けに出た。最後の力を振り絞り土の巨碗を造りだしたのだ。


大樹のような土塊の腕がエリオットに向かい迫りくる。対してエリオットは剣に炎を纏わせて強烈な突きを繰り出した。魔力で作った巨人の(かいな)と、劫火のような炎がぶつかり合い強烈な光が決闘場を包む。

網膜を焼き尽くすような激しい光が治まった後、剣によって刺し貫かれた少年の身体は全身が炭化しており、エリオットの身体は巨人の腕に飲み込まれ重傷を負っていた。


「それが結末よ。結界が作動しなかったせいでエリオット様は瀕死の重傷を負ったの。近くにアリスがいたから死にはしなかったけどね。アナタはマンバナ村にいたから知らないでしょうけど、その後はもう国がひっくり返るほどの大騒ぎよ。誰が見ても明らかにおかしな結末だもの。ルナ家を追い落とすチャンスだとばかりに、瞬く間に色んな家が動き出して、私にエリオット様の暗殺容疑がかけられて、次の日には私はエリオット様から直々に婚約の破棄を言い渡されたわ。処刑されなかったのは私を……というよりも、ルナ家を守ろうとしたお父さまの活躍ね。真実はどうあれ、ルナ家から王族殺しの大罪人を出すわけにはいかないから」

「お父さんはシルフィーさんのことを信じていないんですか?」

「どうかしら? 絶対に信じている……という事にはしてくれているわね」


シルフィーは寂しそうに「家を守るためだもの」と呟く。彼女が知る限り父親であるルナ家の当主ザカード・ルナは実に貴族らしい貴族だった。己の家を誇り、権力闘争を好み、自分の仕掛けた術理で人が踊るのを見るのが何より好きな男ということだ。そんな父であるから「信じている」という言葉がどうしても素直に受け取りにくい。


「本当なら、あの時に……誰も代理人になってくれなかった時に無様に頭を下げて謝るのが賢い選択だったのも分かっていたわ。だけど私は学園の3年間アリス(あの娘)に負け続けたの。エリオット様を盗られて、取り返すために何かするたびに評判が落ちて、人もどんどん離れて行って、それが悔しくて仕方なかったの。今になって思えば、本当に馬鹿な話よね。あの娘の決闘の代理人が他でもないエリオット様本人だったっていうのに」


きっとまだ自分の中でも踏ん切りがついていないのだろう。ダボンには彼女の声にどことなく未練が残っているように感じる。だがそれには気づかない振りをして、彼は尋ねた。


「じゃあ、結局、その事件には真犯人が他にいて、シルフィーさんを陥れたってことですよね?」

「さぁ、どうかしら?」

「違うんですか?」

「判らないわ……だけど、多分アリスの力よ。あの娘の前ではどんな策略も全部空回りするのよ。有効なはずの裏工作が作用しなくて、知らない間にみんながあの娘の味方になってるの。みんな何だかよく分からない価値観に目覚めて、お金とか、権力じゃ動かなくなっていくの」


シルフィーは答える。その瞳の中にはすでに淡い未練の色などなく、得体の知れない大きな力に怯える恐怖だけがあった。


「誰かが言っていたわ「アリスには運命を見る力がある」って……最初は馬鹿な話だと思ったけど、本当にその通りだったわ。あの娘は聖女だったんだもの。運命くらい見れて当たり前なのよ。だからきっとあの事件には結界を壊した犯人なんていなくて、本当のただの偶然で壊れて、偶然に私が犯人に仕立てられて、エリオット様には破談を突きつけられて、代わりにあの娘が婚約者になって、全部聖女の力なのよ。あぁ……あんな娘に関わるんじゃなかった――」

「ちょ、ちょっとシルフィーさん落ち着いてください」


よほどアリスが怖いのだろう。シルフィーの息は乱れ、普段は黒真珠のように美しい瞳が恐怖に濁る。明らかに恐慌をきたすシルフィーをダボンは慌てて押し止めた。


「ごめんなさい。取り乱して……アナタのことを守ってあげるって言ったばかりなのに」

「いえ、大丈夫です。でもその娘の話はあまり聞かないようにしますね」

「そうね、お願い……でも王都に着く頃には、もう少し何とかするわ。何しろエリオット様の隣には絶対にあの娘がいるでしょうから」


力なく彼女は笑う。その笑みは普段の黒薔薇の微笑みからはかけ離れたものだった。


「お互いに厳しい旅になりそうですね」

「まったくね」


建国式典にはもう1ヶ月もない。

遠く離れていると安心していた王都のことを思い、二人は苦々しく口元を歪めるのだった。



作中の「勝ちに最善を尽くすのは個人的には好きですが」の言葉の通り、実はダボンはシルフィーのやったことに対してはそこまで否定的ではありません。マンバナ村はシビアな環境なので自然と「戦いは勝たないと意味がない」という思考になっていくのです。


次回からはいよいよマンバナ村を離れて後半戦に突入です。

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