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第8話:『聖女の恋文(Sクラス信書)輸送大作戦‼』前編


澄み渡る大気を震わせ、石畳の街へ降り注ぐ荘厳な鐘の音。


祈りの鐘都カンパネラ。


風が運ぶ、清らかな乳香の香り。

長旅の羽を休める『星屑のゆりかごキャラバン』の一次拠点。

その裏口へ、ひっそりと忍び込む深くフードを被った影。

周囲を警戒し、震える手で下ろされるフード。

こぼれ落ちる銀糸の髪。

大人気を博すこの街の象徴、聖女ハレルヤ。


「リーファちゃん……っ」 潤んだ瞳。


幼馴染の顔を認めた瞬間、あっけなく崩れ去る聖女の威厳。

美しい頬を伝い落ちる大粒の涙。

胸を打つ、感動的な再会の幕開け。

震える声で紡がれる依頼。


「最前線で命を懸けるハルト様へ、この手紙を届けてほしいの。これがないと、あの人はすぐ泣いちゃうの。ハルト様の好きな甘い言葉を、全部詰め込んだの……っ」 差し出される、淡い桃色の封筒。


明かされる、国家機密レベルの重大なエラー。


最前線で魔族の侵攻を食い止める、比類なき最強の聖騎士ハルト。


だが、その本性は極度のチキンハート。


定期的に届くハレルヤからの恋文。

それこそが、彼の折れそうな心を最前線へ繋ぎ止める『最強の回復バフ』。


現在、何者かによる通信網の遮断。

極めて深刻な未達の事態。


精神安定剤を絶たれたハルト。


今頃、血みどろの最前線で泣き喚いているはず。

『僕、こんなに頑張ってるのに!? 帰る! 帰る! 帰るって言ってるでしょぉぉぉ! 恋文が来ないとHPが1桁なんですぅぅ!』


必死にすがりつく部下たちに羽交い締めにされる、哀れな英雄の姿。


両手を合わせて懇願するハレルヤ。

涙ぐむ剣士アーロイ。

もらい泣きで鼻をすするもふもふ部隊。

空間を包み込む感動的な空気。


だが、思考は極めて冷静に事実のみを抽出する。

(国家の防衛ラインを単独で維持するための『Sクラス士気向上アイテム』。その供給停止による、防衛線崩壊の危機か)


恋文のロマン。

若者たちの純愛。


業務遂行において一切関係ない。

重要なのは、この薄っぺらい紙片が国家の存亡を握る最重要アイテムであるという事実のみ。


開かれる空間収納庫。

引きずり出すのは、耐火・防刃仕様を施された分厚い特殊合金製ジュラルミンケース。

重厚な金属の擦過音。空気を圧する厳重極まりないロック機構。


ピコンッ。視界に展開する蒼いウィンドウ。

【情報管理モード(Information Security Mode)】

【対象:Sクラス信書】

【重要度:極秘】

【リスク:紛失=国家防衛線崩壊】

【推奨処理:耐火・防刃ケース収納/追跡魔導具装着】

その中央へ、淡い桃色の封筒を冷徹に安置する。

さらに追跡魔導具(GPS)を隙間なくセット。

紛失リスクの完全な排除。


無言でリーファを見上げる。

前脚でトントンと床を叩く。


カシャン。脳内で開くタスクUI。

■ 緊急タスク:完全守秘義務の確立

■ 優先度:最上位

■ 備考:感情は業務に不要


(社長。ただちに『完全守秘義務契約(NDA)』の締結を。情報漏洩は死活問題だ)

意図を正確に読み取るリーファ。


真顔のまま、分厚い契約書面を机に提示する。

熱を帯びた乙女の恋心が、徹底的なリスク管理の対象へと変換された瞬間。


感動を置き去りにする、圧倒的な温度差。


一方その頃。

王都の陰湿な裏路地。

「あの小娘のラブレター、破いて捨てちゃえ! 街の人気ランキングで聖女に負け続けているんだ! 信者数も減って焦ってるんだよ!」

人気者の聖女に嫉妬する、子供じみた法皇の甲高い声。


差し出された安っぽい報酬。

セコすぎる依頼。


それを受け取る、けばけばしい扇子。

『麗しの妖狐キャラバン』社長、マダム キーツィ・ヨ・セイガク。

「オーッホッホ! 破るなんて勿体ない。聖女のドロドロなスキャンダル、週刊誌に高く売って大儲けですわー!」


夜の闇に響き渡る、下品で高飛車な笑い声。

最重要バフアイテムに迫り来る、低俗極まりない悪意の足音。



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