第9話『聖女の恋文(Sクラス信書)輸送大作戦‼』中編
鼻腔を焼く濃密な硝煙。
空をどす黒く染め上げる魔力の残滓。
最前線。
絶えず死の影がちらつく防衛ラインが崩壊しかけている理由は、敵の猛攻ではない。
「あれぇっ!? 最近ぜんぜんハレルヤちゃんの応援のラブレターが来ない!?」
悲痛な絶叫が、血塗られた戦場にこだまする。
比類なき最強の聖騎士ハルト。
国を背負うはずの英雄が、美しい顔を涙と鼻水でぐちゃぐちゃに歪ませている。
「恋文が来ないと僕のHPは常に1桁なんですぅぅぅ! 精神支援が切れたらただの豆腐メンタルなんですぅぅ! あーもう無理ゲー! 帰る! 今すぐ帰る!」
大地に放り出される国宝級の聖剣。
完全に戦意を放棄し、本陣へ全力疾走しようとする大将の足に、泥まみれの数十人のエリート騎士たちが必死にすがりつく。
「隊長ぉぉ! お気を確かにぃ! 魔族がすぐそこまで来てますからぁぁ!」
鎧と鎧が擦れ合う鈍い金属音。
防衛の要石が自ら崩れ去る、大カオスの光景。
その致命的な綻びを、真のブラック企業が見逃すはずもない。
空気が凍りつく。
違法業者『暴食の魔獣商隊』の悪党が、魔族と結託し前線へ運び込んだ規格外の闇魔術兵器。
《魔力圧縮型・闇属性多重爆裂砲》。
放たれる極彩色の閃光。
重力すら歪む爆圧が前線を吹き飛ばす。
宙を舞う聖騎士団・『聖心部隊クオーレ』の騎士たち。
ひしゃげる鋼鉄の盾。
ルール御免の皆無。
法を嘲笑う無慈悲な蹂躙。
圧倒的な暴力の前に、防衛ライン突破まで残り数秒。
絶望が戦場を覆い尽くそうとした、その瞬間。
重厚な金属の塊が大地を叩き据える、鋭い落下音。
巻き上がる土煙。
その中心で淡い光を纏い、悠然と佇む影。
我らが『星屑のゆりかごキャラバン』の到着。
【Sクラス信書:最終配送フェーズ】
【重要度:極秘/国家存亡級】
【現場状況:指揮官メンタル完全崩壊】
【脅威レベル:SS(違法兵器による前線崩壊)】
【推奨行動:配送ルート強制確保 → 敵戦力の排除】
続いて、頭脳タスク管理UIが冷たく展開する。
■ 緊急タスク:士気向上アイテムの即時投函
■ 優先度:最上位
■ リスク:遅延=国家崩壊
■ 備考:感情は不要。業務遂行のみ。
((……現場責任者の致命的なメンタルヘルス不全。それに伴う組織の崩壊か))
風に揺れる青いもふもふ。
見下ろす先には、涙目で丸くなる最強の聖騎士。
((原因は明確。『Sクラス士気向上アイテム』の供給停止によるシステムエラー。やれやれ、どこの現場にもモチベーション管理ができない困ったちゃんはいるものだな。だが、家族との平和な日常を脅かす違法業者の横暴は、ここでお仕舞いだ))
もふもふの外見に反し、内側は完全にプロフェッショナルの鬼。 右前脚を伸ばす。
絶対の守秘義務を帯びた、分厚いジュラルミンケース。
冷たいロック機構へ、極めて事務的な動作で爪をかける。
見据えるのは、大虐殺を企てるグラトニーの違法兵器群。
瞳に宿すのは、戦場をただの「仕事」として処理する絶対零度のお仕置人の光。
「ピルルルッ♪(訳:配送業務、最終フェーズへ移行。——これより、戦場の最適化を開始する)」




