第6話:囚われの姫君(?)と、世界一のプロポーズ
七彩の自由都市・プリズマティア。
多種多様な種族が行き交う、極彩色の喧騒。
伝説のドワーフ鍛冶師を探し、街の酒場で情報収集。
だが、耳に飛び込むのは街の者たちの呆れた溜め息。
「あちゃー、また『姫君』がやらかしたのか」
「腕は伝説級の親方だが、超絶問題児だからな……」
飛び交う不穏な噂。
((伝説の鍛冶師が、『姫君』と呼ばれる女性と共にマフィアに連れ去られた……!?))
見過ごすわけにはいかない。
正義のヒーロー、出陣の刻。
裏路地に潜む、薄暗いマフィアのアジト。
蹴破られる重厚な扉。
逆光の中、純白の神獣ユニの背に跨り、堂々たる登場。
もふもふキャラバン、見参。
「悪党ども! 囚われの姫君と鍛冶師は、私達『星屑のゆりかごキャラバン』が返してもらうわ!」
リーファの凛とした声が響き渡る。 ……が。
室内に満ちる、圧倒的なカオス。
「ふざけるな! うちの若い衆に片っ端から手を出しやがって……! 挙げ句に店の最高級酒を全部飲み干しやがった!」
頭を抱え、半泣きで激怒するマフィアのボス。
完全なる被害者。
その視線の先。
屈強な男たちに囲まれているのは。
筋骨隆々の巨体。
豊かなヒゲ面。
そして、完璧なメイクとピンクのフリフリエプロン。
((……嘘だろ)) 待ち受けていた現実。
伝説のドワーフ鍛冶師、イワンコッチャナイ・ダカラ。
またの名を、この街の『姫君』。
「アラやだ……! 私の白馬の王子様ァ! ステキィ!!」 放たれる、野太い黄色い声援。
両手で頬を押さえ、身悶えする巨体。
思考のフリーズは一瞬。
即座に切り替わる、前世の「お金とルールを見抜く専門知識」。
突きつけられた借金のリストと、無理やりな働き方の約束事を一瞥。
ピコンッ
脳内に響く電子音。視界に展開される蒼いシステムウィンドウ。
【契約審査モード】の起動。
【対象:労働契約書】
【状態:違法】
【問題点:拘束時間/賃金未払い/違法罰金条項】
【推奨行動:契約無効化 → 不当請求の破棄】
【成功確率:100%】
カシャン、カチッ
同時に重なる、脳内タスク管理UI。
■ 緊急タスク:イワンの不当拘束解除
■ 優先度:最上位
■ 期限:即時
■ 入力:二重帳簿/違法契約書
■ 出力:合法的粉砕(+必要に応じて物理)
■ 備考:マフィア側は被害者の可能性あり(情状酌量の余地あり)
((監査開始。——これより、不当請求の強制破棄に移行する))
絶対零度の眼光。
「ピルルルッ!(訳:お酒の値段が、世間の相場とかけ離れすぎだ。ズルい嘘つきメモで騙そうとしたな。さらにこの無理やりな契約書は、この国のルールを無視した、ただのゴミ同然の紙切れだぜ!)」
隣に立つリーファ。
真顔で放たれる、ど直球の通訳。
「ドランが言っています。『完全な違法請求です。これ以上の不当拘束は、公権力と物理力で粉砕します』と」
凍りつくマフィアのボス。
突きつけられる、反論の余地なき「正義のルールという刃」
痛快なる、合法的救出(?)劇。
解放されたイワン。
「ンモォ〜〜ッ! なにこの子たち! 食べちゃいたいくらい可愛いじゃないのォ!!」
大胸筋に挟み込まれる、青い体と純白の頭部。
みしり、と鳴る骨。遠のく意識。虚無の白目。
「ぴぎゃ~⁉(訳えぐい!えぐい!死んじゃう?)」
視界の端。
「……ちょっと! アンタのその美貌と筋肉、アタシがもっと輝かせてあげるわ!」
「本当ですか!? ドランちゃんを守るために、もっと強くて美しい大胸筋が欲しかったんです! 胸筋は剣の軌道を安定させるんです!」
「分かってるじゃないのアンタ! 最高のバルクアップよ!」
意気投合する、凄腕の女剣士・副長アーロイと愛のオネェ。
異次元のコミュニケーション。
息を吹き返し、地に降り立つ。
アーロイが「恭しく(うやうやしく)」差し出す、脈打つ赤黒い結晶。
キメラの特大魔核。
しかし、腕を組み、ツンと顔を背けるイワン。
「美しい武器は、美しい心からしか生まれないのよ。悪いけど、アタシの美学に合わない依頼は受けないわ。ただの護衛稼業じゃ、この石は泣くわ」
本物の職人の哲学。
試される覚悟。
一歩前へ。
ドランとリーファが並び立つ。
見上げる、伝説の職人の瞳。
真っ直ぐに見据え、誓いを立てるかの様に揺るぎない大志を放つ。
「私たちは、家族を守るために『世界一最高の居場所』になります!」
「ピルルル!(訳:右に同じくだぜ!)」
沈黙ー。
見開かれる、マスカラに彩られた双眸。
やがて、巨体が大きく震え出す。
ポロポロとこぼれ落ちる、大粒の涙。
黒く染まる頬。
「……アラやだ。アンタたち、最高にアツくて美しいじゃないの……!!」 大号泣。
鼻水をすすり上げ、特大の魔核を鷲掴みにする。
「その大志、受け取ったわ! アタシの全存在を懸けて、世界一美しい最強の剣を打ってあげる!!」
燃え盛る炉の炎。
振り上げられる、巨大なハンマー。
カーン! カーン! 豪快に、かつ繊細に。
鋼を叩き、魔を織り込む、命の鼓動。
飛び散る火花。
産声を上げる、最強の専用武器『融合魔剣アマルガム』。
見上げる空。
どこまでも高く、抜けるように青く澄み渡っている。




