第5話:「ズルしたツケの支払い」と新たなる家族。
鬱蒼たる森の奥深く。
ドラン達は草葉の陰に身を潜め、眼下の砦を覗き込む。
闇サーカスの調教場。
冷たい鉄格子の中、痛々しい装飾具をつけられて地に伏す純白の獣。ユニコーン。
空気を裂き、鳴り響く魔法のムチ。
薄汚れたローブの男。
サーカスを牛耳る悪徳団長が、歪んだ笑みを浮かべる。
「お前は利益を生む道具だ。俺に感謝して死ぬまで働け」
歪んだ洗脳の言葉。
その光景に、前世の記憶がフラッシュバックする。
(深夜のオフィス。終わらないサービス残業。尊厳を奪われ、すり減っていく同僚たちの虚ろな目)
退路を断ち、依存させる最低の洗脳。……万死に値する。
((もう誰も、あの頃の俺みたいに壊させない)) 静かに、怒りが臨界点を突破する。
草陰から、砦の広場へと踏み出す。
もふもふのキャラバン一行。
怒りに震えるリーファの前に躍り出る、小さな青い影。
放たれる絶対零度の眼光。
「ピルルルッ!(訳:立場を利用したいじめに、ひどい閉じ込めと脅し。てめえのクズなやり口は、今ここで力ずくで叩き潰してやる!)」
隣に立つリーファ。
複雑な意思を直感的に読み取る純粋な瞳。
真顔で放たれる、ど直球の通訳。
「ドランが言っています。『あなたたちのショーは最低です。今すぐ物理的に閉鎖させます』と」
無慈悲な宣告で敵を凍り付かせた直後、リーファはふわりと表情を綻ばせ、ドランを抱き寄せてその頭に頬を擦り寄せる。
「ドラン、無茶しないでね。私たちも一緒に戦うから」
緊迫した空気の中、ドランは照れくさそうに短い尻尾をパタパタと振った。
無音の号令。
一斉に襲い来る悪徳サーカス団の男たち。
だが、あまりにも遅い。
「ガウッ!(訳:こいつらは俺に任せな! お嬢様には指一本触れさせないぜ!)」
大地を蹴る銀の軌跡。
巨大白狼フェンリー。
武器を振り回して向かってくる数人の男たちを、疾風の身のこなしで次々と気絶させる。
圧倒的な獣の制圧力。
「キュィィィィッ!(訳:上空から丸見えだよ! 一人も逃がさないからね!)」
恐れをなして森へ逃げ込む下っ端たちへ、天空からの急降下。
空の斥候グリフ。
その巨大な翼と鋭い鉤爪が、逃走ルートを上空から完全に封鎖する。
そして、正面に立ちはだかる分厚い壁。
重装甲のオーク戦士。
サーカス団が雇った怪力自慢の用心棒。
咆哮とともに振り下ろされる、暴力的な丸太の腕。
迎え撃つ、一閃の白刃。
凄腕の女剣士(副長)アーロイ。
涼しい顔で放たれる洗練された剣技が、分厚い装甲ごと巨体を大地に沈める。
完全なる制圧。
仲間たちが完璧に切り開く。
ドランへと続く、一本の道。
焦燥に顔を歪めるサーカス団の悪徳団長。
卑劣なる凶刃。
最大火力の炎熱魔術を背後のリーファへめがけて解き放つ。
迫る巨大な業火。
そこに割り込む、青い体。ドラン。
((……マジかよ、こんなデタラメな威力の反則級の炎、そのまま受けたら後ろのリーファたちまで燃えちまう。俺の胃袋で、残さず全部飲み込めるか!?))
愛らしい口を、大きく開ける。
ぱっくん‼
大質量の炎を、一口で飲み込む。
規格外のチートスキル発動。
驚愕に見開かれる団長の双眸。
理解不能な光景。
ピコンッ
脳内に響く電子音。
視界を覆う蒼いシステムウィンドウ。
【竜眼・決済モード】の起動。
【危険:高火力魔術】
【属性:炎熱】
【処理方法:吸収 → 変換 → 逆決済】
【推奨スキル:パックンチョ・リバース】
【成功確率:99.9%】
カシャン、カチッ
同時に展開される、脳内タスク管理UI。
■ 緊急タスク:リーファの生命保護
■ 優先度:最上位
■ 期限:即時
■ 入力:炎熱魔術(違法)
■ 出力:蒼属性エネルギー砲(強制決済)
■ 備考:悪徳団長のビジネスモデルは破綻済み
((……やれやれ、胃が焼け焦げるかと思ったぜ。前世の激辛接待を思い出すブラックな熱量だ。だが、家族を焼こうとした罪は万死に値する。
((……お味見(食事)は終わりだ。——これより、食い逃げされたツケ(エネルギー)を、倍返しでぶつけてやる!))
飲み込んだ炎を、体内で純粋な竜のエネルギーへと一気に変換。
次の瞬間。小さな口から放たれる、超高密度の蒼き閃光。
視界を白く染め上げるエネルギー砲。(喰らえ‼)ーパックンチョ・リバース‼ー
悪徳団長を防壁ごと吹き飛ばし、分厚い砦の城壁すらも円形に消し飛ばす。
もうもうと晴れていく粉塵。
完全に粉砕された檻。
怯え、身をすくめる純白の神獣。
そっと差し出される、リーファの温かな手。
「もう、頑張らなくていいよ。あなたは、そこにいてくれるだけで価値があるんだよ」
純白の神獣が、小さく震える唇を開く。
「ブるる……(訳:助けて、なんて言えなかった……)」
リーファはそっとユニコーンの首元に腕を回し、「もう大丈夫だよ」と囁いた。
無条件の肯定。
大粒の涙をこぼすユニコーン。
「今日から、あなたがうちの新しい家族。……よろしくね、『ユニ』」
角から溢れ出す、あたたかな光。
古代の神語のような光紋が空中に浮かび上がる。
周囲の枯れた草が、一瞬にして青々と蘇る。
傷ついた周囲を優しく包み込む、浄化と癒やしの波動。
神獣の絶対的な格の証明。
すり寄る純白の頭部。
自らの意志で、一行の輪へと加わる。
新たな家族。
専属ヒーラー、ユニの誕生。
賑やかな笑い声。
一層温もりを増すキャラバン号。
見上げる空は、どこまでも青く澄み渡っている。




