第4話:絶対真贋と、厚かましき交換条件
重厚な扉の奥。ギルド長室。
黒檀のデスクの中央に鎮座する、脈打つ赤黒い結晶。
キメラの融合魔核。
対峙するは、商王国ヴァルディアの【冒険者ギルド】を束ねる海千山千の古狸。
「討伐の規定によれば、このクラスの魔石はギルドが一旦回収し、適正な分配を——」
人の良さそうな、しかし底の知れない汚い笑顔。
のらりくらりと、他人の手柄を平然と掠め取る口調。
((……この空気、前世のクソ上司と完全に一致する。こいつ、適当な理由をつけて俺たちの特大ボーナス(魔核)を丸ごと奪う気か?))
脳裏にフラッシュバックする、前世の記憶。
(深夜のオフィス。徹夜で仕上げた企画書を、薄笑いを浮かべて奪い取った上司の顔)
あの時の絶望は、リーファたちには絶対に味わわせない。
家族の権利を守るための、静かなる怒り。
ピコンッ
脳内に響く、冷たい電子音。 視界に展開される蒼いシステムウィンドウ。
固有スキル【竜眼】・交渉モードの起動。
【交渉相手:ギルド長】
【行動傾向:搾取/責任回避/虚偽説明】
【危険度:A】
【推奨行動:論理的圧殺】
【成功確率:94.2%】
カシャン、カチッ
同時に重なる、前世から引き継いだ“社畜タスク管理UI”。
■ 緊急タスク:魔核の所有権確保
■ 優先度:最上位
■ リスク:高(横取り=キャラバンの成長阻害)
■ 対応方針:契約違反の指摘 → ギルドの管理責任を提示 → 逃げ道封鎖
■ 備考:リーファの発言力を最大活用
((搾取の兆候。——これより、お仕置(言語)に移行する))
デスクの上に身を乗り出し、古狸を真っ直ぐに睨みつける。
「ピルルルッ!(訳:前衛の連中、敵前逃亡しただろ。明白な契約違反だ)」 短く鋭い鳴き声。
放たれる絶対零度の眼光。
隣に立つリーファが、その複雑な思考を直感的に読み取る。
「前衛の人たち、逃げましたよね。契約違反です」
真顔で放たれる、ど直球の事実。
ピクリ。
ギルド長の笑顔が引きつる。
「いやいや、若きマイスター。彼らも決して逃げたわけではなく、戦略的な一時撤退を……」
「ピルルルッ!(訳:戦略的撤退? 報告書と現場の痕跡が一致しねえよ。ギルドの管理責任、問われるぜ?)」 ドランは怒りで丸い羽毛をチリチリと逆立てる。
「あれは撤退じゃなくて敗走です。この魔核は私たちのもの。これ以上誤魔化すなら、ギルドの信用問題になりますよ?」
ギルド長へ無慈悲な事実を突きつけた直後、リーファはふわりと微笑み、肩で怒るドランの頭を優しく撫でる。
「大丈夫だよ、ドラン。私たちが絶対に守るからね」畳み掛けるリーファと、深い愛情。
ギルド長の言い逃れを、短い言葉の刃が次々と切り裂く。
逃げ道を完全に塞がれた古狸。
その額を、一筋の冷や汗が伝う。
「……降参だ。君たちのものだよ、若きマイスター」 深くため息を吐き、両手を上げるギルド長。
完全なる論破。
魔核の所有権、確約。
張り詰めていた殺伐とした空気。
しかし、その後方。
「よく分からないけど、ドランちゃん凄くかっこいい……!」 頬を赤らめ、熱い吐息を漏らす副長アーロイ。
泥沼の交渉など、一ミリも理解していない。
ただ、発せられる『家族を守る凄み』にのみ反応する本能。
全肯定の眼差し。
緊迫した室内に満ちる、理不尽なまでの癒やし。
しかし、海千山千の古狸は、ただでは終わらない。
引き下がると同時に、机の上を滑る一枚の古い羊皮紙。
「だが……一つ頼まれてくれないか? この魔核を無条件で譲る代わりに、この依頼を受けてほしい」
厚かましくも、しぶとい交換条件。特別な高難度ミッション。
『囚われの神獣、ユニコーンの解放』。
「神獣が、囚われている……?」 羊皮紙を覗き込むリーファの瞳が、スッと細められる。
記された座標。
((偶然か。いや、必然か)) 目を見開く。
その場所は、手に入れた規格外の魔核を打てる『伝説のドワーフ鍛冶師』を探すルートの、まさに真上。
条件闘争としては、蹴るのがセオリー。
だが、見捨てられない命がある。
人助けとあっては、この心優しきマイスターが断るはずもない。
「……分かりました。その依頼、星屑のゆりかごキャラバンがお受けします!」
力強いリーファの声。
交渉、完全成立。
——これより、新たなるお仕置(救出ミッション)の準備に移る。
見据える先には、まだ見ぬ神獣と伝説の鍛冶師。 最強の家族の旅は、ここからさらに加速する。




