第3話:お仕置(パンチ)と、伝説の幕開け。
冒険者ギルドを包む、熱を帯びた喧騒。
商王国ヴァルディア。
「Val(価値・富)」と「dia(神の道・交易路)」を冠する、中規模にして至高の商業国家。
剣の力ではなく、価値と交渉で富を得る。
それがこの国の絶対の掟。
カウンターに提示された一枚の羊皮紙。
上級冒険者パーティーからの、キメラ討伐への同行依頼。
物資輸送と、後方待機での負傷者へのポーション提供。
戦闘への介入は一切不要。 提示された報酬は、五十ヴァル金貨。
((ヴァルディアの独自通貨。一枚十万円相当。つまり、一案件で五百万円。完全なる超絶ホワイト案件だ)) 脳内で一瞬にして弾き出される計算。
「ピルルルッ♪(訳:割のいい仕事だね。即サインするべきだよ!)」 リーファの肩で愛らしく鳴く。
現場に着くなり態度を一変させて鼻で笑う上級冒険者たち。
全身を覆う豪奢な重装備が、耳障りな金属音を立てる。
「おいおい、お嬢ちゃん。その毛玉どもは後ろで震えてな」
見下す視線と、人を小馬鹿にした笑み。
偉そうに風を肩で切って歩き出す戦士たち。
討伐ポイント。
荒涼たる岩場。
安全な後方で待機する、もふもふキャラバン号。
だが、現れた標的は「想定外」だった。
岩山を砕いて現れた異形の合成獣、キメラ。
想定外の巨体。
赤黒く変色した外殻。
狂気を孕んだ咆哮。
魔力暴走により、通常個体の三倍の耐久力を持つ『変異種』
または、忌まわしき異形・アボミネーション。
冒険者ギルドでも討伐例がほとんどない、災害クラスのバグ。
「ありゃ、ただのキメラじゃない。自然のルールを捻じ曲げた禁忌の存在…『アボミネーション(忌まわしきもの』だ)」
一瞬の交錯。
崩壊する前衛。
分厚い装甲ごと薙ぎ払われ、宙を舞う重装備の戦士たち。
悲鳴すら上げる暇もない。
圧倒的な暴力の差。
絶体絶命の窮地。
血走った合成獣の眼球が、次なる獲物を探す。
ヘイトが向く先。
腰を抜かす冒険者たち越しに、リーファを捉える。
迫り来る死の影。
静かに、リーファの前に躍り出る青い羽毛。
愛らしいチビドラ。
((……冗談きついぜ。あの理不尽な巨体と狂気、どう見てもバグだろ。勝算はどれくらいあるんだ?))
ピコンッ 疑問に呼応し、脳内に響く軽い電子音。視界を覆い尽くす、蒼いシステムウィンドウ。
固有スキル【竜眼】の起動。
【危険度:S】
【対象:変異キメラ】
【状況:交渉不能】
【推奨行動:お仕置】
【成功確率:98.7%】
カシャン、カチッ
同時に展開される、前世から引き継いだ“社畜タスク管理UI”。
■ 緊急タスク:リーファの生命保護
■ 優先度:最上位
■ 期限:即時
■ リスク:甚大(放置=キャラバン壊滅)
■ 対応方針:もふもふ戦力の全権限を行使
■ 備考:上級冒険者パーティーは戦力外(使い物にならない)
脳裏を過る、前世のブラックな記憶。
(深夜の会議室。机を叩き割る上司の怒声。『いいか! 交渉が決裂したら、あとはお仕置あるのみだ!』)
((やれやれ、異世界に来てまでデスマーチ(命がけの残業)かよ。
だが、俺のタスク(仕事)から家族の命は絶対に落とさせない。
交渉決裂。——これより、お仕置に移行する!))
無音の号令。
「ガルルルッ!!(訳:我らがお嬢に、傷ひとつ負わせるものかッ!)」 白き閃光。
巨大狼フェンリーが大地を蹴る。
家族の危機に呼応した、怒りの銀の軌跡。
研ぎ澄まされた牙が、キメラの脚を深々と抉る。
「キュィィィィッ!!(訳:奇襲はさせない! お嬢様は我らが守る!)」
天空からの急降下。
空の斥候グリフ。
愛する主を守らんとする猛禽の鋭き鉤爪が、合成獣の堅牢な背を容易く引き裂く。
だが、忌まわしき異形は簡単には死なない。
変異種、特有の異常な生命力と再生能力を誇る。
しかし、それでもこの蒼き小竜は反撃の暇すら与えない。
完璧な連携後、ドランは静かにエネルギーを顎に集中させる。
止めの攻撃。
小さな口から放たれる直前。
固有スキル【竜眼】敵の弱点を見抜く
【弱点解析:心臓×3】
【耐久:通常比 320%】
【推奨攻撃:同時破壊】
(忌まわしき異形)アボミネーション・キメラの三つの心臓を瞬時にスキャン、赤く明滅する、ターゲットロックオン。
極大の魔力ブレス弾・三連発発射‼
正確に3箇所同時に貫く。
視界を真っ白に染め上げる、「ルール無用の蒼き光」
崩れ落ちる巨体。沈黙する脅威。完全なる、瞬殺。
静寂に包まれる岩場。
さっきまで見下していた上級冒険者たちの顔が、恐怖で蒼白に染まる。
「……な、なんだあの連携は……」 腰を抜かした重装備の戦士が、震える声で呟く。
その視線の先。完全無傷のキャラバン。
面倒そうに後ろ足で血糊を払うフェンリーと、誇らしげに翼の羽毛を整えるグリフ。
毛並み一つ乱れていないもふもふたち。
「うわぁ……ドランちゃん、フェンリー、グリフ、すごい!」
無邪気なリーファの声。
その瞳に宿る、知的な光。
((……ん? リーファの奴、キメラの残骸に神眼なんか使ってどうした? なにかとんでもないお宝でも埋まってるってのか?))
【神眼】の起動ー。
【神眼:変異魔石解析モード】
対象:『変異魔石』
▶ 魔力純度:SS(通常個体の約4.7倍)
▶ 属性:混合(炎/闇/瘴気)
▶ 安定度:極めて低い(未加工状態での長期保存不可)
▶ 希少性:災害級(討伐例 0.04%)
▶ 市場価値:王都魔導院の国家予算クラス
▶ 二次利用:高位魔導炉・王家儀式具・融合武器の核材
【最終判定:規格外の超希少素材】
【備考:専門鍛冶師による即時加工推奨】
崩れ落ちたキメラの残骸。その奥底に眠る輝きを、彼女の目は見逃さない。
「これ……とんでもない純度の『変異魔石』よ!」
((国家予算クラスだと!?……やれやれ、ただの討伐代行のつもりが、とんでもない特大ボーナス(特別利益)を引いちまった。
税金対策の計算でまた徹夜確定だな。だが、これでうちの資金繰りは完全無敵だ!))
規格外のレア・アイテム。
王都の魔導院が、国家予算を投じてでも買い取るレベルの代物。
莫大な富を生む、究極の未開拓市場素材。
ただの行商人。
周囲のその認識が、この日を境に完全に覆る。
最強の武力で安全を確保し、 神眼と社畜の知恵で富を築く。
伝説となるキャラバン。
もふもふモンスター家族の『星屑のゆりかご(スター・クレイドル)』の快進撃が、今、始まる。




