Third
それなりに集まって来たな。
周囲の木々はフレアによって焼き払われているので距離は遠いが、だんだんと帝国兵が集まってくる気配を感じた。もう俺の中に黒多頭蛇はいないが、そういう感覚が以前よりも強くなったままだ。これはいいことだろう。
«どうします?»
「そうだなー。」
俺は魔王側にいるため帝国兵は敵ということになるのだろうが、勇者であるため本来は敵ではなく味方である可能性がある。敵対するべきではないのかもしれない。
そしてもう一つ問題がある。
俺はレートプレートを取り出す。俺には陰なる収納があるためなくすことはないが、もしこれがなかったら苦労していただろう。それなりに希少なものらしかった。
《名前》 瀬川琉斗
《ランク》 勇者 ℤランク
《魔力量》 380/12800
《魔法属性》 陰
《ストレンジスキル》 ・ナンバース
《家臣》 フィシア
《ギミック》 ・First 陰狼 ・Second 陰炎
・陰なる移動 ・陰なる収納 ・陰なる祝福
・陰なる爪 ・陰なる盾 ・陰なる投剣
・陰なる回復 ・陰眼 ・陰棘
《奴隷》 ・エミュリア
ここから見てわかる通り、魔力がもう少ない。本来この程度の魔力量でも十分戦えるのだろうが、帝国兵を相手したり、フィシアと合流したりするには少々心もとない。
そういえば盗賊団と帝国軍が敵対していたような・・・。
盗賊団と帝国軍が敵対している。これを知ったのは黒多頭蛇に体を奪われかけていて、殺したいという衝動でほとんど考えられていなかったが、今考えると分かることがある。
盗賊団と帝国軍は同じ毒矢を使用していた。つまり、協力関係にあった時期があったということが考えられる。盗賊団はここ最近の活動は見られていなかったため帝国にいた可能性があり、帝国内であの毒矢が流通しているということもなくはないが、一旦これは保留だ。
盗賊団はカラズを攻めると言っていた。また、帝国軍もここに拠点を構えていることからカラズを攻めると思われる。
これらのことから、一つ予想できることがあった。
盗賊団と帝国軍が手を結びカラズを攻めることになったが、いざ攻めるとなったときに帝国が裏切り、カラズvs盗賊団vs帝国軍の構図が出来上がったのではないかと言うものだ。
これなら帝国軍がこの時期に攻め入った理由も盗賊団をカラズにぶつけられるからという説明がつくし、フィシアがその盗賊団を憐れんで協力しているという解釈もできなくはない。
一つ謎なのが、なぜ盗賊団は帝国軍と手を結んでいたのか、だ。毒矢は確かに強力だが、それをもってしてもリスクのほうが大きい気がする。
さて、俺にとってこの場において大事なのは、フレア、エミュリア、フィシアだ。魔人のミルたちもカラズ内にいるかもしれないが、優先度はグッと下がる。
フレアはまず死ぬような事態に陥ることはないと思うし、そもそも合流できているため何も問題はない。
俺がなすべきことは、エミュリアの保護とフィシアの奪還だ。
ただ、フィシアは盗賊たちの発言によると自ら進んで盗賊団に協力しているようにも見えたので、そこがどうすべきか悩みどころだ。
「ここに俺がいる意味はないから、とりあえずカラズに戻るべきだと思うが、フレアはどう思う?」
«んー。ここが帝国軍の拠点なら占拠してしまうってのは?»
「占拠かー。でも、もう魔力があんまりないから難し――フレアって魔力どのくらい残ってる?」
ストレンジスキル[ナンバース]は俺の魔力を一切使用しない。これは陰狼やフレアがそれぞれ自身の魔力を持っているためだ。いや、魔力といっていいのかはよくわからない。フレアも魔力と呼んでいるが、どうも俺には別の力のように感じているのだ。ともかく、それに準ずるような力を持っている。
«ほとんど残ってますよ?»
「・・・すごいな。」
«だって、私はまだほとんど戦ってないので。琉斗様の体なので攻撃できなかったんですよ。»
「あー。なるほど。それだったら占拠するものありだな。けど、占拠したところで・・・」
«確かに。じゃあ、カラズに戻りましょうか。»
「ああ。俺は魔力を温存したいから道をお願いしてもいいか?」
«はいっ。任せてください!・・・あ。»
「ん?」
«これ結局帝国軍の拠点突っ切ることになりません?カラズってあっちだと思うのですが。»
「・・・確かに。」
俺は黒多頭蛇に体を奪われているうちに、帝国軍の拠点の奥深くにまで来てしまっていたらしい。
「なぁ、フレア。」
«はい?»
「Thirdってどんな奴かわかるか?」
«分かりますよー。あっ、もしかして呼び出せそうな感じですか?»
「ああ。ちょうどいいから大丈夫そう奴なら呼び出してみようと思う。」
«いいと思います。あいつとは違って優しい子なので私としても歓迎できます。»
「それじゃ。」
『「Third 陰霊」ぃ』
First陰狼のときは俺と同じような低い声、Second陰炎のときはフレアの元気な声だった。今回は俺の声にかき消されるほどの小さな、弱弱しい声であり、それでいてどこか薄寒さを感じさせるものだった。
影が渦巻くように集まり、だんだんと形を成していく。
現れたのは――
「なんか・・・」
«琉斗様。言いたいことは分かります。言いたいことは分かりますが、決して私の分身とかじゃないですからねっ!?»
フレアが陰霊を姿を見てそう言った。
陰霊の姿は黒くて、浮遊していて、まるで魂のようだった。フレアと初めて会ったときの姿に非常によく似ている。違いといては、フレアは炎の揺らめきがあったのに対して、こちらは―――揺らめいていた。つまり、ほとんど違いがない。
フレアが焦りたくなるのも分かるほど、酷似していた。
「えーと?話せるのか?」
«たぶん無理ですね。この子心を許さないと絶対に話してくれないので。あっ、でも私になら話してくれるはずです。ちょっと待っててください。»
フレアは魂のようなものに近づく。小声で何かを話している。
少しして、こちらを振り向く。
«はい、えっと、あの状態は本当に魂の状態らしいです。初めて王に呼び出させて、どの状態になったらいいのか分からなかったらしくて。»
「ええと・・・?」
その言い方だと、いろんな状態になれるってことか?
«レイ。なんか違う姿になってー。»
どうやら、陰霊の名前はレイというらしい。陰霊の霊の部分そのままだから、非常に分かりやすい。本当に名前かが怪しくなるぐらいだ。フレアが勝手にあだ名で呼んでいる可能性もある。
陰霊の姿が霧散し、再び形を成すように集まった。
「・・・。」
«レイ。なんでその姿?»
現れたのは小さな少女。エミュリアよりも小さい。
これには、俺は言葉を失った。どうしてこうにも俺の周りには女子ばかりなのか。
フレアはレイになぜその姿になったのかを問い詰めだした。
«・・・え?ちっちゃい女の子が好きそうだったから?»
「え。」
フレアがレイに聞き返す言葉で俺にも聞こえた。
だが、これは完全に否定することはできない。全く持ってロリコンではないが、正直年上よりも年下のほうが好みであるように思う。フレアがそうであるように。
かといって、それが他人にも伝わるほどだとは思っていない。
«えーと、レイ。それは否定できないけど、»
・・・フレア?
«これ以上増えたら困るし、それにレイに性別とかないでしょ?琉斗様ならどんな姿でも気味悪がったりしないからもっと自分の好きな姿でいいよ。»
陰霊がしばらく考えたのち、こくりと頷いた。再び霧散して、集まる。
「・・・へぇ。」
俺は感嘆の声をもらす。
現れたのは、竜だった。
鱗や皮膚は一切なく、すべてが黒い骨でできていた。浮遊しており、全身に禍々しい瘴気のようなものを纏っている。
見た者の大半は恐怖心を覚え、気味悪く思うだろう。
それほどの不気味さと、オーラを兼ね備えている。陰狼は強者であるというオーラだったが、こちらは冷気が吹き荒れているようなオーラだ。
«うんうん。やっぱレイはこうじゃなくちゃねー。»
「すごいな。なんていうか、ナンバースって個性豊かだな。」
今までに会った4つとも性格、能力が全く違う。
«あ、レイが照れてる。»
フレアによるとレイが照れているらしいのだが、俺には全く分からなかった。
「なんか・・・」
«帝国兵来ないですね。»
「じゃあ、こちらから行くか。」
陰霊の名前と魔王の家臣でカラズにいる水の狂戦士の名前がかぶっていますが、実際名前がかぶることって十分にあり得ますよね。混同することがないような文章にするよう心がけます。




