バカ
ちょっとグロイかも。
«琉斗様・・・良かった。もう、私ダメかと・・・。»
フレアは手で顔を覆う。そのまま声を上げて泣き出した。
・・・激痛に耐えたかいがあったな。
フレアの様子を見て本当にそう思った。ここまで自分のことを好いてくれる人がいるのだ。勝手に死ぬなんて絶対にできない。
俺はフレアとの再会に喜びを感じていたが、それを妨げるかのように左目がズキンと疼いた。
「感動の再会か・・・くくっ。だが、まだ私は残ってるぞ?」
«黒多頭蛇・・・お前。»
化け物改め黒多頭蛇は、俺の意識が戻ったことへの怒りの感情ではなく、むしろどこか面白がるようにそう言った。
あとは、こいつを何とかしないといけないな。
俺は疼く左目を押さえながら深く息を吐いた。
「そうだな。お前がいるといつ暴れられるか分からなくて困る。」
「そうだろう?だから一ついい案がある。」
「何?」
「時間によって体の支配権を分けるのだ。」
«なっ!»
「・・・。」
「零時から正午までを王が。正午から二十四時までを私が支配する。ただ、それだけではこの交渉に意味はないだろう?だから、王の指定する者には手出ししないと約束しよう。」
「なるほどな。」
予想よりも俺に好条件な提案だった。
もちろん、一日の半分が失われるのは大きい。それに、俺の指定した人には手出ししないとしても、その間何されるかが分からない。俺に影響が全くないなんてことは、化け物のことだからあり得ないだろう。
しかし、このままではどうしようもないのも事実。
今は俺が黒多頭蛇を抑え込んでいるが、ずっと気を張り続けることなんてできないし、したくない。
それなら、一日の半分を与えてもいいのではないか。
前までだったらそう考えてたかもな。
「どうだ。悪くない――」
「なぁ。化け物。」
俺は化け物が黒多頭蛇という名であることを知っていたが、あえて化け物と呼んだ。
「俺をあまり見くびるな。」
「陰棘」
黒い棘が俺の腹や胸から突き出す。
「は?」
«琉斗様!!»
俺は吐血した。
血を吐いているのでろくに言葉を発することもできない。
だが、ここで止まるわけにはいかない。ここで止まったらただ死ぬだけだ。
「・・・陰なる回復。」
黒い影が俺を包み、傷口を癒す。
やっぱ、痛いのは慣れないな。
どれだけの痛みに耐えてきたとしても、それに慣れるなんてことはできない。それは痛みを感じなくなるほど傷ついただけだから。
自分で自分を痛めつける。
それは辛く、悲しいこと。
周りから見てもそうだろうが、やっている本人が一番辛い。
だが、俺はここまで何もできていない。
自分の始末ぐらいはしないと、格好がつかない。
「陰棘。」
再び黒い棘が俺の体から突き出す。
そしてそれを消す。
「陰なる回復。」
ただ自分を刺すだけならすぐに死んでしまうので、回復する。
これの繰り返しだ。
「・・・王よ。まさか。」
「安心したよ。お前も痛みを感じてるようで。」
俺は自分の左目へと右手を持ち上げる。
「化け物。俺の魂は狂っていると言っていたな。それは合っていると思う。」
黒い棘が体を貫く。
俺は大量に吐血しながら、少し笑った。
「・・・我慢比べだ。」
右手を左目に入れ、眼球を引きちぎった。
あいにく、自分で自分を刺すことには慣れている。
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「・・・消えたか。」
自分自身への拷問を繰り返すこと十数回。
予想より早く黒多頭蛇は消えた。
痛めつけることには慣れていても、立場が逆になると嫌なのか。
たぶんそうではない。
あいつはそれに耐えられないほど脆弱ではないだろう。
おそらく俺を見かねて消えた。これ以上我慢比べを続けていても意味がないと。
黒多頭蛇がいなくなったのは気がついていたが、それからも何度か陰棘で自分を刺した。
念には念を入れなければ、と。
俺はその場に倒れこむ。
さすがに疲れた。
寝転ぶ俺に陰がかかった。
「フレア。」
«・・・。»
フレアは無言だった。
・・・え?
そして、思いっきり頬を叩かれた。
«ぐずっ。・・・琉斗様の、バカぁああああ!!!»
フレアは大声をあげて泣き出した。頬にその涙が落ちてくる。
«なんで、そんなこと、するんですか。いくらあいつを追い出すためだからって・・・。ううっ、あんまりです。»
「フレ、ア?」
«私はっ、琉斗様のことが好きです。大好きですっ。»
「・・・。」
«それなのに、そんな、自分を痛めつけて。見てる私が辛くないとでも思ったんですかっ!»
俺は何も言えなかった。
自分で自分を痛めつけること。俺が化け物を追い出すために一番いいだろうと考えた方法だった。
しかし、それをフレアが見ていたのだ。
好きな人を攻撃するのは辛いだろう。これは俺が暗闇の中で考えたことだ。
だが、それと同じぐらい見ているだけなのも辛いはずだ。
«だいたい、めちゃくちゃ心配したんですからねっ。それでやっと会えたのに・・・。琉斗様はバカです。»
「・・・ああ、そうだな。」
俺はゆっくりと起き上がり、フレアを抱きしめる。
「ごめん。フレア。何も考えれていなかった。本当にごめん。」
«・・・私、怒ってますから。許さないからねっ。»
「それでいい。今回俺は何もできてない。全部俺が悪かった。ここまで順調だったから油断してたんだ。ほんと、ごめん。」
«そんなこと、ないです。あいつを倒したのは、琉斗様です。»
「そうかもしれないが、それでフレアを傷つけた。なら何もできてないのと同じだ。」
«・・・。»
俺は化け物を追い出したかった。
それは単に自分の中に異物がいるのが嫌だったというだけでなく、俺の周りの人を傷つけたくなかったから。
「ありがとな。フレア。俺を助けてくれて。俺を好いてくれて。」
しばらく抱きしめていたが、腕を少し緩め、フレアの顔を見つめた。
涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっているが、とても綺麗だった。
「フレアはさ、自分で自分を美少女だっていってただろ?」
«・・・はい。»
「正直あの時は自信過剰な奴だなって思った。だけど、」
今言うべきことではないかもしれない。こんなかっこ悪いときに言われてもうれしくないだろう。
それに、今言うと、気持ち悪いと思われるかもしれない。そんな言葉で丸め込もうとしていると。
だけど、これが俺の正直な気持ちだった。
「お前は美少女だよ。フレア。俺はフレアのことが好きになったかもしれない。」




