おばあさんになるまで
わたしは乱れたこころで水平線を眺めている。すると後ろに気配がする。振り返る。そこに女の人がいる。わたしより少し年上のようだった。肩まで届く茶色く染めた髪に蝶のアクセサリーを付けている。スヌーピーが描かれたTシャツににジーンズ、アディダスのスニーカーを履いている。彼女はわたしを見ている。
「時々、視野の狭いあなたたちがきらきらして見えることがある。なぜだか、とても羨ましくなることがある。多分みんな感じていると思う。でも、誰も口に出さないの」と彼女はいう。わたしは自然に彼女を受け入れる。
「わたしは帽子が好きだった。でも、ろくな帽子被れなかった。だからちょっといじわるしたくなって」
「ごめんなさい」とわたしはいう。
「あなたが謝ることじゃないと思うけど」
「で、でも、そう聞くと、ざ、罪悪感がある。わたしのこと、ゆ、許してくれる?」
「わたしはもう誰も恨んでいない。でもそれは許しているとはちがうかもしれない。あなたはわたしを許してくれるの?」
「も、もちろん」
「そう、よかった」
「わたしたちはあなたたちに謝らなければならないとわたしは思っている。だから礎のような場所は面はゆい場所でもあるの。寄り付かない人もいる」
わたしはふと思いつく。「わ、わたしの帽子、かぶってくれる?」
彼女は黙っている。わたしは帽子に近づき手に取る。あんなに転がったのにほこりひとつ付いていない。不思議だなとわたしは思う。彼女に近づき帽子をかぶせる。少し位置を調整する。彼女の頭が感じられる。
「に、似合ってる」
「服に合ってないじゃない」
「あ、あなたに、か、貸してあげる」
「え」
「わ、わたしが、おばあさんに、なるまで。わ、わたしの代わりに、た、た、たくさんかぶって」
わたしは彼女に微笑む。すると微笑みが返ってくる。
「あ、飽きるかな?」
「ううん、わたしにはほんのちょっとの時間」




