強く輝いている
雲間を抜けると一面の青空だった。小さい窓から外を見る。太陽と、下には厚い雲の海が見える。たとえ地上で薄暗く雨が降っていても、雲の上ではいつも明るく晴れている。この世界にはそんな場所がある。わたしはそのことに感動する。あたりまえのことなのだけど知らなかったのだった。キャビンアテンダントの人が飲み物を配っている。わたしはリンゴジュースを小さな紙コップに貰ってちびちび飲んでいる。もうすっかりリラックスしている。飛行機も悪くはないじゃないか心配し過ぎたみたいだ。話し声で辺りがざわついている。隣の席のお婆ちゃんと目が合った。
「団体旅行?」と彼女がいう。そうですとわたしは答える。
「りょ、旅行ですか?」
「孫が遊びに来るっていうから。わたしはその送り迎え」
「沖縄の方なんですね」
「どこ回るの」
「ち、美ら海水族館とか、首里城とかを、み、見に行きます」
「沖縄はあっついさー、北海道の人はびっくりするんじゃないかねえ」
「そ、それも、た、楽しみにしてるんです」
「あら、そうなの」これあげるとお婆ちゃんはキャラメルをくれる。キャラメルを舐めながらわたしは深いため息をつく。背もたれに身をゆだねる。夜遅くまで準備して、朝早く起きたから眠くなってきた。わたしはうとうととする。今までで一番高いところでまどろむ。気持ちが良かった。
はっとわたしは目を覚ます。口の中の甘さが消えている。機内が薄暗くなっている。窓を見ると雲の中にいるようだった。機体ががたがたと震えている。シートベルトのランプが無機質に灯っている。機内アナウンスでパイロットの人が何か言った。でも聞き取れない。みんなの話し声が止んでいる。沈黙の静けさの中、がたがたと震える音とエンジンの音だけが聞こえてくる。どうしたんだろうとわたしは思う。
がくんと大きく揺れる。どうしたんだろう。よくあることなんだろうか。揺れる。大丈夫、大丈夫。揺れる。大きい。辺りから悲鳴があがる。怖い。わたしも。揺れる。一番安全って言ってたのに。機体の震えが段々大きくなっている気がする。揺れる。どうしよう、助けて。揺れる。隣の席の男の子が泣いている。お婆ちゃんは子供をかき抱きながら手を合わせて何かをつぶやいている。それを見てわたしはこれはもしかするともしかするかもしれないと思う。お婆ちゃんが拝むほどの何かなのだから。
家族に何か残したほうがいいのだろうか。ここで終わりなのだろうか。そんなの嫌だ。まだ何も始まっていない。これからがもっとずっと続くと信じ切っていた。わたしたち、みんなまだ十代なのに。知らないことがたくさんあるのに。生きたい。辛いことがあっても悲しいことがあっても、生きたい。わたしたちのいのちはまだ強く輝いている。助けて、神さま、助けてください。涙が滲んでくる。揺れる。
一時間半後、わたしたちの飛行機は那覇空港に着く。定刻通りだった。機体が滑走路に着陸した時、自然と拍手と歓声があがった。ほっとする。よかったとこころから思う。見ると男の子もお婆ちゃんも笑っている。まだ続くのだ。
「しわしわの顔で笑いたい谷のさき山のさきで過去をあおいで」とわたしは詠う。




