1分の出来事
スタイリストは田村さんという女性のひとだった。本田翼がやっていて可愛かったので、その髪型を真似る。こんな感じでおねがいしますと田村さんにスマホで画像を見せる。ふむふむと田村さんがいう。やっていきましょうか。
「今日はどうしてこの店に来てくれたんですか?」
「す、好きな人が、できて、き、きれいになりたいと思って、来ました」
「そう! なんか初々しいね」
「よ、よろしく、お願いします」
「告白なんかしちゃったりする予定?」
「準備が、と、整ったら」
なんだか、久しぶりに腕が鳴るなあと田村さんがいう。その後は修学旅行の話をした。田村さんと話をしていて、姉がいたらなとわたしは思う。兄にはできない、色んな話が出来たのだろうになと思う。恋の話がしたかった。恋の仲間が欲しかった。橋子も永遠もいるのに贅沢なのかもしれない。でも、抑えがたいこの気持ちを誰かと共有したかったのだった。行く先の無い苦しくて、燃えるようなこの気持ち。わたしも同じと誰かに言ってほしかった。
出来上がった髪は今までとは大きく違った。田村さんに毎朝のスタイリングの仕方を教えてもらう。店で取り扱っているスタイリング剤を買う。照れくさい気持ちで家に帰るとあら、いいじゃないと母がいう。
いつもより一時間早く起きて、髪をセットする。スカートも少し短くして学校に行く。教室に入るのが恥ずかしかった。わたしはうつむいて席に座る。みんなに見られているのかはよくわからない。五十嵐くんはわたしのことを見ているだろうか。何か思ってくれるだろうか。どうか見ていますようにとわたしは祈る。
昼休み、図書準備室に行く。こりゃたまげたなあと橋子がいう。かわいいじゃんと永遠がいう。わたしはふたりに気になる人はいないのか聞く。橋子は特にいないという。永遠は中学校の時に好きだった人を未だに思い出すことがあるという。
「い、いつやってくるか、わからないんだからね」とわたしはふたりにいう。「い、1分の、で、出来事なんだから」
「わたしにも来るのかなあ」
「く、来るよ。必ず、来るよ」
「来たらいいなあ」
「一寸の先のひかりを知らなくてやみが深いとさめざめとわれ」とわたしは詠う




