朗読会
わたしたちは図書準備室にいる。「佐々木清彦って知ってる?」と橋子がいう。知らないとわたしはいう。
「この学校の卒業生で、大学在学中に小説の新人賞をとってデビューしたの。今26歳でこれまでに本を3冊出してるんだよ。文芸部の憧れの人なの」
「く、詳しいね」「わたしもファンだからね」
「恵美ちゃん先生がそう呼んでるから、わたしたちも清彦くんって呼んでるの。年は離れてるけど親しみやすい人なんだよなあ」ちょっと来てとわたしたちは準備室をでる。
「今清彦くんは札幌に住んでて、この図書室で朗読会を開いているんだよ。来月次のがあるの。ほらここに特設コーナーがあるでしょ」と橋子は指をさす。
「ほんとだ」ポップはあるが、本は無かった。
「借りられてるね」
「どの本もいつも予約でいっぱいなんだよねえ。ねえ、わたし清彦くんの本、全部持ってるの。いばら、読んでみたい?」
「よ、読んでみたい」「そう。じゃあ、持ってくるから!」
金曜日、わたしは橋子から清彦くんの本を借りる。次の朗読会から始まる、新しい物語が収められた本だった。土曜日、やることを済ませたわたしは机の前に座る。机にはわずかなぬくもりを込めた陽光が窓から射し込んでいる。本を読む習慣の無いわたしでも読めるのだろうか。何より橋子が面白いと思う本を、わたしは果たして同じように面白いと思えるのだろうか。わたしはどきどきする。
わたしは本を開く。それは「凭れあうふたつロウソク」というタイトルだった。本を閉じた時、辺りは冬の薄暗い暗闇に包まれていた。わたしは部屋の明かりを点ける。部屋に現実感が戻ってくる。窓を広く開けて沈黙を追い出す。日曜日、わたしはもう一度本を開く。今度は1週間かけてゆっくり読んだ。
朗読の日がくる。わたしたちは机を動かし椅子を並べる。マイクと音を流すスピーカーのセッティングをする。司会の3年生はリハーサルをする。気の早い生徒が来て、椅子が段々と埋まっていく。先生の姿もある。始まる30分前、清彦くん来ましたと恵美ちゃん先生に連絡がある。時間まで清彦くんは空き教室で待機することになっている。藤原さん、と恵美ちゃん先生がわたしを呼ぶ。




