天気の話をするころ
わたしは微笑みを絶やさない。頑張っている。ふたりの話を聞いている。ふたりは夏休みにするアルバイトの話をしている。稼いだお金でフジロックを見に行くらしい。少し気詰まりになってきた。そろそろ天気の話をする頃なんだろうか。唐突な気がするが、話題が次々と変わっていくんだから大丈夫なんだろう。何よりわたしからも話題を始めなくてはならない。キャッチボールなのだから。わたしの順番なのではないかと思った。
「きょうは、天気が、いいね」
「え?ああ、そうだね」
「嬉しいね」
「ああ、うん」
少しだがキャッチボールができた! 練習の成果だ。わたしは満足だった。興奮している。波が来ている。次は考えてきた小話を話そうと思った。
「き、昨日、お風呂に、は、入ってたら」ふと、ふたりの携帯が可愛げに鳴った。ふたりは携帯を手にする。
「ホラー、映画を見てて、見てたんだけど」
ふたりは携帯を見ている。話を一度止めた方がいいのだろうか。ふたりの用事が終わってからあらためたほうがいいのかもしれない。大事なメールなのかもしれない。でも聞いていてくれてるのかもしれない。それに再び最初から話すのがわたしは怖かった。だから続けることにした。
「こ、怖くて、そ、そしたら、け、携帯が鳴って」
練習では先に携帯で映画を見ていたと言うんだった。これではわからないかもしれない。失敗してしまった。胸が冷たくなる。何とかしたくて急に大きな緊張に襲われる。喉が強張る。眉間にしわが寄る。顔が赤くなっていく。醜い顔になっているとわたしは思った。
「びび、びっくりして、け、け、携帯落としちゃった、お、湯に」
ふたりは携帯を置く。ふたりは無表情だった。上手くいかなかった。
「え?なんだって?聞いてなかった。聞いてた?」
「わたしも聞いてなかった。もっかい言ってくれる?」わたしは下を向く。上手くいかなかった。
「いいの」とわたしはいう。
「あ、そう。そうなんだ」
もう話せないと思った。少なくとも今日はもう話せない。自分の席に戻りたかった。チャイムが鳴ってくれないかなと思った。時計を見ることはできない。お弁当はまだ何も手を付けていなかった。
「藤原さんてさ」ふと渋谷さんがいった。「みんなと違うというか、孤高?って感じがしてたんだけどさ、違ったんだね」
よくわからなくて、わたしは返事をすることができなかった。だから言葉が宙に浮かんで余韻が場に長く残った。




