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第6話、初めての任務

 第一騎士団に入ってから、数日。


 イリスは、毎日厳しい訓練を受けていた。


 走って。

 剣を振って。

 魔法の練習をして。

 そして――


「つ、疲れたぁ……」


 訓練が終わるたびに、ユナの部屋へ戻ってくるとベッドに倒れ込む。


「お疲れさま、イリスちゃん」


「今日も頑張りました……」


「えらい、えらい」


 ユナが笑いながら、イリスの頭を撫でる。


「でも、少しずつ慣れてきたんじゃない?」


「はい!」


 イリスは顔を上げる。


「最初は十周走るだけでも大変だったんですけど、今はちゃんと最後まで走れるようになりました!」


「そうね」


「剣も、前より上手くなった気がします!」


「うんうん」


「魔法も!」


「……そこは、まあ普通ね」


「えへへ」


 イリスは笑った。

 第一騎士団での生活は、思っていたよりずっと楽しかった。


 厳しい訓練も。


 仲間たちとの時間も。


 ユナと同じ部屋で過ごす毎日も。


 全部が新鮮だった。


 ――そんなある日のことだった。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーー



「全員、集合してください」


 朝の訓練場。


 いつもとは少し違う空気が流れていた。


 第一騎士団の騎士たちが、次々と集まってくる。


「何かあったのかな?」


 ノアが隣で呟く。


「分からないです」


 イリスも首を傾げた。


 やがて。

 アルフォンスが訓練場の中央へと歩いてきた。

 その表情は、いつもより真剣だった。


「本日、第一騎士団に任務が入りました」


「……!」


 イリスの目が輝く。


「任務……?」


 思わず小さく呟いた。


 騎士になった。


 訓練もした。


 でも。


 まだ本物の任務には参加したことがない。


 つまり――


「初任務……!」


 イリスの胸が高鳴った。


 アルフォンスは続ける。


「魔の森の周辺で、魔物の異常発生が確認されました」


 魔の森。


 その名前を聞いた瞬間、何人かの騎士の表情が変わる。


「通常よりも多くの魔物が確認されているようです」


「討伐隊を編成する」


 ヴィルヘルムが口を開いた。


「今回の任務には、第一騎士団だけでなく――」


 一度、言葉を切る。


「魔法師団にも協力を要請している」


「魔法師団……?」


 イリスは小さく首を傾げた。


 魔法師団。


 その名の通り、魔法を専門とする騎士団。


 これまで訓練場で魔法を使っていた自分とは、少し違う。


 より魔法を専門としている人たち。


 そんな人たちと一緒に任務をする。


 それだけで、なんだか楽しそうだった。


「今回の任務では、騎士団と魔法師団が連携して魔物を討伐します」


 アルフォンスが説明する。


「魔の森は広大です。討伐対象の数も多い。決して油断しないようにしてください」


「はい!」


 騎士たちが一斉に返事をする。


 イリスも負けじと声を上げた。


「はい!」


 アルフォンスが新人二人を見る。


「ノアさん、イリスさん」


「「はい!」」


「今回の任務には、あなたたちも参加してもらいます」


「……!」


 イリスの目がさらに輝く。


「私もですか!?」


「ええ」


「やった!」


 思わず両手を握る。

 ノアも少し驚いた顔をしていた。


「僕たちも、もう実戦なんですね」


「新人だからといって、特別扱いはしません」


 アルフォンスはそう言ったあと。

 少しだけ表情を柔らかくした。


「ですが、決して無理はしないでください」


「はい!」


 イリスが元気よく返事をする。


「特にイリスさん」


「……?」


「あなたは――」


 アルフォンスが少しだけ目を細める。


「勝手な行動をしないように」


「……!」


「魔物を見つけても、一人で追わないこと」


「はい!」


「危険を感じたら、必ず近くの騎士に知らせてください」


「はい!」


「そして――」


 アルフォンスは、真っ直ぐイリスを見る。


「自分だけで何とかしようとしないことです」


「……」


 イリスは少しだけ黙った。


 それは。

 訓練中にも言われたことだった。


『騎士は一人で戦うものではありませんから』


 この間の言葉が、頭の中に蘇る。


「……分かりました!」


 イリスは笑った。


「ちゃんと仲間を頼ります!」


「……ええ」


 アルフォンスは少しだけ安心したように頷いた。



 ーーーーーーーーーーーーーーーー



 任務の準備が始まった。

 騎士たちはそれぞれ武器を確認し、防具を整える。

 イリスも自分の剣を腰に差した。

 白い騎士服。

 胸元には第一騎士団の紋章。

 そして腰には、一振りの剣。


「……なんだか」


 イリスは剣を見下ろす。


「本当に騎士になったんだなぁ」


「どうしたの?」


 隣で準備をしていたノアが尋ねる。


「初めての任務だから、ちょっとだけ緊張してます」


「イリスでも緊張するんだ」


「しますよ!」


「なんだか意外」


「ひどいです!」


 二人で笑う。


 すると。


「新人二人とも!」


 後ろから声が飛んできた。


 振り返ると、数人の騎士が立っていた。


「初任務だからって、無茶するなよ!」


「特に魔の森は危険だからな!」


「分からないことがあったら、すぐ俺たちに聞け!」


「はい!」


 イリスは元気よく返事をする。


「ありがとうございます!」


 その様子を見ていたノアも、


「よろしくお願いします!」


 と頭を下げた。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーー



 しばらくすると。

 魔の森へ向かうための馬車が用意された。


「これに乗るんですか?」


 イリスが目を輝かせる。


「そうだよ」


 ノアが笑う。


「遠足じゃないからね?」


「分かってます!」


 そう言いながらも、イリスは少し楽しそうだった。


 馬車へ乗り込む。

 他の騎士たちも続いていく。

 しばらくして。

 馬車がゆっくりと動き始めた。

 ガタン。

 車輪が地面を踏みしめる。

 窓から外を見る。


 アルセリア王国の街並みが、少しずつ遠ざかっていく。


「……」


 イリスは窓の外を眺めた。

 騎士になって。

 仲間ができて。

 初めての任務に向かっている。

 胸の奥が、少しだけ熱くなる。


「楽しみ?」


 ノアが尋ねる。


「はい!」


 イリスは笑った。


「どんな魔物がいるんでしょう?」


「怖くないの?」


「もちろん怖いですよ」


「……そうは見えないけど」


「だって!」


 イリスは笑顔のまま言った。


「初めての任務ですから!」


 その言葉に、ノアも笑った。



 ーーーーーーーーーーーーーーー



 しばらく馬車を走らせると。

 景色が変わってきた。

 街並みが消え。

 木々が増えていく。

 そして。


 遠くに巨大な森が見えた。


「……あれが」


 誰かが呟く。



「魔の森だ」



 イリスは窓から身を乗り出すようにして見る。


 どこまでも続くような、深い森。


 木々が密集し、昼間だというのに奥の方は薄暗い。


「……大きい」


 思わず声が漏れる。


 イリスは、少しだけ楽しそうに笑った。


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