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第5話②、第一騎士団の訓練

昼休み。



訓練場の隅で、イリスは水を飲んでいた。


「疲れたぁ……」


「お疲れさま」


隣にノアが座る。


「ノアさんも、お疲れさまです!」


「イリスは元気だね」


「そうですか?」


「うん、僕もう少し頑張らないとね」


ノアは少し笑った。


「でも、すごかったよ」


「何がですか?」


「アルフォンス団長との模擬戦」


「……!」


イリスは慌てて手を振る。


「たまたまです!」


「たまたまで、あんなに避けられるわけないよ」


「……」


「それに」


ノアが少しだけ真剣な顔になる。


「剣を振るときのイリス、なんだか別人みたいだった」


「……!」


一瞬。


胸の奥が冷たくなる。


けれど。


「……昔、少し教えてもらっただけですよ」


イリスは笑った。


「そうなんだ」


ノアもそれ以上は聞いてこなかった。


「じゃあ、午後も頑張ろう」


「はい!」


イリスは立ち上がった。


その顔には、いつもの笑顔が戻っている。



ーーーーーーーーーーーーーーーーー



午後の訓練。



今度は魔法だった。


「魔法訓練は、基礎から行います」


アルフォンスが説明する。


「魔力を集め、魔法陣を構築し、詠唱によって術式を完成させる」


騎士たちが一斉に魔力を練り始める。


イリスもそれに合わせた。


「……」


身体の奥にある魔力。


それをほんの少しだけ動かす。


――普通の魔法。


それならできる。


むしろ。


普通に見せるために、できなくてはいけない。


「炎よ、集え」


小さな火の玉が浮かぶ。


「おお」


「新人にしては悪くないな」


イリスはほっとした。


けれど。


そのとき。



どこからか――



「……」


小さな声が聞こえた。




《もっと、力を出して》




「……!」


イリスの目が見開かれる。




《本当の力を使えばいいのに》




「……」


精霊の声。


古き魔法。


自分だけが使える力。


イリスはそっと手を握った。


「……だめ」


誰にも聞こえない声で呟く。


「まだ、使わない」


その力を使えば。


きっと、また何かが変わってしまう。


だから。


今は――


ただの新人騎士。



(だって今の私はーイリスーだから)



「イリス?」


ノアの声で我に返る。


「どうしたの?」


「……なんでもないです!」


イリスは笑った。


「ほら、魔法の練習しましょう!」


「うん」


ノアも笑う。


その様子を。


少し離れた場所からアルフォンスが見ていた。



ーーーーーーーーーーーーーーーー



訓練が終わった頃。


空は夕焼けに染まっていた。


「終わったぁ……!」


イリスはその場に座り込んだ。


「疲れました……」


ノアも隣で息を吐く。


「僕も……」


そこへ。


ヴィルヘルムが歩いてくる。


「どうだ?」


「……総長」


イリスは顔を上げた。


「第一騎士団の訓練は」


「……」


少し考える。


そして。


「すっごく楽しかったです!」


「……そうか」


ヴィルヘルムは笑った。


「なら、明日も頑張れ」


「はい!」


「ただし――」


ヴィルヘルムはイリスを見る。


「無理はするなよ」


「……?」


「お前は、自分で思っている以上に頑張りすぎるところがある」


「……」


イリスは少しだけ黙った。


そして。


「……はい!」


いつもの笑顔を浮かべる。


ヴィルヘルムはその笑顔を見つめた。


ほんの一瞬。


その目に、何かを見抜くような光が宿る。


けれど。


「じゃあ、また明日な」


「はい!」


ヴィルヘルムはその場を離れていった。


「……疲れたぁ」


イリスはもう一度呟く。


ノアが笑う。


「今日は早く寝た方がいいね」


「そうします!」


二人は並んで歩き出す。


その背中を見送りながら。

アルフォンスは静かに呟いた。


「……あの子は」


「何かあるのか?」


いつの間にか隣にいたヴィルヘルムが尋ねる。


アルフォンスは少し考える。


「分かりません」


「ほう?」


「ただ――」


アルフォンスは、遠ざかっていく白い制服を見る。


「剣だけではありません。何か、自分の力を隠しているように見えます 」


ヴィルヘルムは少しだけ目を細めた。


「……やっぱり、そう思うか」


二人はしばらく黙って少女の背中を見つめていた。



ーーーーーーーーーーーーーーーー



その夜。


寮の部屋に戻ったイリスは、ベッドに倒れ込んだ。


「つかれたぁ……」


「お疲れさま」


ユナが笑う。


「初めての訓練、どうだった?」


「すっごく厳しかったです!」


「でしょう?」


「でも――」


イリスは枕に顔を埋めたまま笑った。


「楽しかったです!」


ユナは嬉しそうに笑う。


「ふふっ。それならよかった」


「明日も頑張ります!」


「無理はしないでね?」


「はい!」


返事をして。


イリスは目を閉じた。


今日一日。


たくさん走った。

たくさん剣を振った。

魔法も使った。


そして。


たくさん笑った。


「……明日も」


小さく呟く。


「楽しみだなぁ……」


少女はそのまま眠りについた。


このときのイリスは、まだ知らなかった。


自分の力を隠し続けることが。


いつか――


大切な仲間たちを巻き込むことになるなんて。


そして。


この第一騎士団での日々が。


少女にとって、かけがえのないものになっていくことを。


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