第5話①、第一騎士団の訓練
「さあ、早く準備しましょう」
「はい!」
急いで着替え、顔を洗い、髪を整える。
鏡の中には、白い髪と琥珀色の瞳をした少女が映っている。
そして。
真っ白な騎士服。
胸元には、第一騎士団の紋章。
「よし!」
少女は笑った。
「今日も頑張ろう!」
「その意気よ!」
ユナと一緒に部屋を出る。
向かう先は、第一騎士団の訓練場だった。
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「遅いぞー!新人!」
「す、すみません!」
訓練場に着いた瞬間。
大きな声が飛んできた。
イリスがびくっと肩を揺らす。
そこには、すでに多くの騎士たちが集まっていた。
剣を持っている者。
槍を持っている者。
魔法の訓練をしている者。
その誰もが、一目で分かるほどの実力者だった。
「おはようございます!」
イリスが元気よく頭を下げる。
「おう!」
「おはよう、イリス!」
「今日から本格的に鍛えるぞ!」
「……!」
イリスは少しだけ目を丸くした。
怖い。
そう思っていた。
けれど。
誰も冷たい目をしていない。
むしろ――
「イリス、こっち来い!」
「え?」
「まず準備運動だ!」
「はい!」
駆け寄っていくイリスを見て、ノアも笑った。
「朝から元気だね」
「ノアさんもですよ!」
「僕は普通だよ」
「そっか!」
そういいながら、イリスとノアは準備運動を始める。
そうしていると。
訓練場の中央へ、アルフォンスが歩いてきた。
「皆さん、準備はできていますか?」
「「「「「はい!」」」」」
騎士たちの声が響く。
アルフォンスは新人二人を見る。
「ノアさん、イリスさん」
「「はい!」」
「今日から第一騎士団の訓練に参加してもらいます」
アルフォンスは一度、二人を見た。
「最初に言っておきますが――」
少しだけ表情が厳しくなる。
「第一騎士団の訓練は、決して楽なものではありません」
「……!」
イリスの顔が引きつった。
昨日のヴィルヘルムの言葉が蘇る。
『明日からもっと楽しくなるぞ』
『第一騎士団の訓練は厳しいからな』
「……」
「……イリスさん?」
「は、はい!」
「大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫です!」
アルフォンスは少しだけ目を細めた。
「そうですか」
そして。
「では――始めましょう」
その一言と同時に。
第一騎士団の訓練が始まった。
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最初は走り込みだった。
「第一騎士団の訓練場を十周!」
「十周!?」
イリスが思わず声を上げる。
周囲の騎士たちは平然としている。
ノアも少し驚いていたが、すぐに走り始めた。
「イリス、行こう!」
「はい!」
二人で走り出す。
一周。
二周。
三周。
「はぁ……はぁ……」
ノアの息が少しずつ荒くなる。
一方のイリスは――
「……」
まだ余裕があった。
けれど。
「……あ」
イリスはすぐに速度を落とした。
自分だけ速く走ってしまえば、目立つ。
そう思ったからだ。
「イリス、先に行っていいよ」
ノアが息を切らしながら言う。
「え?」
「僕、ちょっと遅いから」
「じゃあ、一緒に走りましょう!」
「でも――」
「仲間なんですよね?」
イリスが笑う。
ノアは少し驚いた。
そして。
「……そうだね」
笑い返した。
「じゃあ、一緒に行こう」
「はい!」
二人は並んで走り続けた。
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次は剣術。
木剣を渡されたイリスは、少しだけ握り直した。
「まずは基本動作です」
アルフォンスが説明する。
構え。
足運び。
振り下ろし。
受け。
一つ一つの動作を確認していく。
「イリスさん」
「はい!」
「少しだけ、やってみてください」
「分かりました!」
イリスは構えた。
――剣は、慣れている。
昔。
何度も何度も練習した。
もっと強くなりたくて。
守れるようになりたくて。
だから。
身体が覚えている。
「……」
一度だけ深呼吸。
そして。
振る。
「――!」
木剣が空気を切った。
周囲の騎士たちが、一瞬だけ静かになる。
「……今の」
誰かが呟いた。
「十二歳だよな?」
「え?」
イリスはきょとんとする。
アルフォンスも、わずかに目を細めた。
「悪くありませんね」
「本当ですか!?」
「はい」
「やった!」
イリスが嬉しそうに笑う。
アルフォンスはその笑顔を見ながら、続けた。
「ですが――」
「?」
「少し、変ですね」
「……!」
イリスの身体が一瞬だけ固まった。
「剣を始めて間もない人の動きではありません」
「……」
「誰かに、かなりきちんと教わったことがありますか?」
イリスは少しだけ考えた。
そして。
「……昔、少しだけ」
「そうですか」
「では、続けましょう」
「はい!」
イリスは再び木剣を構えた。
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その後も訓練は続いた。
素振り。
足運び。
受け身。
簡単な魔法の訓練。
そして――模擬戦。
「二人一組になってください」
その言葉に、騎士たちが次々と相手を決めていく。
イリスはノアを見る。
「ノアさん、私たちで――」
「イリス」
「?」
声をかけてきたのは、アルフォンスだった。
「あなたは私とやりましょう」
「……え?」
「少し、確認したいことがあります」
「……!」
イリスは木剣を握り直した。
「よろしくお願いします!」
「こちらこそ」
アルフォンスが構える。
その瞬間。
空気が変わった。
さっきまでの穏やかな表情とは違う。
第一騎士団団長。
この国でも最強と呼ばれる騎士の一人。
イリスは思わず笑った。
「……楽しそうですね」
アルフォンスは少しだけ驚いた。
「そうですか?」
「はい」
「では――」
アルフォンスが踏み込んだ。
速い。
イリスは反射的に身体を動かした。
「――!」
木剣が目の前を通り過ぎる。
一歩下がる。
次の一撃。
避ける。
さらに一撃。
受ける。
「……!」
周囲から声が上がった。
「避けたぞ」
「今の見えたのか?」
イリスは笑っていた。
けれど。
心の中では必死だった。
――速い。
昨日の総長とは違う。
アルフォンスは、速さだけではない。
一つ一つの動きが正確だった。
「どうしました?」
「……!」
アルフォンスの木剣が迫る。
イリスは身体を低くしてかわした。
そのまま横へ回り込む。
「――!」
木剣を振る。
しかし。
「甘いですね」
カンッ!
簡単に受け止められた。
「……!」
「ですが、悪くありません」
「本当ですか?」
「ええ」
アルフォンスは静かに笑った。
「だからこそ――」
次の瞬間。
イリスの木剣が弾かれた。
「……!」
手から離れた木剣が、地面に転がる。
「そこまでです」
「……負けたぁ」
イリスは肩を落とした。
けれど。
すぐに笑った。
「ありがとうございました!」
アルフォンスは少しだけ目を細める。
「……負けても笑うんですね」
「はい!」
「なぜです?」
「楽しかったので!」
昨日。
ヴィルヘルムにも同じことを聞かれた。
そのときと同じ答えだった。
アルフォンスは少しだけ黙る。
そして。
「……そうですか」
優しく微笑んだ。
「それなら、よかったです」
「?」
イリスは首を傾げた。




