第4話②、白き騎士団の仲間たち
その頃。
第一騎士団の食堂では――。
「新人二人は、まだか!」
「料理が冷めるぞ!」
「酒は持ってきたか!」
「今日は盛大にやるぞ!」
すでに騒がしい声が響いていた。
そして。
扉が開く。
「お待たせしましたー!」
白い騎士服を着た少女が、笑顔で入ってくる。
「おお!」
「来たぞ!」
「ちっさ!」
「だから十二歳だって!」
笑い声が広がる。
その隣では、ノアが苦笑していた。
「……これは、すごい歓迎だね」
「はい!」
イリスは嬉しそうに笑った。
「ほら、二人とも座れ!」
団員の一人が手招きする。
イリスとノアが席につく。
「改めて乾杯だ!」
「お前ら、第一騎士団へようこそ!」
「乾杯!」
「乾杯!」
グラスが一斉に掲げられる。
イリスも慌ててグラスを持ち上げた。
「乾杯!」
ぐいっと飲む。
「……おいしい!」
「ははは! それは水だ!」
「えっ!?」
「十二歳に酒を飲ませるわけないだろ!」
「あ……」
イリスはグラスを見つめる。
「……恥ずかしい」
「はははは!」
食堂中に笑い声が響いた。
イリスは頬を赤くしながらも、つられて笑った。
「じゃあ次は、俺から質問だ!」
「質問?」
「そう! 新人歓迎会の定番だ!」
大柄な騎士が身を乗り出す。
「イリス、お前はどうして騎士になろうと思った?」
「……!」
一瞬。
イリスの笑顔が止まった。
頭の奥に、あの日の光景が浮かぶ。
炎。
叫び声。
血。
そして――
「……」
けれど。
すぐに笑う。
「守りたいものがあったからです!」
騎士は少しだけ目を丸くした。
「守りたいもの?」
「はい!」
イリスは胸を張る。
「だから、強くなりたかったんです!」
「そうか」
騎士はそれ以上聞かなかった。
「じゃあ、第一騎士団に来た理由は?」
「え?」
「他の騎士団じゃなくて、第一騎士団だ」
「それは……」
イリスは少し考える。
「私も、どうしてここになったのか分からないです!」
「おい!」
どっと笑いが起きる。
「そこは自信持てよ!」
「だって本当に分からないんです!」
「確か筆記満点らしいぞ」
「えっ、満点!?」
「剣もかなりやるらしい」
「十二歳で?この小ささでか?」
今度は別の騎士がノアを見る。
「じゃあ、ノアは?」
「僕ですか?」
「どうして騎士に?」
ノアは少し考えてから答えた。
「……誰かを守れる人になりたかったからです」
イリスが隣を見る。
ノアは続けた。
「僕には、まだ足りないものが多いので」
「十分強いだろ!」
「昨日の試験見たぞ!」
「いやいや、まだまだですよ」
ノアは苦笑する。
その会話を聞いていたイリスが、ふと笑った。
「じゃあ――」
「ん?」
「私たち、似てますね!」
「……そうかもね」
二人で顔を見合わせる。
そして笑った。
「よし!」
別の騎士が立ち上がる。
「だったら決まりだ!」
「何がですか?」
「俺たちは、お前たち二人を一人前にする!」
「えっ?」
「第一騎士団に入った以上、俺たちは仲間だ!」
「……!」
イリスの目が大きくなる。
「だから、分からないことがあったら何でも聞け!」
「訓練で困ったら俺に言え!」
「剣なら俺が教えてやる!」
「料理なら俺だ!」
「料理……?」
イリスがきょとんとする。
「騎士に料理は必要だぞ!」
「そうなんですか!?」
「生き残るためにはな!」
また笑いが起こる。
その様子を見ながら、少し離れた席にいたアルフォンスが静かに口を開いた。
「皆さん、あまり甘やかしすぎないようにしてくださいね」
「団長!」
「もちろんです!」
「イリスは厳しく鍛えます!」
イリスが目を輝かせる。
「よろしくお願いします!」
アルフォンスは微笑んだ。
「ええ。ですが――」
その視線が、イリスへ向く。
「無理だけはしないでくださいね」
「……はい!」
そのとき。
「おい、イリス」
ヴィルヘルムが声をかける。
「はい?って名前!初めて呼んでくれましたね」
ニコッと笑うと、ヴィルヘルムは
「お前も立派な騎士団員だからな。名前で呼ぶさ」
といいながらイリスの頭をなで、
「昨日の模擬戦、楽しかったか?」
「はい!」
イリスは即答した。
「すごく楽しかったです!」
「そうか」
ヴィルヘルムが笑う。
「なら、明日からもっと楽しくなるぞ」
「え?」
「第一騎士団の訓練は厳しいからな」
「……!」
イリスの顔が引きつる。
団員たちが一斉に笑った。
「総長、脅かさないでください!」
「本当のことだろう」
「……明日、逃げてもいいですか?」
「駄目です」
アルフォンスが即答した。
「ですよね!」
また笑いが起きる。
イリスも笑った。
誰かが笑っている。
誰かが誰かを迎えている。
そんな当たり前の光景を、イリスはしばらく眺めていた。
そして――
「……なんだか」
胸の奥で、何かが小さくほどける。
「ここ、好きかも」
その言葉は、誰にも聞こえないほど小さかった。
けれど。
少女にとっては、大切な一歩だった。
ここが。
いつか自分にとって――
かけがえのない「居場所」になることを。
まだ、このときのイリスは知らなかった。
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その日の夜。
歓迎会を終えたイリスは、ユナと一緒に寮へ戻ってきた。
昼間の騒がしさが嘘のように、部屋は静かだった。
窓の外には、アルセリア王国の夜景が広がっている。
「今日は、楽しかった?」
ベッドに腰掛けながら、ユナが尋ねる。
「はい!」
イリスは即答した。
「すごく楽しかったです!」
「ふふっ。それならよかった」
ユナも嬉しそうに笑う。
イリスは自分のベッドに座り、少しだけ考える。
「……ユナさん」
「なあに?」
「ユナさんは、どうして騎士になったんですか?」
「私?」
「はい」
ユナは少しだけ目を伏せた。
「うーん……」
いつもの明るい表情が、一瞬だけ消える。
「昔から、誰かを守れる人になりたかったの」
「誰かを……」
「ええ」
ユナは窓の外を見る。
「守れなかった人がいたから」
「……」
イリスは何も言わなかった。
ユナも、それ以上は語らない。
けれど。
その横顔が、ほんの少しだけ寂しそうに見えた。
やがてユナは、いつもの笑顔に戻る。
「でも、今は違うわ」
「……?」
「今は、守りたい人がたくさんいるもの」
そう言って、ユナはイリスを見る。
「イリスちゃんも、その一人よ」
「……!」
イリスの目が少しだけ見開かれる。
「だから、困ったことがあったらちゃんと言ってね?」
「……はい!」
今度の返事は、いつもより少しだけ小さかった。
「約束よ?」
「約束です!」
小指を差し出すユナ。
イリスも自分の小指を絡める。
「約束!」
「ふふっ」
二人で笑う。
その夜。
イリスは、久しぶりに誰かと同じ部屋で眠った。
隣には、ユナがいる。
自分のためのベッドがある。
帰ってきてもいい場所がある。
そんなことが――
どうしようもなく、嬉しかった。
けれど。
それを言葉にするには、まだ少しだけ勇気が足りなかった。
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翌朝。
「イリスちゃーん! 起きてー!」
「……ん……?」
「朝よー!」
「……あと五分……」
「だめよ!」
「……!」
飛び起きる。
「……朝!?」
「そうよ!」
ユナが笑っている。
「今日から第一騎士団の訓練でしょ?」
「……!」
イリスの顔が青ざめる。
「そうだった……」
「昨日、総長に言われてたでしょう?」
「……逃げてもいいですか?」
「駄目よ」
「ですよね!」
部屋に、二人の笑い声が響いた。
それは。
イリスにとって、新しい日常の始まりだった。




