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第4話①、白き騎士団の仲間たち

翌日。


 イリスは、第一騎士団の訓練場に立っていた。


 昨日までは、ただの新人騎士候補だった。


 それなのに。


 今、自分は――


 第一騎士団の一員として、この場所に立っている。


「……なんだか、まだ夢みたい」


 思わず呟く。

 すると、隣から声がした。


「僕も同じだよ」


「ノア!」


 振り返ると、昨日出会った少年――ノア・アーヴェルが立っていた。


「おはよう」


「おはようございます!」


「……丁寧だね」


「だって、騎士ですから!」


「昨日もそう言ってたね」


 ノアが小さく笑う。

 そのとき。


「お二人ともようこそ、こちらへ」


 声をかけてきたのはアルフォンスだった。


「「はい!」」


 二人は揃って返事をした。


 アルフォンスに案内され、訓練場の中央へ向かう。


 そこには、すでに大勢の騎士たちが集まっていた。


「本日から正式に第一騎士団へ配属された新人を紹介します」


 アルフォンスがそう告げると、騎士たちの視線が一斉に二人へ集まった。


「まずは――」


 ノアが一歩前へ出る。


「ノア・アーヴェルです」


 落ち着いた声が響く。


「侯爵家の三男ですが、家柄に甘えることなく、一人の騎士として皆様のお役に立てるよう努力します。よろしくお願いいたします」


「おお……」

「侯爵家か」

「アーヴェル家の三男ってことは、あの優秀な?」


 騎士たちが小さくざわめく。


 ノアは少し照れたように頭を下げ、列へ戻った。


「次に――」


 アルフォンスがイリスを見る。


「イリスさん」


「はい!」


 イリスは元気よく前へ出た。


「イリスです!」


 一拍。


「十二歳です!」


 さらに一拍。


「よろしくお願いします!」


 ぺこり、と頭を下げる。


「…………」


 静かになった。


 イリスが顔を上げる。


「……?」


 騎士たちは、互いの顔を見合わせていた。


「……十二歳?」


「本当に?」


「第一騎士団に?」


「はい!」


 イリスが元気よく答える。


「ちゃんと試験に合格しました!」


「いや、そういう問題じゃ……」


「?」


 イリスは首を傾げた。


 その様子を見て、何人かの騎士が吹き出した。


「ははっ!」

「面白い新人が来たな!」

「元気なのはいいことだ!」


「……ありがとうございます?」


 褒められているのかどうか分からず、イリスは困ったように笑った。


 その様子を見ていたアルフォンスが、わずかに口元を緩める。


「では、次に寮について説明します」


「寮?」


 イリスが首を傾げた。


「第一騎士団では、二人一組で寮生活を送っていただきます」


「二人一組……?」


「はい」


 アルフォンスが続ける。


「これは単なる相部屋ではありません」


 騎士たちの表情が少しだけ引き締まる。


「第一騎士団では、二人を一組の『相棒』として扱います。生活面だけでなく、任務においても互いを支え、守ることを基本としています」


「……相棒」


 イリスはその言葉を小さく繰り返した。


「また、二人の行動には一定の連帯責任があります。一人の失敗を、もう一人が他人事として見過ごすことはできません」


「だからこそ、互いに支え合うのです」


 アルフォンスの言葉に、イリスは少しだけ目を見開いた。


「……一人で頑張らなくても、いいんですか?」


「もちろんです」


 アルフォンスは静かに答えた。


「騎士は一人で戦うものではありませんから」


 その言葉が、胸に残った。


 守る。

 仲間を守る。


 昨日、総長から聞いた言葉と重なる。


 そのとき。


「ただ、一つ問題があります」


「?」


 アルフォンスが少しだけ困ったような顔をした。


「イリスさんは十二歳です。そして第一騎士団には女性騎士がいません」


「はい………」


「一人で生活するには、まだ幼いでしょう」


「……?」


「そこで、今回は特別に別の騎士団の寮を利用していただきます」


「別の騎士団?」


「はい」


 アルフォンスが振り返る。


「第七騎士団の寮です」


「第七騎士団……」


 その名前を聞いた瞬間。


「アルフォンス!」


 明るい声が響いた。


 訓練場の入り口から、一人の女性騎士が歩いてくる。


 長い髪を揺らしながら、こちらへ近づいてくる。


「話は聞いたわ!」


「……ユナ団長」


 アルフォンスが少しだけ息を吐く。


「第七騎士団長、ユナです!」


 女性騎士は笑顔で名乗った。


「そして――」


 ユナの視線がイリスへ向く。


「この子がイリスちゃん?」


「はい」


「…………」


 ユナがじっとイリスを見る。


 イリスもじっと見返す。


 数秒。


「かわいい……!」


「え?」


 次の瞬間。

 ユナがイリスの前まで駆け寄った。


「十二歳なの!?」


「はい!」


「こんなに小さいのに第一騎士団!?」


「はい!」


「すごいじゃない!」


「ありがとうございます!」


 ユナは嬉しそうにイリスの肩をぽんぽんと叩く。


「今日から私たちの寮で暮らすのよね?」


「そうみたいです!」


「よかった!」


 ユナが満面の笑みを浮かべる。


「じゃあ、今日から私がお姉ちゃんね!」


「お姉ちゃん……?」


「そう!」


 イリスがきょとんとする。


「困ったことがあったら何でも言ってね」


「大丈夫です!」


「……」

 ユナが少し黙った。


「その返事をする子ほど心配なのよねぇ」


「……?」


 イリスは首を傾げた。


 その横でノアが小さく笑っている。


「仲良くなれそうだね」

「はい!」


 こうして。


 イリスは第七騎士団の寮へ向かうことになった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「ここが、今日からイリスちゃんのお部屋よ」


 寮の一室。

 ユナが扉を開ける。


「……!」


 イリスは中を覗き込んだ。


 そこには、ベッドが二つ並んでいた。


 机と椅子。

 小さな棚とクローゼット。

 窓からは、アルセリア王国の街並みが見える。


「……ベッドが二つ?」


「そうよ」


 ユナが笑う。


「私とイリスちゃんの部屋だから」


「ユナさんと……一緒に?」


「ええ」


 イリスは目を丸くする。


「第一騎士団には女性騎士がいないでしょう?」


「はい」


「だから、しばらくは私が一緒に暮らすことになったの」


「……そうなんだ」


 イリスは、もう一度部屋を見渡した。


 二つのベッド。

 二つの机。

 二人分の生活を置ける部屋。


「今日から、ここで暮らしていいんですか?」


「もちろん」


「……私の部屋?」


「そうよ。イリスちゃんの部屋でもあるし、私の部屋でもあるわね」


「……」


 イリスは自分のベッドにそっと触れた。


 柔らかい。

 ちゃんとしたベッドだった。


「……あったかい」


「ふふっ」


 ユナが小さく笑う。


「気に入った?」


「はい!」


 イリスは笑顔で答える。


「ありがとうございます!」


「どういたしまして」


 ユナはその笑顔を見つめた。

 何かを感じ取ったようだった。

 けれど、何も聞かなかった。


「じゃあ、次はこれ!」


「?」


 ユナが手にしていた箱を開ける。


「第一騎士団の制服よ」


「……!」


 中から現れたのは、真っ白な騎士服だった。


「白……」


「そう。第一騎士団だけの色よ」


 イリスは制服を受け取った。


「他の騎士団は黒い制服なの」


「そうなんですか?」


「ええ。ほら私の制服も黒色でしょう?」


そういってその場で一周回るユナ。


「白は第一騎士団だけ」


「……かっこいい」


 イリスは嬉しそうに制服を抱きしめた。


「ほら、着てみて!」


「はい!」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 しばらくして。

 鏡の前に立ったイリスは、自分の姿を見つめていた。

 白い髪。

 白い騎士服。

 胸元には、第一騎士団の紋章。


「……」


 昨日までとは違う。


 ただの受験生ではない。


 今、自分は本当に――


 騎士になったのだ。


「似合ってるわよ」


 後ろからユナの声がする。


「……本当ですか?」


「ええ。とっても」


 イリスは鏡の中の自分を見て。

 ふっと笑った。


「……かっこいい」


「でしょう?」


「はい!」


 その笑顔を見て、ユナも笑った。


「じゃあ、行きましょうか」


「どこへ?」


「決まってるでしょう?」


 ユナがいたずらっぽく笑う。


「歓迎会よ!」


「歓迎会……?」


「第一騎士団の新人二人の歓迎会!」


「……!」


 イリスの目が輝く。


「歓迎会!」


「そう!」


「楽しそうです!」


「でしょう?」


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