第37話③、もう一度、あなたに
――あたたかい。
最初に感じたのは、そんな感覚だった。
身体が重い。
左腕が、じんじんと痛む。
それでも、さっきまでの苦しさは少しだけ和らいでいた。
「……ん」
小さく声を漏らす。
まぶたを開けると、見慣れない天井が目に入った。
白い布。
薬草の匂い。
遠くから聞こえる、人々の話し声。
……ここは?
「イリス!」
聞き慣れた声がした。
顔を向けると、ノアがこちらを覗き込んでいた。
「よかった……! 目が覚めたんだね!」
「……ノア?」
「うん。ここは救護所だよ。イリス、魔法を使ったあとに倒れたんだ」
「……そっか」
私は、ぼんやりと天井を見つめた。
少しずつ、記憶が戻ってくる。
森の奥から現れた魔物。
精霊たちの声。
光に包まれた戦場。
そして。
あの魔物を、拘束したこと。
「……みんなは?」
私は、慌てて身体を起こそうとした。
「待って!」
ノアが、すぐに止める。
「まだ起き上がっちゃだめだよ」
「でも、みんなは……!」
「大丈夫。治療を受けているよ。怪我をした人もいるけど、救護は進んでる」
「……本当?」
「うん。それに、団長も総長も無事だよ」
「……よかった」
私は、ほっと息を吐いた。
みんな、生きている。
ちゃんと、守れたんだ。
そう思った瞬間、胸の奥がじんわりと温かくなった。
「……でも」
ノアが、少しだけ眉を寄せる。
「もう、あんな無茶はしないで」
「……ごめんね」
「謝ってほしいんじゃないよ」
ノアは、困ったように笑った。
「君がいなくなったら、困るんだ」
私は目を見開いた。
それから、少しだけ視線を落とす。
「……うん」
そうだ。
自分のことも、大切にしなければいけない。
ミレーヌにも、そう言われた。
ノアにも。
アルフォンスにも。
ヴィルヘルムにも。
何度も、何度も。
なのに、私はいつも忘れてしまう。
誰かを守りたいと思うと、自分のことが後回しになってしまう。
「……次は、ちゃんと頼るね」
小さく言うと、ノアは少し驚いたように目を瞬かせた。
それから、嬉しそうに頷いた。
「うん。約束だよ」
「……うん」
私は、ほんの少しだけ笑った。
そのとき。
「目が覚めたようですね」
アルフォンスの声がした。
顔を向けると、彼が寝台のそばに立っていた。
「団長……」
「気分はいかがですか?」
「身体が、ちょっと重いです」
「でしょうね。あれだけの力を使ったのですから」
アルフォンスは、ほっとしたように息を吐いた。
「今は休んでください。戦場のことは、こちらで対応しています」
「……はい」
私は素直に頷いた。
それから、ふと気づいた。
アルフォンスの後ろに、もう一人、人影がある。
淡い金色の髪。
澄んだ瞳。
見覚えのある顔。
けれど、その表情は、今まで見たどの顔とも違っていた。
驚いたような。
泣き出しそうな。
何かを必死に堪えているような。
「……え?」
私は、息を呑んだ。
どうして。
どうして、ここに。
「……ティア?」




