第35話③、信じるという選択
私はゆっくりと剣を鞘に戻した。
左腕には、まだ痛みが残っている。
それでも、無理のないように右手を胸元へ添え、静かに目を閉じた。
無数の小さな気配が感じられた。
風。
水。
大地。
光。
その一つひとつが、私の呼びかけを待つように、周囲で揺れている。
『いくの?』
「うん」
『こわくない?』
私は、ほんの少しだけ考えた。
怖くないと言えば、嘘になる。
自分の力を解き放つことも。
それを誰かに見られることも。
すべてが終わったあと、何が変わるのかも。
怖い。
だけど。
「……怖いよ」
私は正直に答えた。
「でも、みんなを守りたい」
その言葉に、精霊たちが一斉に輝いた。
淡い光が、私の足元に集まる。
風が吹いた。
戦場に漂う土埃が、私を中心に渦を巻く。
「……何だ?」
近くにいた騎士が、驚いた声を上げた。
アルフォンスが振り返る。
ヴィルヘルムもまた、その光景を見つめていた。
私の周囲に、無数の光が集まっている。
普通の魔法陣はない。
詠唱も聞こえない。
それなのに、確かな力がそこにあった。
私は、ゆっくりと目を開けた。
琥珀色の瞳の奥で、小さな光が揺れている。
「……お願い」
私は精霊たちへ、静かに呼びかけた。
「私に、みんなを守る力を貸して」
光が、強くなった。
巨大な魔物が、初めて動きを止める。
赤い瞳が、私を見つめていた。
まるで。
その光を、恐れているかのように。
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その瞬間、戦場にいた騎士たちの一部が、異変に気づいた。
少女の周囲で起こっていることは、今まで見てきた魔法とは違う。
それが何なのか。
どこから来た力なのか。
まだ、誰にもわからない。
ただ一つ確かなことがあった。
最年少の騎士は今、自らの意思で、隠してきた力を解き放とうとしていた。
そして、その近くには。
彼女の秘密を知りながら、なお彼女を仲間と呼んだ二人の騎士がいた。




