第30話①、鳴り響く警報
朝、リュミエール王国の空は、どこまでも澄み渡っていた。
昨日までの曇り空が嘘のように晴れ、王都を囲む白い城壁には、柔らかな陽光が降り注いでいる。
窓の外では小鳥がさえずり、遠くの街からは、人々の楽しげな声が聞こえてきた。
今日も、穏やかな一日が始まる。
そんなふうに思える朝だった。
「今日は、実際の魔物討伐を見学してもらう予定です」
第三騎士団のミレーヌが、集まった騎士たちに向かって説明した。
「といっても、皆さんに討伐へ参加していただくわけではありません。
まずは、私たちが普段どのように魔物へ対処しているのかを見ていただければと思います」
「なるほど。実地での連携を確認する機会にもなりそうですね」
アルフォンスが頷く。
「ええ。最近は魔物の出現場所が変わってきていますから、こちらとしても他国の騎士団の戦い方を知ることができるのはありがたいです」
ミレーヌの言葉に、ヴィルヘルムが腕を組んだ。
「ただし、少しでも異常があれば即座に撤退する。討伐が目的じゃないからな」
「承知しました」
アルフォンスが答え、第一騎士団の面々も頷いた。
その中で、私は思わず目を輝かせていた。
(実際の討伐……!)
訓練場での模擬戦とは違う、本物の魔物討伐。
リュミエール王国の騎士たちが、どのように魔法と剣を組み合わせて戦うのか。
それを間近で見られるなんて、めったにない機会だ。
「イリスさん」
「はいっ!」
「期待するのは構いませんが、勝手に前へ出ないように」
「……はい」
アルフォンスに釘を刺され、私は少しだけ肩を落とした。
(まだ何もしてないのに……)
隣にいたノアが、小さく笑う。
「昨日も言われていたよね」
「だって、実際の討伐を近くで見られる機会なんて、そうそうないんだもん」
「気持ちは分かるけどね」
ノアは穏やかに言った。
「今日は見学が目的なんだから、まずはしっかり観察しよう。僕たちが学べることも多いと思うよ」
「うん!」
私は元気よく頷いた。
けれど、胸の奥には、昨日から消えない不安が残っていた。
――森の奥が、怖い。
昨夜、精霊たちがそう告げた声を、忘れることができなかった。
あの森では、何かがおかしくなっている。
それが何なのか、私にはまだ分からない。
だからこそ、今日は注意深く見ておこう。
そう思いながら、私は胸元のペンダントにそっと触れた。
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王都を出てしばらく進むと、森へ続く街道が見えてきた。
木々の緑は美しく、風に揺れる葉の音も穏やかだ。
しかし、森の入り口へ近づくにつれて、私は違和感を覚えた。
「……静か」
「ん?」
隣を歩いていたノアが、こちらを向いた。
「どうしたの?」
「森の中、鳥の声がしないの」
普段なら、木々の間から鳥のさえずりが聞こえてくるはずだった。
小さな動物が草むらを駆け抜ける音も、枝が揺れる気配もない。
あるのは、風が葉を揺らす音だけ。
それさえも、どこか不自然に感じられた。
「確かに……」
ノアも森を見つめる。
「昨日も、こんな感じだったね」
「うん」
私は小さく頷いた。
昨日の調査でも、同じ違和感を覚えた。
けれど、今日はそれ以上に静かだった。
まるで、森全体が息を潜めているみたいだ。
そのとき、先頭を歩いていたセドリックが足を止めた。
「ここから先は、隊列を整えて進みましょう。第三騎士団が前方を確認します」
「第一騎士団は後方と周囲を警戒する。何かあれば、すぐに対応できるようにしておけ」
ヴィルヘルムの指示が飛ぶ。
「了解!」
騎士たちが一斉に返事をした。
私も背筋を伸ばす。
第一騎士団の白い装備には、鮮やかな赤い縁取りが施されている。
陽光を受けて輝くその姿は、森の濃い緑の中でもよく目立っていた。
アルフォンスは隊列を確認したあと、私へ視線を向けた。
「イリスさん。私の指示があるまでは、ノアとともに行動するように」
「はい!」
「何があっても、独断で動かないこと。いいですね?」
「……はい」
念を押され、私は今度こそ真剣な顔で頷いた。
(大丈夫。ちゃんと分かってる)
私は一人で戦っているわけじゃない。
ここには、頼れる仲間がいる。
だから、今度こそ。
みんなと一緒に、任務を果たそう。
そう心に決めて、一行は森へと足を踏み入れた。




