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第28話①、笑顔の裏側

翌朝。


「おはようございます!」


集合場所に着くなり、私は元気よく挨拶をした。


昨日よりも、少しだけ声が大きい。


少しだけ、笑顔も自然だった。


「おはよう、イリス」


エドガーが柔らかく笑い返してくれる。


「もう大丈夫そうかい?」


「はい! ご心配をおかけしました!」


「それならよかった。でも、無理は禁物だよ」


「はい!」


私は元気よく頷いた。


昨日は、みんなにたくさん心配をかけてしまった。


ノアはわざわざお菓子を持ってきてくれたし、アルフォンスも、何も聞かずに休ませてくれた。


だからこそ、今日はちゃんと頑張りたい。


もちろん、無理はしない。


……できるだけ。



「イリスさん」


「はい、アルフォンス団長!」


振り返ると、アルフォンスがこちらを見ていた。


「本日の予定について説明します。午前中はリュミエール王国の騎士団による訓練を見学し、午後からは合同訓練に向けた実地確認を行います」


「実地確認……!」


思わず目が輝いた。


「実際に動けるんですか?」


「ええ。ただし、現地の騎士たちの指示に従うこと。勝手な行動は認めません」


「分かりました!」


「……本当に分かっていますか?」


「分かってます!」


即答すると、アルフォンスは小さくため息をついた。


「あなたの場合、その返事の速さが少々不安なのですが……」


「ええっ!?」


どうして!?


ちゃんと分かってるのに!


そのやり取りを聞いていたノアが、くすくすと笑う。


「イリス、今日はちゃんとアルフォンス団長の言うことを聞こうね」


「ノアまで!」


「僕だって、昨日は心配したんだから」


「……あ」


その言葉に、私は少しだけ視線を落とした。


「……ごめんね」


「謝らなくていいよ」


ノアは首を横に振った。


「今日は一緒に頑張ろう」


「……うん!」


私は、今度こそ自然に笑った。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




リュミエール王国の騎士団訓練場。


そこでは、騎士たちが剣を交え、魔法師たちが補助魔法の調整を行っていた。


アルセリア王国とは異なる戦い方。


異なる隊列。


そして、異なる魔法の使い方。


私は一つひとつの動きを見逃さないように、真剣な表情で観察していた。



「……すごい」



思わず、声が漏れる。


リュミエール王国の騎士たちは、互いの距離を保ちながら、細かく位置を入れ替えていた。


一人が敵の動きを止め、もう一人が側面から攻撃する。


さらに後方の魔法師が、味方の移動に合わせて防御魔法を展開する。


個人の力に頼るのではなく、全員で一つの戦いを作り上げているようだった。



「何か気づいたことがあるのですか?」



隣にいたアルフォンスが尋ねる。



「はい。あの隊列だと、前衛が押し込まれても、後ろの人たちがすぐに補えるんですね!」


「そのとおりです。ただし、隊列を維持するためには、仲間の動きを正確に把握する必要があります」


「なるほど……!」



私は真剣に頷いた。


強くなるためには、剣を振るう技術だけでは足りない。


仲間を知ること。


周囲を見ること。


自分が何をすべきなのか、状況に応じて判断すること。


騎士になるために必要なのは、そういうことなのだろう。



(……もっと学びたい)



もっと強くなりたい。


そして、いつか。


大切な人を守れるようになりたい。


その思いを胸に、私は再び訓練場へ目を向けた。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「あなたが、噂の最年少騎士ね?」


訓練が一区切りついた頃、一人の女性騎士が私に声をかけてきた。


長い赤茶色の髪を後ろで束ね、腰には細身の剣を下げている。


「はい。イリスと申します」


「私はリュミエール王国の第三騎士団に所属している、ミレーヌよ。よろしくね」


「よろしくお願いします!」



ミレーヌは、私を興味深そうに見つめた。



「本当に十二歳なのね。もっと年上かと思っていたわ」


「よく言われます!」


「ふふっ。元気がいいのね」


ミレーヌは笑ったあと、少しだけ真剣な表情になった。


「ねえ、イリス。あなたはどうして騎士になろうと思ったの?」


「……え?」


その質問に、一瞬だけ言葉が止まった。


どうして。


そんなこと、決まっている。



守りたいから。


もう二度と、大切な人を失いたくないから。



けれど、その本当の理由を口にすることはできなかった。



「……誰かを守れる人になりたいと思ったからです」



私は微笑んだ。



「私が強くなれば、助けられる人が増えるかもしれないので」



ミレーヌは、しばらく私を見つめていた。


やがて、ふっと表情を和らげる。


「いい答えね。でも、覚えておいて」


「はい?」



「誰かを守るためには、自分自身も大切にしなければいけないのよ」



私は目を瞬かせた。


「……自分自身も?」


「そう。あなたが倒れてしまったら、助けられる人も助けられなくなるでしょう?」


その言葉は、昨日アルフォンスに言われたことと、どこか似ていた。


(……自分自身も、大切にする)


私は胸元のペンダントに触れかけて、そっと手を下ろした。


「……はい。覚えておきます」


「よろしい。じゃあ、これからも頑張ってね」


「ありがとうございます!」



ミレーヌが去ったあと、私はしばらくその場に立っていた。


自分自身も、大切にする。


そんなことを、今まで真剣に考えたことがあっただろうか。


誰かを守るためなら、どんなことでも我慢しなければならない。


そう思っていた。


でも、本当にそうなのだろうか。


私は小さく首を傾げた。


答えは、まだ分からなかった。


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