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第25話①、歓迎の夕食会

夜。



リュミエール王国の王宮は、昼間とは違う輝きに包まれていた。


廊下には魔法で灯された明かりが並び、壁に飾られた装飾品が柔らかな光を反射している。


大広間からは、楽器の音色と人々の話し声が聞こえてきた。


今夜は、アルセリア王国から訪れた騎士団を歓迎する夕食会。


両国の親睦を深めるため、王族や貴族、騎士団の幹部たちが集まる場だった。



「……よし」



客室の鏡の前で、私は小さく呟いた。


騎士団の正装は、普段の制服よりも少しだけ華やかだ。


白いシャツに、白色の上着。


胸元には、第1騎士団の紋章が刺繍されている。


髪も瞳も、いつもどおり魔法で変えてある。


白い髪。


琥珀色の瞳。


鏡に映るのは、今の私が見慣れた姿だった。



(……大丈夫)



今の私を見て、昔の私だと気づく人はいないはず。


そう自分に言い聞かせたところで、胸元のペンダントが目に入った。


私はそっと手を伸ばし、それを握りしめた。



「……久しぶりだね」



誰に向けた言葉なのか、自分でも分からなかった。


昔の友人に向けたのか。


それとも、もう戻れない過去に向けたのか。


しばらく目を閉じたあと、私は顔を上げた。



「よしっ!」



頬を軽く叩き、いつもの笑顔を作る。



「笑う門には福来る、だもんね!」



そう言って、私は部屋を出た。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




大広間には、すでに多くの人が集まっていた。


長いテーブルには銀の食器が並び、色鮮やかな料理が次々と運ばれてくる。


天井から吊るされたシャンデリアの光が、磨き上げられた床を照らしていた。



「うわぁ……!」



私は思わず目を輝かせた。



「イリスさん」


「はっ! すみません!」



隣を歩いていたアルフォンスに呼ばれ、慌てて姿勢を正す。



「気持ちは分かりますが、あまりきょろきょろしないように」


「はい……」


「それと、料理は逃げませんから」


「……はい」



アルフォンスの表情はいつもどおりだったけれど、ノアは隣で笑いをこらえていた。



「あとで、ゆっくり見ればいいよ」


「ノアまで……!」


「ごめんごめん」



そんなやり取りをしているうちに、総長がこちらを振り返った。



「イリス、ノア。今夜は客人だ。余計な騒ぎは起こすなよ」


「起こしません!」



私は元気よく答えた。


総長は私の顔を見て、わずかに眉を上げる。



「……その返事が一番不安なんだがな」


「ええっ!?」



総長は呆れたように小さく息を吐いた。


その様子を見て、周囲の騎士たちから小さな笑い声が漏れる。


私もつられて笑った。


ほんの少しだけ、緊張が和らいだ。


けれど。



「皆様、お静かに」



広間の入口に立つ侍従が声を上げた。


人々の話し声が、少しずつ収まっていく。



「リュミエール王国国王陛下、ならびに王女殿下がご入場されます」



私は慌てて姿勢を正した。


(……王女様)


昨日から何度も耳にした、その名前。


どんな人なのだろう。


少しだけ緊張しながら、広間の入口へ目を向けた。


やがて、扉が開いた。


先に姿を現したのは、昼間の謁見でお会いした国王陛下だった。


そして、その隣に――。



一人の少女が立っていた。


美しいドレス。


丁寧に整えられた髪。


王族にふさわしい、気品のある立ち姿。


周囲の視線を集めながら、少女はゆっくりと広間へ足を踏み入れた。



その顔を見た瞬間。


私の呼吸が止まった。



(……え?)



心臓が、大きく跳ねる。


そんな。


まさか。



(……うそ)



間違えるはずがなかった。


忘れられるはずがなかった。


何年経っても、夢の中で何度も思い出した顔。


自分の手を握り、泣きそうな顔で笑ってくれた少女。



(……ああ)



生きていた。


ちゃんと、ここにいた。



(……よかった)



胸の奥が、じんわりと熱くなる。


今すぐ駆け寄りたかった。


名前を呼びたかった。


あのときのように、笑いかけたかった。



けれど、私は動けなかった。


今の私の髪は白い。


瞳は琥珀色。


あの子が知っている私の姿とは、まったく違う。



それに、今の私はアルセリア王国の騎士だ。


この場で、昔のように振る舞うことなんてできない。



(……王女様、だったんだ)



知らなかった。


あの子が、リュミエール王国の王女様だったなんて。


研究施設にいた頃、そんな話は一度も聞いたことがなかった。


でも、今はそんなこと、どうでもよかった。


ただ、生きていてくれた。


それだけで、十分だった。



「……っ」



私はそっと拳を握りしめた。



(……大丈夫)



まだ、何も始まっていない。


まずは、落ち着こう。


今の私は、騎士なのだから。


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