第22話②、外交の始まり
協議が一段落した頃、セドリックがふと私に目を向けた。
「ところで……そちらの少女は?」
会議室にいた何人かの視線が、私へ集まった。
(……えっ、私?!)
一瞬だけ戸惑ったものの、すぐに立ち上がる。
「アルセリア王国第1騎士団所属、イリスと申します。
よろしくお願いいたします!」
私は元気よく頭を下げた。
セドリックは少し驚いたように目を瞬かせた。
「第1騎士団……ですか?」
「はい!」
「失礼ですが、随分とお若く見えますね」
「今年、十二歳になりました!」
その瞬間。
会議室が静まり返った。
(……あれ?)
誰かが小さく息を呑む音が聞こえた。
「十二歳……?」
「その年齢で、すでに騎士団に?」
驚きを隠せない声が上がる。
私は思わず首を傾げた。
アルセリア王国では、十二歳から騎士団の入団試験を受けられる。
もちろん、実際に合格する人は少ないらしいけれど……。
(そんなに驚くことなのかな?)
そんな疑問が顔に出ていたのか、アルフォンスが代わりに説明してくれた。
「彼女は今年、入団試験に合格しました。
現在は第1騎士団に所属し、任務に必要な訓練を受けています」
「なるほど……」
セドリックは感心したように頷いた。
「それにしても、随分と早いですね。失礼ながら、実力のほどが気になります」
その言葉に、私はぱっと顔を輝かせた。
「剣なら、頑張って練習しています!」
「イリスさん」
「はいっ!」
「今は自己紹介の場です」
「……はい」
アルフォンスの冷静な一言に、私はしゅんと肩を落とした。
すると、会議室のあちこちから、こらえきれない笑い声が漏れた。
セドリックも、先ほどまでの緊張した表情を少し和らげる。
「ははっ、元気な方ですね」
「……少々、元気がよすぎるところがあります」
アルフォンスは淡々と答えた。
「ですが、剣の腕は確かです。騎士としての判断力については、現在指導しているところです」
(……それって、いつも注意されてるってことですよね?!)
私は思わず頬を膨らませた。
すると、総長が小さく笑った。
「まあ、まだ学ぶことは多いが、見込みのある騎士だ。今回の任務でも、さまざまな経験を積ませたいと思っている」
「総長……!」
思わず顔を上げる。
総長は私にちらりと視線を向けた。
「だからこそ、しっかり学べよ。イリス」
「はい!」
私は背筋を伸ばし、元気よく返事をした。
セドリックはそんな私たちのやり取りを見て、穏やかに微笑んだ。
「それは、合同訓練が楽しみですね」
(合同訓練……!)
他国の騎士たちと剣を交える機会なんて、そう簡単にはない。
どんな戦い方をするのだろう。
アルセリア王国の騎士たちとは、何か違うのかな。
考えるだけで、少しわくわくしてきた。
……もちろん、まだ訓練の日程が決まったわけではないけれど。
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協議が終わる頃には、外はすっかり暗くなっていた。
両国の騎士団は、翌日以降の予定を確認し、それぞれ宿泊先へ向かうことになった。
私はアルフォンスの後について、会議室を出ようとしていた。
そのとき。
廊下の向こうから、数人の王宮関係者が歩いてきた。
その中の一人が、セドリックへ声をかける。
「副総長。明日の王宮でのご挨拶についてですが、予定どおり陛下がお会いになるとのことです」
「承知しました。アルセリア王国の皆様にも、こちらからご案内いたします」
「それから、王女殿下も合同訓練について関心をお持ちのようです。機会があれば、皆様とお会いになりたいとのことでした」
(……王女殿下?)
私は思わず足を止めた。
そういえば、出発前にも総長がそんなことを言っていた気がする。
リュミエール王国の王女様。
どんな人なんだろう。
やっぱり、綺麗なドレスを着ていて、優雅にお茶を飲んだりするのかな。
(……私とは全然違うんだろうなぁ)
なんとなく、そんなことを考えてしまう。
すると、セドリックがこちらに目を向けた。
「そういえば、王女殿下はお若い騎士にも関心をお持ちのようです。
イリス殿も、機会があればご挨拶されるとよいでしょう」
「えっ?! 私ですか?!」
思わず声が大きくなってしまった。
アルフォンスが静かにこちらを見る。
「……イリスさん」
「は、はい!」
「声の大きさに気をつけてください」
「すみません……!」
私は慌てて頭を下げた。
セドリックは楽しそうに笑った。
「ははっ。そう緊張なさらずとも大丈夫ですよ」
「……はい!」
私は頷いたものの、内心では少し慌てていた。
(王女様に会うかもしれないなんて……!)
今まで、王族の方と直接お話しする機会なんてほとんどなかった。
しかも、他国の王女様だ。
もし失礼なことをしてしまったら、どうしよう。
(……アルフォンス団長に、また怒られちゃうかも)
そんなことを考えていると、隣から声がした。
「イリスさん」
「はい!」
「必要以上に緊張することはありません。礼儀を守り、落ち着いて対応すれば大丈夫です」
「……はい!」
アルフォンスの言葉に、私は少しだけ安心した。
それでも、胸の高鳴りはなかなか収まらない。
明日は王宮へ向かう。
リュミエール王国の国王陛下にお会いすることになるかもしれない。
そして、王女様にも。
(……どんな人なんだろう)
私は少しだけ楽しみになった。
その一方で、ふと、あの子のことを思い出す。
(……あの子も、今頃この国のどこかにいるのかな)
研究施設で一緒に過ごした、大切な親友。
あの子が今、どこで暮らしているのかは分からない。
無事に故郷へ戻れたのかさえ、知らない。
それでも、こうして同じ国にいるかもしれないと思うと、不思議な気持ちになった。
(いつか、また会えたらいいな……)
私は胸元のペンダントに、そっと触れた。
「イリスさん」
再び名前を呼ばれ、私は顔を上げた。
アルフォンスが、少し不思議そうにこちらを見ている。
「そろそろ行きますよ」
「あっ、はい!」
私はいつもの笑顔を浮かべ、アルフォンスの後を追った。
リュミエール王国での外交は、まだ始まったばかり。
明日は、いよいよ王宮へ向かう。
そこに、どんな出会いが待っているのだろう。
私は期待と少しの緊張を胸に、夜の廊下を歩いていった。




