第21話①、隣国への道
翌朝。
「……んん」
私はゆっくりと目を開けた。
窓から差し込む朝日が、部屋の中を明るく照らしている。
昨夜は、森の異変が気になって、なかなか寝つけなかった。
精霊たちが話していたこと。
森の奥から感じるという、嫌な気配。
そして、あの淡い光。
考え始めると、いくらでも気になることが出てくる。
(……やっぱり、何かあるのかな)
昨夜、宿に戻った私は、アルフォンスに森で見た光と、周囲の様子がおかしいと感じたことを報告した。
もちろん、精霊たちのことは話していない。
魔法を使えることも、精霊たちと話せることも、今はまだ秘密だから。
それでも、アルフォンスは最後まで話を聞いてくれた。
『分かりました。第3騎士団とも情報を共有し、警戒を強めましょう』
そう言ってくれたので、少しだけ安心した。
けれど、胸の奥に残る違和感は、なかなか消えてくれなかった。
「……だめだめ!」
私は勢いよく上半身を起こした。
「今日は任務! ちゃんと集中しないと!」
自分の頬を両手で軽く叩く。
まずは着替え。
それから身支度を整えて、朝食を食べる。
考えるのは、それからでも遅くない。
そう自分に言い聞かせ、私はベッドから飛び降りた。
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朝食を済ませた私たちは、宿の前に集まっていた。
第3騎士団の騎士たちが周囲の状況を報告し、馬車の点検も進められている。
「周辺に目立った異常はありません。ただ、昨夜も森の近くで魔物の鳴き声を聞いたという住民がいたそうです」
「分かった。引き続き警戒を怠るな」
総長の指示に、報告に来た騎士が頷いた。
アルフォンスも地図を確認しながら口を開く。
「この先は森に沿った街道を進みます。見通しの悪い場所もありますので、隊列を崩さないようにしてください」
「「「了解!」」」
騎士たちの返事が響く。
私も背筋を伸ばした。
昨夜、精霊たちから聞いた話が頭をよぎる。
森の奥から感じるという、嫌な気配。
あの光は、いったい何だったのだろう。
「イリスさん」
「はい!」
アルフォンスに呼ばれ、私はすぐに顔を向けた。
「今日は昨日以上に周囲をよく確認してください。異変に気づいた場合は、必ず報告すること」
「分かりました!」
「それから、独断で行動しないこと」
「……はい!」
少しだけ返事が遅れてしまった。
アルフォンスはそんな私をじっと見つめたけれど、今は何も言わなかった。
「では、出発します」
その声とともに、騎士たちはそれぞれの持ち場へ向かった。
馬車がゆっくりと動き始める。
目的地は、リュミエール王国。
隣国との国境は、もう遠くない。
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街道を進むにつれて、周囲の景色は少しずつ変化していった。
アルセリア王国側ではよく見かけた広い草原が減り、代わりに深い森や緩やかな丘が増えていく。
道沿いには、見慣れない花が咲いていた。
「……綺麗」
私は馬車の窓から、その花を眺めた。
淡い青色の花弁が、朝露を受けてきらきらと輝いている。
風が吹くたびに揺れる姿は、まるで小さな精霊が踊っているようだった。
「リュミエール王国にも、こういう花がたくさん咲いているのかな」
「どうでしょうね」
向かい側に座るアルフォンスが答える。
「国境を越えれば、街並みも少しずつ変わってくるはずです」
「楽しみです!」
「ええ。ですが、周囲の警戒も忘れないでくださいね」
「分かってます!」
「……本当に?」
「分かってますってば!」
私が頬を膨らませると、アルフォンスは小さく息を吐いた。
そのとき、馬車の外から声が聞こえてきた。
「前方、国境の検問所が見えてきました!」
「国境!」
私はぱっと顔を輝かせた。
思わず立ち上がりかけて、すぐに座り直す。
……アルフォンスの視線が向けられたからだ。
「……ちゃんと座ってます」
「それなら結構です」
私は小さく頬を膨らませた。
それでも、胸の高鳴りは抑えられなかった。
いよいよだ。
これから、私は隣国へ足を踏み入れる。
あの子が生まれ育った国。
どんな景色が広がっているのだろう。
どんな出会いが待っているのだろう。
期待と緊張を胸に、私は窓の外を見つめた。




