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第20話②、小さな町の夜

宿は町の中央広場から少し離れた場所にあった。

大きな建物ではないけれど、手入れの行き届いた木造の宿で、入口には花の植えられた鉢が並んでいる。

一行が到着すると、宿の主人が慌てて外へ出てきた。


「お待ちしておりました、騎士団の皆様! 遠路はるばる、ようこそお越しくださいました」

「世話になる」


総長が代表して答える。


「部屋と食事の準備は整っております。何か必要なものがございましたら、遠慮なくお申しつけください」

「ありがとうございます」


アルフォンスも丁寧に礼を述べた。

騎士たちは荷物を運び込み、それぞれの部屋へと向かっていく。

私も自分の荷物を抱え、割り当てられた部屋へ向かおうとした。

そのとき。


「騎士様!」

宿の主人が、私たちを呼び止めた。

「少し、お話ししてもよろしいでしょうか?」

「はい。何でしょうか?」


アルフォンスが応じる。

主人は周囲を気にするように一度視線を巡らせてから、声を潜めた。


「実は……最近、この辺りで魔物の姿を見かけることが増えておりまして」


私はぴたりと足を止めた。


「魔物が、ですか?」

「ええ。以前は森の奥にいるだけだったのですが、ここ数日は街道の近くにまで現れるようになったのです。町の者たちも、なるべく日が暮れる前に帰るようにしております」

「どのような魔物が出現しているのですか?」


アルフォンスの声が少し低くなった。

「種類までは分かりません。ただ、森の奥から唸り声が聞こえたり、家畜が襲われたりすることもありまして……」

主人の顔には、隠しきれない不安が浮かんでいた。

総長は腕を組み、アルフォンスと視線を交わす。

「分かった。こちらでも確認しておこう。何かあれば、すぐに騎士団へ知らせてくれ」

「ありがとうございます……!」


主人は深々と頭を下げた。

話が終わると、アルフォンスは同行する騎士の一人に指示を出した。


「本日の警戒を強化してください。第3騎士団とも情報を共有し、周辺の状況を確認しましょう」

「承知しました」


騎士が足早に去っていく。

私は、先ほどの主人の言葉を思い返していた。

街道で遭遇したグレイウォルフたち。

そして、この町でも増えているという魔物の目撃情報。


(……やっぱり、何かあるのかな)


先ほどの戦いで感じた違和感が、再び胸の奥によみがえる。

あのとき、アルフォンスにも報告した。

だから、今回の話もきっと無関係ではないはずだ。


「イリス」


総長の声に、私は顔を上げた。


「はい!」

「今は休め。詳しい調査は明日だ」

「……はい」

「何か気になることがあるなら、隠さず報告しろよ」


その言葉に、私は一瞬だけ目を見開いた。

けれど、すぐに笑顔を浮かべる。


「分かりました!」


今は、まだ確かなことは何もない。

それでも、気になることがあれば、ちゃんと伝えよう。

そう心に決めて、私は割り当てられた部屋へと向かった。



ーーーーーーーーーーーーー



夕食の時間。

宿の食堂には、温かな料理の香りが満ちていた。

大きな鍋で煮込まれたスープに、焼きたてのパン。

肉と野菜を使った料理も並び、長旅で疲れた騎士たちの顔には自然と笑みが浮かんでいる。


「おいしい……!」


私はスープを一口飲み、思わず目を輝かせた。


「このスープ、すごくおいしいです!」

「それはよかった」


向かいに座る総長が笑う。


「気に入ったなら、しっかり食べておけ。明日も移動が続くからな」

「はい!」


私は元気よく返事をすると、パンをちぎってスープに浸した。

すると、隣に座っていたノアが楽しそうに笑った。


「イリス、さっきからずっと幸せそうだね」

「だって、おいしいんだもん!」

「確かに、おいしいね」

「でしょ!」


二人で笑い合っていると、近くに座っていた騎士たちもつられて笑った。

任務の途中とはいえ、こうして仲間たちと食卓を囲める時間は貴重だった。

騎士団に入る前の私には、想像もできなかったような時間。

みんなで同じ料理を食べて、笑い合って。

そんな何気ないひとときが、今はとても嬉しい。

けれど、そのとき。


「そういえば……」


食堂の隅にいた町の男が、宿の主人へ話しかける声が聞こえた。


「最近、森の向こうで妙な光を見たって話があっただろう?」

「しっ、声が大きいぞ」

「でも、本当なんだ。夜中に森の奥が光ったって……」


私は思わず手を止めた。


(……妙な光?)


森の奥。

その言葉が、胸の奥に小さな引っかかりを残す。


「……どうしたの、イリス?」


ノアが不思議そうに尋ねてきた。


「あのね、今、森の奥で光を見たって話が聞こえて……」

「光?」

「うん。何だろうって思って」


ノアも町の人たちの方へ目を向けた。


「さっきの魔物の話と関係があるのかな」

「……分からない」


私は小さく首を振った。

そのとき、向かいに座っていた総長が口を開いた。


「森の奥の光か」

「総長も聞こえてたんですか?」

「ああ。気になる話だな」


総長はアルフォンスに視線を向けた。


「明日、第3騎士団に確認させよう。夜間の警戒も予定通り強化しておけ」

「かしこまりました」


アルフォンスが頷く。

私は窓の外へ目を向けた。

夜の闇に包まれた森。

今は、何も見えない。

それでも、胸の奥に残る違和感は消えなかった。


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