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第19話③、旅路の魔物

再び出発の準備が整う頃には、日が傾き始めていた。

騎士たちは魔物の死骸を街道から移動させ、周囲に異常がないことを確認している。

負傷した騎士も手当てを終え、大事には至らなかったようだ。

その間、私は少し離れた場所で、森の奥を見つめていた。


(……おかしいな)


先ほどの魔物たち。

あの数で、あの場所に現れたこと。

グレイウォルフは群れで行動する魔物だけれど、あんなふうに街道へ向かって一斉に現れるものなのだろうか。

それに、第3騎士団の人たちが事前に確認したときには、異常がなかったはずだ。

何かがおかしい。

そう感じたのは、気のせいだろうか。


「イリス?」


隣から声がした。

振り返ると、ノアが立っていた。


「どうしたの?」

「……ううん。ちょっと気になることがあって」

「気になること?」

「さっきの魔物たちなんだけど……」


私は森の方へ視線を向けた。


「なんだか、少し変だった気がするの」

「変?」

「うん。うまく説明できないんだけど、あんなにたくさんの魔物が一度に現れるなんて、何か理由があるのかなって」


ノアは少し考えるような表情になった。


「確かに、第3騎士団の人たちも、少し不思議がっていたよ」

「そうなの?」

「うん。いつもと違う動きだったみたい」

「……そっか」


やっぱり、気のせいじゃないのかな。

私はもう一度、森の奥を見つめた。

けれど、そこには静かな木々が広がっているだけだった。


「……イリス」

「ん?」

「気になるなら、アルフォンス団長に報告しておいた方がいいんじゃないかな」

「あっ……!」


私は思わず声を上げた。

そうだった。

アルフォンスは、些細なことでも報告するようにと言っていた。

確証がなくても、気になることがあれば伝える。

それも、騎士として大切なことなんだ。


「うん! そうする!」


私はノアに頷くと、アルフォンスのもとへ向かった。


「アルフォンス団長!」

「イリスさん。どうしました?」

「あの、さっきの魔物のことなんですけど……」


私は、気になっていたことをできるだけ詳しく説明した。

グレイウォルフたちの数。

街道へ向かってきたときの様子。

そして、何かに追われているようにも見えたこと。

アルフォンスは途中で口を挟まず、最後まで話を聞いてくれた。


「……なるほど」

「すみません。はっきりしたことは分からないんですけど……」

「いいえ。報告してくれてありがとうございます」

「えっ?」

「些細な違和感であっても、情報として共有することは大切です。今回の件については、第3騎士団とも確認しておきましょう」

「はい!」


アルフォンスは少しだけ微笑んだ。


「きちんと報告できましたね、イリスさん」

「……えへへ!」


褒められたのが嬉しくて、思わず笑顔になる。

アルフォンスはその後、第3騎士団の騎士たちと情報を共有し、周辺の警戒を強めるよう指示を出した。

私はその様子を見ながら、小さく息を吐いた。


(……何も起こらないといいな)


その後、再び出発の号令がかかった。

騎士たちはそれぞれの持ち場へ戻り、馬車がゆっくりと動き始める。

私は馬車の窓から、遠ざかっていく森を眺めた。


「何事もなく、無事に着けるといいな……」


小さく呟いた言葉は、馬車の車輪の音に紛れて消えていった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



――その頃。

街道から少し離れた、森の奥深く。

木々の陰に、一つの影があった。

それは、先ほど騎士団を襲ったグレイウォルフとは明らかに異なる姿をしていた。

不自然に発達した四肢。

ところどころ形の歪んだ身体。

そして、暗闇の中で鈍く光る瞳。

その魔物は、遠ざかっていく騎士団の一行を、ただじっと見つめていた。


「……なるほど」


不意に、静かな声が響いた。

魔物のすぐそばに、フードを深くかぶった人物が立っていた。

その人物は、手元の小さな手帳に何かを書き込んでいる。


「予想以上ですね」


感情の読み取れない声だった。

魔物は唸り声を上げることもなく、ただその人物の傍らでじっとしている。

まるで、次の命令を待っているかのように。


「……さて、どうしましょうか」


人物は手帳を閉じると、もう一度、騎士団が去っていった方向へ視線を向けた。

そして、小さく笑った。


「もう少し、様子を見てみましょう」


その言葉を合図にしたかのように、魔物がゆっくりと立ち上がる。

二つの影は、やがて森の奥へと消えていった。

騎士団の誰一人として、その存在に気づくことはなかった。



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