第17話③、新しい任務へ
しばらくして、アルフォンスが書類を手に戻ってきた。
その後ろには、ヴィルヘルム総長の姿もある。
(あれ? 総長も一緒なんだ)
どうしたのだろう。
不思議に思っていると、アルフォンスが口を開いた。
「お待たせしました。それでは、今回の任務における組み分けを発表します」
騎士たちが一斉に姿勢を正す。
「まず、前衛と後衛にはそれぞれ経験豊富な騎士を配置します。
第3騎士団との連携もありますので、各自、自分の役割を十分に理解して行動するように」
一通りの説明を終えると、アルフォンス様は組み分けの書かれた書類に目を落とした。
「次に、新人騎士の配置についてです」
……きた!
私は思わず背筋を伸ばした。
誰と一緒になるのだろう。
できれば、いろいろなことを教えてもらえる人がいいな。
そんなことを考えていると、アルフォンスが私の名前を口にした。
「イリスさん」
「はい!」
「あなたには、私とヴィルヘルム総長の近くで行動してもらいます」
「…………え?」
思わず、間の抜けた声が出た。
今、なんとおっしゃった?
アルフォンス団長と、ヴィルヘルム総長。
つまり、第1騎士団の団長と、全騎士団を統括する総長。
そのお二人と、私?
「えええっ?! わ、私だけですか?!」
「そうですが、何か問題でも?」
「い、いえ! 問題というわけではないんですけど……!」
むしろ、問題しかないような気がする。
だって、団長と総長だよ?!
そんなお二人と一緒に行動するなんて、いったい何をどうすればいいのだろう。
それに、お二人は今回の任務でとても重要な役割を担っているはずだ。
そんなところに、新人騎士の私がいてもいいのだろうか。
「理由を説明します」
困惑する私を見て、アルフォンス様は淡々と話し始めた。
「まず、あなたは騎士団の中でも特に年齢が低い。
長時間の移動や不測の事態に対する負担を考慮する必要があります」
「う……」
それは、そうかもしれない。
けれど、少しくらいは頑張れると思う。
「それから、今回の訪問ではリュミエール王国の王族と面会する機会があります。
王女殿下はあなたと年齢が近いと聞いていますので、状況によっては、あなたに同席してもらう可能性もあります」
「王女様と……?」
「ええ。もちろん、正式な外交交渉に参加してもらうわけではありません。
ですが、両国の親善を深めるため、年齢の近い者同士が交流する機会が設けられる可能性があります」
「なるほど……」
王女様かぁ。
いったい、どんな人なんだろう。
きっと、綺麗なドレスを着ていて、優雅で、おしとやかな人なんだろうな。
私とは全然違いそう。
「その際、あなたが単独で行動することのないよう、私たちの近くに配置するのが適切だと判断しました」
「はい!」
なるほど。
王女様と年齢が近いから、私も一緒にいる可能性があるんだ。
でも、それならほかの騎士の方と組んでもよさそうな気がする。
私が首を傾げていると、アルフォンス様はほんの少しだけ眉を寄せた。
「そして、最後の理由ですが……」
「さ、最後?」
「あなたが、自分の身を顧みずに行動する傾向があるためです」
「…………」
ぐさっ。
胸に何かが突き刺さった気がした。
「魔物との戦闘においても、周囲の状況を十分に確認する前に、自分が動こうとすることがありますね。本人にそのつもりがなくとも、結果として周囲に心配をかけることになります」
「そ、それは……」
言い返せない。
だって、困っている人がいたら、助けたいと思うし。
危ない人がいたら、守りたいと思う。
でも、それを言ったら、きっとまた怒られる。
「今回は他国での任務です。あなたの行動一つが、騎士団だけでなく、両国の関係にも影響を及ぼす可能性があります」
「……はい」
「もちろん、あなたの実力を評価していないわけではありません。
ですが、剣の腕が優れていることと、状況に応じて適切な判断ができることは別です」
アルフォンスの言葉に、私は思わず俯いた。
「総長と私は、今回の訪問で行動を共にする機会も多くなります。
あなたには、その近くで護衛の補助を務めながら、任務中の判断や行動を学んでもらいます」
「……はい」
「無論、常に私たちと同じ場所にいるわけではありません。
協議の内容や状況によっては、ほかの騎士の指示に従ってもらうこともあります。
その点は理解しておいてください」
「はい……!」
しゅん、と肩が落ちた。
私だって、いつも無茶をしているつもりはないのに。
……たぶん。
「何か言いたそうですね、イリスさん」
「い、いえ! 何もありません!」
即答した。
アルフォンスは小さく息を吐く。
「ならば結構です。今回は特に、独断で行動しないように」
「はい……!」
返事をしながら、私はちらりとヴィルヘルム総長を見上げた。
総長は腕を組んだまま、どこか呆れたような顔をしている。
「なんだ、その顔は」
「な、なんでもありません!」
「ならいい。まあ、アルフォンスの言う通りだ。
イリス、お前は目を離すと何をしでかすか分からないところがあるからな」
「そ、そんなことないです!」
「ほう?」
総長が片眉を上げた。
「…………」
……あるかもしれない。
少しだけ。
本当に、少しだけだけど。
「とにかく、今回は俺たちの目の届くところにいろ。勝手に走り出すんじゃないぞ」
「は、はい!」
「それと、イリス」
「はい?」
「今回の任務は、お前にとっても良い経験になるはずだ。しっかり学べ」
総長の声は、先ほどより少しだけ穏やかだった。
私は思わず顔を上げる。
「……はい! 頑張ります!」
総長は満足そうに頷いた。
こうして、私の組み分けはあっという間に決まってしまった。
団長と総長の近くで行動する新人騎士。
……なんだか、ものすごく目立つ気がする。
せっかく隣国へ行くのだから、もう少し自由に行動できると思っていたのに。
私は心の中で、小さくため息をついた。
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「続いて、ノアさん」
「はい」
名前を呼ばれたノアは、落ち着いた様子で一歩前に出た。
「あなたはエドガー副団長と、第3騎士団から同行するベテラン騎士一名と組んでもらいます」
「承知しました」
ノアはすぐに頷いた。
「今回の任務では、第3騎士団との連携を学ぶことも重要です。
異なる団の騎士と行動することで、普段とは違う視点を身につけてください」
「はい。努めます」
「期待しています」
アルフォンスがそう告げると、ノアは一礼して元の位置へ戻った。
……うん。
ノアはすごく落ち着いている。
私なんて、団長と総長と一緒だと聞いただけで、頭の中が大騒ぎなのに。
同じ新人騎士なのに、この違いは何なんだろう。
少しだけ羨ましい。
「イリス」
ふと、隣に戻ってきたノアが小声で話しかけてきた。
「何?」
「大変そうだね」
「……うん」
「無茶しないようにね」
「ノアまで?!」
思わず振り返ると、ノアは困ったように笑った。
「だって、二人がそこまで警戒するくらいだから」
「うう……」
否定できないのが悔しい。
「でも、何かあったらすぐに知らせて。僕も近くにいるから」
その言葉に、私は少しだけ表情を緩めた。
「……うん。ありがとう、ノア」
「どういたしまして」
ノアはいつも、こうして私のことを気にかけてくれる。
一緒に訓練をして、一緒に任務に出て。
気がつけば、ノアは私にとって、とても大切な友達になっていた。
「それにしても、リュミエール王国かぁ……」
私がぽつりと呟くと、ノアが首を傾げた。
「行ったことがあるの?」
「ううん。ないよ。でも、名前は知ってるの」
「そうなんだ」
「うん!」
私は笑顔で頷いた。
あの子のことを話そうか、少しだけ迷った。
でも、うまく説明できる気がしなくて、結局それ以上は何も言わなかった。
こうして、リュミエール王国への旅の組み分けが決まった。
団長と総長の近くで行動することになった私と、副団長たちと行動することになったノア。
前途多難な旅になりそうな予感がするけれど……。
せっかくの隣国への任務だ。
きっと、楽しいことだってあるはず!
それに、リュミエール王国がどんなところなのか、少しだけ気になる。
あの子が生まれ育った国。
どんな景色が広がっているのだろう。
どんな街があって、どんな人たちが暮らしているのだろう。
(いつか、また会えたらいいな……)
胸元のペンダントに、そっと指を添える。
もう一度会えるかどうかなんて、分からない。
それでも、あの子が元気に笑っていてくれたら嬉しい。
私は小さく微笑むと、隣にいるノアに向き直った。
「ノア! リュミエール王国、楽しみだね!」
「ふふっ。そうだね」
来週から始まる、新しい任務。
私は期待と少しの不安を胸に、出発の日を待つことにした。




