第7話 獣人!?猫耳少女リルラとの対決!「誰がモンスターだ、誰が!?」
目の前で俺を警戒する子ども。
こちらも油断はできない。
あの素早さで蹴飛ばされたらそれ相応のダメージがあるだろう。
「ちょっと待て、俺は蒼凛空斗。探索者だ。怪しいものじゃない」
そう言いながら、俺はあらためて相手を観察してみた。
年齢は10~12歳くらい。
性別は……『ボク』と言っていたので男の子かな?
いや、わずかに胸が膨らんでいるところを見ると女の子か。
服装はボロボロの布きれを巻いているだけだ。
全身、土埃にまみれている。
これはトロールから逃げ惑っていたからかもしれない。
全体的に痩せている印象だが、手足の筋肉はがっちりしている。
やはり、武闘家系なのだろうか。
飼い猫がつけるような、首輪をつけている。
髪の毛は深紅の短髪。
そして、頭頂部からはかわいらしい猫耳がピョコンと飛び出している。
……って、猫耳!?
人間じゃないのか?
だとしたら、この子もモンスター!?
俺の中で警戒音が鳴る。
はるるんさんも気づいたらしい。
『空斗さん、その子人間じゃありませんよ』
「はい」
そもそもダンジョン内で、パーティメンバー以外の人間と出会うことはないはずだ。
最初に入り口のオーブを触れたとき、ダンジョンの構成は決定される。
たとえ、その数秒後に別人がオーブを触れたとしても、ダンジョンの構成は全く別物。
先に入った人間に出会うこともない。
そう考えれば、目の前の子どもが人間のはずはない。
だが、相手も全く同じことを考えていたらしい。
「何が探索者だニャ! ダンジョン内で他の探索者と出会うことなんてありえないニャ! お前も人型のモンスターだニャ!」
えええ!?
俺の方がモンスターだって疑われているの!?
たしかに彼女も探索者で、ダンジョンの基礎知識があるならそう考えても仕方がないが。
少女が俺に飛びかかってきた。
「ウニャァァァ!!」
素早い動きから繰り広げられるグーパンチ!
『空斗さん!』
いくら素早いといっても、今の俺なら躱すのは容易だ。
その気になれば、相手を切り捨てることもできただろう。
だが、会話ができる相手……それも幼子に剣を向けるのは、強い抵抗感があった。
こうなったらやることは1つ。
何かって?
戦略的撤退に限るだろ。
俺は女神の間に向けて走ることにした。
理由は2つ。
猫耳の子どもがモンスターかそうじゃないか確かめるため。
女神の間に入れなければモンスターだと思って良いだろう。
そして、もう1つの理由。
俺がモンスターじゃないと相手に分からせるため。
女神の間に入ってみせれば、彼女も俺が人間だと理解するだろう。
お互いがお互いをモンスターだと疑いつつも、確信を持てていない現状がよろしくない。
広間を出るとき、俺はチラッと振り返った。
猫耳の少女は、俺を追うべきか否か迷っている様子だ。
うむ、追いかけてきてくれないと話が先に進まないんだが。
俺はちょっと考えて、少女に向けてお尻を突き出して叩いて見せた。
「ここまでおいで、お尻ペンペ~ン」
子ども相手なら効果的だろうとやってみたら、案の定相手はカチンと来た表情になった。
「ニャァァ! バカにするニャ!」
よし、追ってきたな。
このまま女神の間へ逃げよう。
一方、はるるんさんはちょっぴりあきれたらしい。
『空斗さん、ちょっとお下品です』
「言わないでください!」
俺だって『おしりぺんぺん』をリアルにやるのは恥ずかしかったんだからっ。
俺は先ほど休憩した女神の間に向けて、通路を駆けた。
その後を少女が「待つニャァァ!」と叫んで追いかけてくる。
(って、速っ!?)
トロールのスピードなんて目じゃないぞ。
虹武者なみじゃね?
さすがにレインボースライムには勝てないと思うが。
どうりで、トロールの攻撃を避けまくれていたわけだ。
(やっべ、追いつかれるかも)
エルバランスの女神の祝福がなければ、完全に追いつかれていただろう。
俺は女神の間に駆け込んだ。
直後、少女も女神の間に駆け込んでくる。
「なんてスピードだニャ」
「それは俺のセリフだっ! なんなんだ、お前は!?」
「モンスター相手に名乗る名はないニャ」
「誰がモンスターだ、誰が!?」
「ダンジョンにいる生き物は全部モンスターだと習ったニャ」
「それは……俺もそう習ったけど」
「そうだろニャ? ということでお前はモンスターだと決定ニャ」
いやいやいや、その理屈はおかしい。
おかしくないかもしれないが、こっちの話も聞け。
だが、少女は再び殴りかかってくる。
俺はその腕をつかんで動きを止めさせた。
「お前、いいかげんにしろ!」
「なにをするニャ、放すニャ!」
「あれをよく見ろ」
「うニャ? 女神様? ここって女神の間かニャ?」
「そうだ。俺がモンスターなら女神の間に入れるわけがないだろ」
「あ……」
ようやく冷静になったらしい。
「じゃあ、お前は本当に人間なのかニャ?」
「そうだと言っている。それよりお前こそ何者だ? その猫耳って本物だよな?」
とてもカチューシャとかには見えない。
「もちろんだニャ」
「じゃあ、人間じゃないのか?」
俺の知る限り、猫耳人間などフィクションの世界の住人である。
「ボクは獣人のリルラだニャ」
「獣人? モンスターじゃないんだな?」
「さっきのセリフをそのまま返すニャ。ボクがモンスターなら女神の間には入れないニャ」
それは確かにその通り。
しかし、だとしても……
『獣人? なんですか、それ?』
リュックの中から聞こえてきたはるるんさんの声に、リルラと名乗った少女は目を丸くした。
「な、なんニャ? そのリュックの中に誰か入っているのかニャ!?」
「いや、これはマホレットが入っていて、話しているのははるるんさんって人でだな」
「まほれっと? なんだニャ、それは?」
「探索者のくせにマホレットも知らないのか?」
「しらんニャ」
ふむぅ。
たしかに配信を目的としないならマホレットもマホメラも必須ではないが。
「お前こそ、獣人を知らないニャ?」
「ああ、全く」
「どこの田舎者だニャ」
「東京の中野区で育って、世田谷区の寮で暮らしていた都会っ子だ!」
「トーキョー? ナカノク? セタガヤク? なんだそれ? うまいのかニャ?」
はるるんさんが驚きの声を上げた。
『この子、東京を知らない……?』
たしかに。
中野や世田谷はともかく、東京という地名はこの国に住んでいれば、5歳児でも知っているだろう。
そもそも、ここは新宿ダンジョン。東京の中心街に入り口があるんだぞ。
『海外の子? でも日本語をしゃべってる』
たしかに謎すぎる。
『あなた……えっと、リルラさんでしたね。リルラさんはどこから来たんですか?』
はるるんさんの問いに、リルラはキョトンと首をひねった。
「ボクのことに興味があるのかニャ?」
「そりゃああるよ」
「わかったニャ。ボクが生まれたのはプラリンガルの森ニャ」
プラリンガルの森?
まったく聞いたことがない単語だ。
「で、生まれてすぐに人間の奴隷になったニャ」
はい?
奴隷?
「で、ダンジョン探索の仕事をさせられてるニャ。以上ニャ」
いやいやいや。
全然説明が足りん。
俺がどうしたものか悩む一方で、はるるんさんがたずねた。
『リルラさん、先ほどチロルロの谷のダンジョンとも言っていましたよね?』
「そうニャ。いったいなんだって、チロルロの谷のダンジョンにトロールなんて出てきたんだか」
『確認しますが、リルラさんが入ったのは新宿ダンジョンではないと』
「もちろんだニャ。シンジュクなんて聞いたこともないニャ」
一体何がどうなっているんだ?
同じ入り口から入っても、ダンジョン内で別の探索者と出会うことはない。
まして別のダンジョンに入った2人が出会うなど……
出会う……『出会い』!?
まさか、リルラとの出会いも俺のスキルに関係しているのか。
いや、むしろレインボースライムなんかよりも、彼女との出会いの方が……
『空斗さん、Webや生成AIで確認しましたが、「チロルロの谷」や「プラリンガルの森」などという地名は地球上に存在しません』
たしかに俺も聞いたことがない。
『そして、リルラさんは東京も新宿もマホレットも知らない……』
「そうみたいですね」
いったい、これはどういうことなのか。
『すみません、これから私、突飛なことを言います。信じられないと笑っていただいてもかまいません』
「はあ、なんでしょうか?」
『リルラさんは、異世界転移されたんじゃないでしょうか』
はい?
あまりのことに、俺は目が点になった。
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