第6話 猫耳少女との出会い!「お前は何者ニャ!?」
俺の目の前に青いオーブが浮かんでいた。
青いオーブに触ると、次の階層へワープできる。
新宿ダンジョンは全3階層。
つまり、3回青いオーブを見つければクリアだ。
ダンジョンは毎回姿を変えるが、その原則は変わらない。
ちなみに国内最難関の富士山ダンジョンになると、全50階層もあるという。
『次の階層に進むんですか?』
はるるんさんは少し心配そうだ。機械音声でもそれが伝わってくる。
「このままここにいても仕方がありませんから」
俺は青いオーブに右手を触れた。
強くまぶしい光があふれ、俺は新宿ダンジョンの第2階層へとワープした。
第2階層に着くと、俺は木々に囲まれた四角い広場の中心にいた。
ちなみにマホメラは階層をワープしても自動でついてきてくれる仕様だ。
辺りを見回してもモンスターの気配はない。
(森林型ダンジョンか……初めてだな)
池袋ダンジョンで行った実地訓練でも、森林型ダンジョンは現れなかった。
試しに俺は木に手を伸ばしてみたが、触ることはできない。
その前に、透明な壁にはじかれてしまう。
「本当に、この木はイミテーションなんだな」
森林型ダンジョンがどういう場所かは学園で学んだ。
基本的には洞窟型と同じく、細長い通路と四角い広場で構成されている。
一見すると周囲は木で囲まれているし、森の中へ入って行けそうだが、実際には透明な壁で囲まれている。
ただし、違うのは……
『空斗さん、上です!』
分かっている。
森型ダンジョンは洞窟型と違って、天井はない。
空飛ぶモンスターが襲いかかってきた。
「吸血蛾か」
普通の蛾の10倍以上の大きさで、人間の血を吸うのが大好きという危険な虫型モンスター。
強敵ではないが、空を飛ぶため剣での対処は難しい。
教科書にはそう書かれていた。
だが……
(大丈夫、今の俺なら)
俺はロングソードを片手に、その場で跳躍した。
『うそ!?』
はるるんさんが驚愕の声を上げている間に、俺は吸血蛾を上空で切り捨てた。
吸血蛾は黒い霧となり、小さな赤い魔石を落とした。
まあ、こんなものだろう。
しょせんは雑魚モンスターだ。
今の俺の敵じゃない。
「よし!」
俺が両手をグッと握りしめると、はるるんさんが言った。
『「よし!」じゃありませんよ! いま、3メートルくらい飛び上がっていましたよ!? おかしいですよ、物理的にあり得ません!!』
たしかに。
普通の人間はあんなにジャンプできないだろう。
だがなぜかな。
吸血蛾と戦う前から、俺はできると確信していた。
「この腕輪のおかげですよ、きっと」
『はあ、さすが未確認レアモンスターの落とし物ですね』
吸血蛾を倒し、俺は通路へと進んだ。
すると、すぐに次の広場に着いた。
その広場には女神像があった。
「女神の間か。ちょっと水分補給しておきます」
ここなら、あらゆるモンスターは入って来れない。
空飛ぶモンスターすらだ。
俺は地面に座り、リュックの中からペットボトルを取り出した。
「うん、やっぱ日本人なら緑茶だよなぁ」
『私はお紅茶の方が好きです』
はるるんさんとそんな会話を交わしつつ、ゴクゴクゴク。
ふう、気持ちいい。
実は喉カラカラだったんだよな。
ついでに小腹も満たしておくか。
おにぎりとビスケット、それにチョコレートくらいはコンビニで買ってきた。
他にもスポーツドリンクやビーフジャーキーなんかもある。
ダンジョンを探索するのだから、最低限の飲食物を持ち込むのは当然だ。
新宿ダンジョンは3時間もあれば踏破できるとされている。
そのため今回はさほど多くは持ち込んでいない。
せいぜい1日分の食料といったところか。
これが、富士山ダンジョンなどだと食料と装備の厳選が大変らしい。
『私もおやつ食べます』
はるるんさんは自宅にいるのだろうか?
たぶんそうだろうな。
俺はパクパクとおかかのおにぎりを食べた。
喉を潤し、腹を満たし。
ついでに休息も取って。
「さて、行くか」
リュックを背負い女神の間から出て通路を歩く。
しばし進んだときのこと。
「ぐぉぉぉぉ!」
ドガン!
前方の広場からうなり声と共に、何かを叩きつけるような音がした。
さらに。
「ニャニャニャニャニャァ!!」
まるでネコのような悲鳴が聞こえた。
『なんでしょう、この声』
「行ってみます!」
俺は通路を走り、広場の中をうかがった。
そこで、俺は新たな『出会い』を体験するのだった。
広場の中をひと目見て、俺は目を見開いた。
「トロール!?」
人間の3倍はあろうかという肉体。
一見すると肥満体っぽくて、動きはのろそうだが、さにあらず。
意外なほどに素早く動く。
力任せに振り下ろされる棍棒の一撃は、人間など一発でミンチにしてしまう。
よほど腕に覚えがある探索者以外は、出会ったら逃げの一択。
……教科書にはそう書かれていた。
(なんでこんなヤツが新宿ダンジョンに!?)
低難度ダンジョンに出現するモンスターじゃないぞ!
それこそ、富士山ダンジョンの奥深くにいるような敵だ。
これでも俺のスキル『出会い』の効果だっていうのか!?
『空斗さん、気づかれないうちに逃げてください』
たしかにそれも選択肢の1つだ。
たしかにエルバランスの女神に力を解放されたとはいえ、トロールは規格外。
下手なレアモンスターより強敵だろう。
だが。
「あれ、何と戦っているんでしょう?」
『え?』
トロールはすでに何かと戦闘していた。
いや、厳密に言えば、逃げようとする何かを、棍棒を振り回して追いかけていた。
逃げているのは……人間? それもローティーンの子どもに見える。
「ニャニャニャニャニャ! なんでチロルロの谷のダンジョンにトロールなんて出てくるニャ!? 聞いてないニャ!」
なんか語尾が変だが、日本語をしゃべってる。
モンスター同士の争いじゃない?
はるるんさんも驚いたらしい。
『なんですか、あの子。なんでダンジョンに子どもが!?』
子どもは意外と素早く、トロールの攻撃を上手くくぐり抜けている。
だが、このままではやられるのは時間の問題だろう。
俺はとっさにロングソードをトロールに向けて構えた。
『助けるんですか?』
「はい」
子どもがモンスターに襲われているのを放置はできない。
人として当然だ。
それに今ならトロールは子どもを追いかけ回すのに夢中の様子。
こちらに背を向け、俺に気づいてすらいない。
(大丈夫、やれる)
俺は広場に飛び込み、ロングソードをトロールの背中に突き刺した。
(クッ、硬い!?)
トロールの分厚い肉は思った以上に強固だった。
それでも、ロングソードの刃を通すことができた。
エルバランスの女神による祝福を受けていたおかげだ。
元々の俺の力じゃ、トロールの肉を貫くのは無理だっただろう。
だが、ロングソードを背中に深く突き刺されても、トロールにとっては致命傷ではなかったらしい。
「ぐぅぉぉぉぉ」
トロールは突然の痛みに暴れ狂う。
ロングソードの柄を握ったままだった俺は振り回された。
「う、うお!?」
ロングソードを離すわけにはいかない。
ここで武器を失ったら終わりだ。
俺はとっさに力を込めて、ロングソードをヤツの背から抜き放った。
トロールの背中から青い液体が噴き出す。
どうやら、コイツの血液らしい。
トロールは俺の方を振り返る。
俺に向けて牙を剥き、「グルルルゥ」とうなった。
完全にこちらに狙いを変えたらしい。
こうなったら正面からやるしかない!
俺が逃げたら、また子どもが襲われるだろう。
そもそも、背を向けたらその瞬間に棍棒で叩き潰される。
「うぉぉぉ!!!」
叫び、ヤツの脇腹にロングソードを叩きつけた。
「ぐごぉ?」
脇腹からも青い血液を流しながら、それでもトロールは倒れない。
それどころか怒りと闘志を、さらに漲らせているように見える。
俺は毒づいた。
「化け物がっ!」
その言葉に怒ったわけでもないだろうが、トロールが棍棒を振り回す。
無茶苦茶な動きだが、速く、力強い!
トロールは俺の脇腹を狙う。
(くっ)
こんなのまともに喰らったら死ぬ!
俺は後ろに飛んで一撃を避けた。
だが、すぐに次の攻撃が俺を襲う!
(ダメか!?)
そう思った瞬間だった。
例の子どもの声がした。
「ボクのことを忘れるんじゃないニャ!」
子どもは高く飛び上がり、トロールの後頭部にキック。
なんだ、この子のジャンプ力!?
素早さも含め、武闘家系のスキル持ちか!?
でもどう見ても18歳未満だぞ。
先天スキルは18歳にならないと手に入らないはずで。
それとも金酔のように後天スキルを覚えているのか?
トロールは忌々しげに、チラリと子どもの方を振り返った。
どうにもヤツは頭が良くないらしい。
まるで一瞬前まで戦っていた俺のことを忘れたかのような態度だった。
「それは悪手だろうがっ!」
叫んで、俺はトロールの腹にロングソードを突き刺す。
背中よりは腹の方が柔らかく、ロングソードが奥深くまで達した。
そして、この位置は人間なら心臓があるあたり。
トロールも同じならば!
俺は飛び退きざまにロングソードを引き抜いた。
トロールの腹から大量の血が噴き出す。
これはさすがに……
「やったか!?」
俺がそう言うと、はるるんさんが苦笑気味に言った。
『それ、失敗フラグのセリフですよ』
アニメかコミックならその通り。
だが、今回は。
今、トロールの巨体と棍棒が、俺の前で黒い霧になって消えていった。
「ふう、なんとかなったな」
ほっと一息ついた俺に、助けた子どもが叫んだ。
「お前何者ニャ!?」
子どもは臨戦態勢で、俺に向かって拳を構えていた。
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