第33話 懐かしきあの世界へ
「うらぁぁ!!」
俺は雄叫びを上げながら、レッドトロールの太い首を切り落とした。
一般のトロールの10倍は力があるレッドトロールも、魔石を残して黒い霧となった。
スキル『勇者』を取り戻した俺にとって、レッドトロールなど敵ではなかった。
一方、リルラとドリナも。
「うニャニャニャニャニャ!」
リルラがゴールドゴーレムを、持ち前の素早さで翻弄する。
彼女には素早さやジャンプ力系の基礎技能UPスキルをいくつも身につけさせた。
リルラが攻撃をよけると、ゴールドゴーレムはバランスを崩してよろめく。
そのスキをドリナは見逃さない。
「うぉぉぉ! 『大岩斬』」
先日スキルブック屋で買ったばかりのスキルで、ゴールドゴーレムを粉砕した。
「やったな」
「イエーイだニャ」
「しかし、疲れたぞ。戦いっぱなしだ」
「今、何階層だ?」
その質問にははるるんが答えてくれた。
『48階層。あと2階層です』
「なら、もうひと頑張りだな」
「エイエイオーだニャ」
富士山ダンジョンの特性として、30階層以降は女神の間が出ない。
しかも、レッドトロール、ゴールドゴーレム、ドラゴン、ブルードラゴンなど強敵が次々と現れる。
もはや魔石回収どころではなく、俺たちはひたすらにオーブを探しては、即次の階層にいく方針で突き進んで来た。
「いったん水分補給だけしておくか」
モンスターが途切れた今がチャンス。
無限袋から冷茶入りのペットボトルを3本取りだし、3人であおるように飲んだ。
与木氏から無限袋をもらっておいてよかった。
当初持ち込もうとしていた飲み物や食べ物だけではとっくに干からびていただろう。
与木氏とはるるんに感謝だ。
『空斗さん、最後に睡眠を取ってからもう23時間です』
29階で見つけた最後の女神の間で仮眠をしてから、もうそんなに経過したか。
どうりで疲労がたまるわけだ。
ドリナが言う。
「クート、あとちょっとだ。またいつモンスターが現れるか分からない以上、休むよりも先に進むべきだ」
「ああ、そうだな」
俺たちはまた探索を続けた。
目指すは次の階層にいくオーブ。それだけだ。
そして、俺たちはついに富士山ダンジョンの50階層へとたどり着いた。
「ここまで来たが、アタイたちはどうすればいい?」
「この階層のどこかに転移の罠があるのかニャ?」
たしかに。
エルバランスの女神によれば、ここに異世界転移する仕掛けがあるはずだが、どういった仕掛けかは聞いていない。
リルラとドリナがふんだという、異世界転移の罠があるのだろうか?
『あの女神様、色々と説明が足りませんよね』
まったくだ。
「とにかく、探索してみるニャ。ボクらにできるのはそれしかないニャ」
それはその通り。
俺たちは50階層の探索を開始した。
そして、それはすぐに見つかった。
通路を3回曲がった先の広間に、大扉があった。
俺とドリナが話す。
「この扉を開ければ異世界転移ができるのか」
「おそらく、な」
まったく確信はないが。
扉を調べていたリルラが言った。
「また文字が書いてあるニャ」
ドリナが聞く。
「何と書いてあるんだ?」
「ボク、文字は読めないニャ」
「そうか、ならばアタイが読んでやろう」
ドリナは大扉に近づき、目を細めた。
「これはアタイたちの世界の文字だな。『異世界への扉』か、そのままだな。隣に書かれているのは……」
そこからは俺が引き継ぐ。
「『リラクラメリア』だな」
向こうの世界で『開け』の意味。
その瞬間、あの時と同じように大扉が開き始めた。
あの時と違うのは扉の向こうにあるもの。
台座なんかじゃない。
床に正方形のスイッチがあった。
虹色で、一辺3メートルほど。
「間違いないニャ。大きさは全然違うけど」
「ああ、アタイが踏んだのと同じ色だ」
『じゃあこれが、転移の罠ですか』
そういうことらしい。
ここまで大きいと罠と呼べるかはともかくとして。
『3人で一緒に乗ればいいんでしょうか?』
俺はうなずいた。
「おそらく」
「おもしろい! アタイは行くぞ」
「ボクもだニャ」
もちろん、俺もだ。
ここまで来て躊躇なんてない。
だが。
躊躇はないが言うべきことはあった。
『空斗さん、これで本当にお別れですね』
「はるるん、これまで本当にありがとう」
さすがのマホメラやマホレットも、異世界との通信はできない。
はるるんとはこれでお別れだ。
リルラも言う。
「また会うニャ。その時は一緒に動物園か遊園地に行くニャ。できればネズミーランドがいいニャ」
リルラってば、いつの間にかそんな動画も見ていたんだな。
『はい。リルラが戻ってくる日を待ってる』
「はるるん、心配しなくても、ボクらは大丈夫だニャ」
ドリナが言った。
「ま、アタイが2人を必ずお前の元に戻してやるよ。任せておきな」
『わかりました。3人ともお気をつけて』
そして、俺たちは今度こそ転移のスイッチを踏んだ。
虹色の光が俺たちを包み込んだ。




