第32話 富士山ダンジョンへ!「私がはるるんです」
ハグしあうリルラと少女を見つめながら、俺は目を白黒させていた。
「えーっと、あの、その、君がはるるん?」
背丈はリルラと同じくらい。
どう見ても中学生か……下手をしたら小学生だ。
少女……はるるんさんはうなずいた。
「はい、私がはるるんです」
マジか。
たしかに年齢を尋ねた覚えはないが。
はるるんさんは恐縮した表情で、俺に頭を下げた。
「すみません。だますような形になってしまって。最初はちょっとしたおふざけのつもりで……でも時間が経てば経つほど言い出せなくて。本当に申し訳ありませんでした」
ガチで謝ってくるはるるんさんに、俺は慌てて言った。
「いや、だますなんて。はるるんさんに助けられたのは事実だし」
「呼び捨てでいいですよ」
たしかに、小学生相手に敬語もないか。
「わかったよ、はるるん」
俺がうなずくと、リルラが言った。
「だいたい、はるるんが子どもだなんて、ボクはとっくに気づいていたニャ」
え、そうなの!?
リルラはペロッといたずらっ子のように舌を出した。
「なんとなくだけどニャ。クートがいつ気づくかと思っていたけど、なかなか気づかないから面白くなってほうっておいたニャ」
老紳士が言った。
「空斗くん、だったね?」
「はい」
「まずは孫のしでかしたことを謝罪させてほしい。どんな経緯であれ、小学生であることを隠したまま参謀になるなどあってはならないことだ。探索者とは命がけの仕事。その参謀にもそれ相応の責任があるのだから」
はるるんはシュンとなってしまった。
「いえ、先ほども言いましたとおり、俺たちも助かりました。はるるんは俺たちにとって立派な参謀ですよ」
「さて、その上でだ。キミたちの事情は聞いた」
「はるるんからですか?」
「それと、ラボックからもだ。彼は私の古い友人でな。行くのだろう? 富士山ダンジョンに、そして異世界に」
「はい。その話、信じてくださるんですか?」
まともな大人なら信じないと思ったからこそ、強行突破も覚悟してきたのだが。
「孫に泣きながら頼まれてはな。録画した動画も見せられたことだし。それに、ダンジョン省の元大臣として、ダンジョンの異常は捨て置けん」
え、ダンジョン省の元大臣?
それで俺はようやくこの老紳士が誰だか理解した。
「日本初のダンジョン探索者、与木夏夫さん!?」
40数年前、日本人で最初にダンジョンを攻略し、その後設立されたダンジョン省の大臣に民間人ながら任命された人だ。
与木氏はとぼけた顔で言った。
「昔はそんなこともあったな」
はるるんが言う。
「空斗さん、いま富士山ダンジョンは事実上ダンジョン省によって封鎖されています。ですが、おじいさまなら、なんとか見張りを説得できるでしょう」
「さてな。今の若者達にどこまで私の威光が通じるか」
「大丈夫です。おじいさまは伝説の探索者なんですから」
「蛇の道は蛇。見張りを直接は難しいが、上層部を動かしてみるか」
それができるなら、ありがたいことこの上ない。
無茶な強行突破を試みるより確実だ。
与木氏はポケットから手のひら大の小袋を取り出した。
「それと、空斗くん。これは孫の友人への餞別だ」
「なんですか、これ?」
「無限袋と呼ばれるアイテムだ。学園で習わなかったかな?」
「え、まさか、あのレア度SSSの!?」
小さな袋に、いくらでもアイテムを収納できる。
わかりやすく言えば、某猫型ロボットの四次元ポケットみたいなもの。
現在までに発見されたのは3個だけという、伝説級のアイテムだ。
「中には水と食い物、それに回復薬や武具をたっぷり入れておいた。富士山ダンジョンを攻略し、異世界を冒険するというならば役に立つだろう」
俺は頭を下げた。
「ありがとうございます!」
これがあれば、富士山ダンジョン攻略の見込みは大きくなる。
「でも、本当にいいんですか?」
「かまわん、かまわん。私はもうダンジョン探索はできん」
与木氏は杖を振ってみせ、倒れそうになってはるるんに支えられた。
「世界を救いに行く若者に、老人ができるせめてものことだ」
はるるんが言う。
「空斗さん。本当は私、今でも止めたいんです。富士山ダンジョンの攻略とか、異世界転移とか、悪竜退治とか、なんで空斗さんたちがしなくちゃいけないんだって……」
そこまで言って、はるるんは耐えられないとばかりに泣き出した。
「……いいえ、違います。本当は……わたし、空斗さんたちとお別れするのが寂しいんです。だから、これは私の身勝手な想いで……だから、行くなとは言いません。空斗さん、リルラさん、ドリナさん、頑張ってください」
リルラが言った。
「大丈夫ニャ。全部終わったら、ボクもクートもちゃんと戻ってくるニャ」
「でも、リルラさんは異世界の方なんじゃ?」
「ボクはこっちの世界の方がすきニャ。ご飯も美味しいし、それに友達もいるニャ」
「友達……」
「もちろん、はるるんのことニャ」
「リルラさん」
「ボクのことも呼び捨てでいいニャ」
はるるんはちょっと恥ずかしそうにした。
「わかりました。リルラ」
リルラははるるんの手を握って握手した。
「これでボクらも本当の友達ニャ」
ドリナが言った。
「心配するな、はるるんとやら。クートとリルラには、この戦斧のドリナがついている。アタイが絶対に2人を無事この世界に帰すと約束しよう」
はるるんはうなずいた。
「はい、ありがとうございます。ドリナさん。私のお友達を、どうかよろしくお願いします。私はこれ以上何もできないですから……」
「え? はるるんはボクらの参謀じゃないのかニャ?」
「俺も、はるるんに最後まで見届けてほしいよ」
「でも、いまさら、私は……」
躊躇するはるるんに、与木氏が言った。
「晴美、一度参謀役を引き受けたのなら、最後まで責任を持ちなさい」
はるるんはそれまでで最高の笑顔を見せた。
「ありがとうございます。私、精一杯頑張ります!」
そして、俺たちは富士山ダンジョンへと向かった。
大臣を辞めたとは言え、現在でも与木氏の威光は本物だった。
どんな方法を使ったのか知らないが、俺たちは邪魔されるどころか、むしろダンジョンの入り口のオーブまで丁重に案内された。
そして、俺たちは国内最難関のダンジョンの第1階層へと転移したのだった。




