第3話 「無双ですか、これが無双ってヤツですか!?」
女神の間を出て、通路を行く。
マホメラは俺の前を飛んで撮影を続けていた。
マホレットからはるるんさんの声がした。
『ところで、空斗さんのスキルって何なんですか? ソロでダンジョン攻略されるからには、相当自信があるとお見受けしますが』
うっ!
「え、えーっと、それは……」
『自分のスキル名くらい視聴者に伝えておいた方がいいですよ。なんなら動画タイトルに入れる手もあります』
それはそうかもしれない。
だが、俺のスキルは……
「『出会い』です」
「はい?」
「スキル鑑定士は、俺のスキルは『出会い』だと言っていました」
ついでにハズレスキルだとも、探索者になるのは諦めろとも言っていた。
(きっと、はるるんさんにもバカにされるんだろうな)
そう思ったのだが。
『すごいです、空斗さん』
「え?」
『そんなスキル聞いたこともありません! どんなスキルなのかわくわくします』
「たしかにレアスキルらしいです。ですが、探索で役に立つかは疑問だと聞きました」
『それはどうでもいいです』
は?
どうでもいい?
「それ、どういう意味ですか?」
『お気にさわったなら謝ります。ですが、動画配信する上で『謎のスキル』というのは視聴者の興味を最高にひきますよ!』
え、そこ?
『まずは動画のタイトルにスキル名を入れるべきですね。たとえば……
【謎スキル“出会い”は本当にハズレスキルなのか!?新宿ダンジョンをソロ攻略して検証】
……こんなかんじのタイトルはどうでしょう……ちょっと長すぎるかもですが』
いや、『どうでしょう』と言われても。
「自分からハズレスキルだとアピールするんですか?」
『読者に謎かけして興味をひかせるんですよ。タイトル作りの基本のキです。こんなおいしいネタ、配信でアピールしなくてどうするんですかっ』
そういうものらしい。
「教師やスキル鑑定士には探索者に向かないと言われたんですけどね」
『私は探索者ではないので、そこはなんとも言えませんが』
と、俺たちの会話はそこまでだった。
通路の向こうからモンスターが現れたのだ。
「鎧武者!」
赤茶けた鎧のモンスター。
右手には鉄の剣を持っている。
一見すると物質系にも見えるが、その実体はアンデッド系。
鎧の中には骸骨が入っている。
俺はロングソードを構えた。
鎧武者も鉄の剣を俺に向ける。
『空斗さん、がんばってください! でも、いざとなったら逃げてくださいね』
鎧武者の弱点その1は動きがのろいこと。
たしかに力は強いのだが、歩む速度も剣の速度もそれほど速くない。
逃げようと思えば逃げられるだろう。
だがっ!
「逃げるつもりはありません」
(大丈夫、鎧武者なら勝てる)
かつて、実地訓練で何度も倒した相手だ。
「うぉぉぉ!」
俺は叫んでつっこんだ。
鎧武者は大きく剣を振りかぶり、駆け寄る俺を叩きつけようとした。
だが、それは予想済。
鎧武者の弱点その2は攻撃のパターンが一定だということだ。
近接戦に持ち込めば、剣を振り下ろすことしかしない。
こんな一本調子の攻撃、よけるのはたやすい。
俺は鎧武者の攻撃をよける。
その流れでヤツの脇腹をロングソードで思いっきり叩きつけてやった。
たまらず鎧武者は通路の壁に吹っ飛ぶ。
「悪いな」
俺は言って、鎧武者の顔面をロングソードで貫いた。
それで終わりだった。
鎧武者は断末魔の声すら上げない。
そもそも、ヤツの喉には声帯がないのだろう。
今、鎧武者の鎧も、中の骸骨も、鉄の剣も、黒い霧になっていく。
鎧や鉄の剣も含めて、鎧武者というモンスターの肉体なのだろう。
ダンジョンのモンスターは、倒されると死体すら残さずこうやって消えていくのだ。
残されるのは小さな赤い石ころ――魔石だけだ。
これの回収こそが、探索者本来の仕事だ。
最近は動画配信の方が仕事みたいな探索者も多いけどな。
俺は魔石を手に取り、リュックにしまった。
すると、はるるんさんの声がした。
『すごい……』
「え、何がですか?」
『空斗さん、ものすごいじゃないですか! 本当に学園を卒業したばかりなんですか!? っていうか、本当は『剣豪』とかそういうスキル持っているんじゃないですか!?』
はるるんさんは早口でまくしたてた。
機械音声に変換されていても、興奮しているのが伝わってきた。
「今日卒業式を終えたばかりだし、俺のスキルは『出会い』です」
『信じられません。私、初心者ウォッチャーですが、ベテランの『剣豪』持ちの探索者の動画だって見たことあるんですよ! 空斗さんの方がずっと強いですよ』
大げさだなぁ。
「そんなことないですよ」
ダンジョンの中ではスキルが全てだ。
俺の剣術なんて、ただ小学生の頃から毎日素振り千回して、学園でも人一倍努力しただけに過ぎない。
『あー、でも、モンスターを倒した後はいただけませんね』
「どういう意味です?」
『空斗さんは初めてモンスターを倒したわけでしょう? もっと喜んで見せないと』
「学生時代に教官と共に実地訓練を行いました。鎧武者ならその時にも倒していますよ」
上位モンスターの剣豪武者を倒したこともある。
鎧武者を倒しただけでは、そこまで嬉しいとは思えなかった。
『動画には緩急が必要なんですよ! せめて手に入れた魔石をマホメラに掲げて「魔石ゲットだぜ!」くらい言わないと。そんな風に淡々としていると視聴者が飽きてしまいますよ』
ふむぅ。
動画配信とはなかなかに難しいな。
単にモンスターを倒すだけじゃ駄目なのか。
たしかに、人気の配信者はもっとオーバーリアクションだったような……
「参考になります」
『特にソロ攻略ですからね。仲間との会話がない分、空斗さんがもっと大げさにリアクションしないとダメです』
「はるるんさんと会話していますが」
『実はそれも問題なんです。特定の視聴者とばかり会話すると他の視聴者を逃す原因になりかねません。今日はどうせ私しか見てないからいいですけど』
そんな会話を続けつつ、通路を歩き次の部屋へ。
そこで待ち構えていたのは……
『ゴブリン!? しかも10体以上!! 空斗さん、逃げてください!!』
ゴブリンとは亜人種系のモンスターだ。
人間の大人よりやや背が低く、二足歩行。
鎧武者よりは知能もある。
上位種だと武器や盾なども扱うが、目の前にいるゴブリンは素手だ。
「大丈夫、武器も持っていないゴブリンくらいどうにでもなります」
俺はショートソードを抜き放ち、ゴブリンがたむろしている部屋に飛び込んだ。
「ふぅ、こんなもんかな」
10体のゴブリンを倒した俺は、部屋の中に散らばった10個の魔石を集めた。
全部合わせて手のひらいっぱいといったところ。
魔石をリュックサックにしまおうとして思い出す。
あ、そうだ。
やることがあった。
俺は魔石をマホメラに向けた。
「魔石、ゲットだぜっ!」
……
…………
………………
……実際にやると、めちゃくちゃ恥ずかしいな、これ。
俺がちょっぴり顔を赤らめていると、はるるんさんの声が聞こえた。
『「ゲットだぜっ!」じゃありません!』
ええぇ、はるるんさんがやれって言ったんじゃん!
『何なんですか、あなたは!? 剣士系のスキルもなしにゴブリン10匹を同時に相手にして圧勝するって! 無双ですか、これが無双ってヤツですか!?』
「いやー、しょせん武器も持っていないレベルの低いゴブリンですから」
『そういう問題じゃありませんっ!』
「ビルグランテに比べたら俺なんてまだまだです」
『世界レベルのトップランカー探索者と比べないでください!』
うぅ。
たしかに今のセリフはちょっと調子に乗ってしまったな。
「すみません」
『いえ、謝っていただく必要はありませんけどね。それはそうと、また1つ問題が出てきましたね』
問題?
「なんですか?」
『マホメラの性能です』
「一番安いヤツですからね。それでも初心者のソロダンジョン配信なら十分実用に耐えると言われたのですが」
『そりゃあ、一対一で鎧武者と戦う分には大丈夫でしょうが、10対1の戦いでは全く被写体を追えていません。空斗さんのスピードにも反応し切れていませんね』
うーん、それは困ったな。
『次回の撮影ではマホメラを最新型にされることをオススメします』
「懐具合と相談します」
などと話していると。
部屋の入り口から気配がした。
(なんだ?)
とっさにそちらを見ると、虹色に輝くアメーバ状のモンスターがいた。
(スライム! だけどこの輝きは!?)
『うそ!? ゴールドメタルスライム?』
はるるんさんがそう考えたのも無理はない。
輝くスライムなんて、レア中のレアモンスター、ゴールドメタルスライムしかいない。
だが。
『いえ、違う。ゴールドメタルスライムは金色のはず。虹色のスライムなんて聞いたことがないです』
はるるんさんの言う通りだ。
こんなスライム……こんなモンスター、俺は知らない。
これでもモンスター辞典に掲載されているモンスターは全て覚えている自信がある。
そこに掲載されていない、新種モンスターもダンジョン探索者Wikiでしっかりチェックしてきた。
つまり、これは……新発見の超レアモンスター!?
俺はゴクリとツバを飲み込んだ。
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