第26話 ドワーフ女戦士、戦斧のドリナ
俺たちは女神の間を探して再び探索を始めた。
ドリナは正式にパーティ加入したわけではないが、情報交換の必要性は認識しているらしく、特に反対しなかった。
むしろリルラがムスっとしたままなのが気になる。
さっきの十字路まで戻り、別の通路を行こうとしたとき、はるるんさんが小声というか、音声極小の設定で俺にだけ聞こえるように言った。
『空斗さん、ちょっといいですか? 話がさらに混乱しそうなので、リルラさんたちには聞こえないように言います』
俺は小さくうなずいた。それがはるるんさんに伝わったかは知らないが、はるるんさんは話を続けた。
『ちょっとマズいことになっています。今回の生配信、前回と違ってたくさんの視聴者に見ていただいているわけですが、ドリナさんの転移とか、ドワーフとか、全部視聴者さんにバレちゃって……コメント欄が大荒れです』
あ……
たしかにそうだ!
生配信中だったのをすっかり忘れていた。
状況的に、覚えていたから何ができたんだという話もあるが……
『勝手に切抜き動画をあげている人もいるし、もう隠しきれません。私もゴーレムとの戦いとかに集中しちゃって。ドリナさんが、リルラさんを『獣人の子どもだろう』と言ったあたりでさすがにまずいと思って、配信を強制終了したんですが……それがまた憶測や噂話をどんどん広げる結果に……』
なんてこった。
『すみません。私がもっと早く判断していれば……』
「いや、はるるんさんのせいじゃありませんよ」
誰のせいと言われれば、間違いなく俺のせいだ。
こうなることは予想できたじゃないか。
生配信なんかすれば、リルラの正体がばれるリスクはもとよりあったのだ。
幻の指輪でごまかせば大丈夫なんて、あまりにも安易すぎる考えだった。
俺には予感があった。
今後さらなる出会いがあるだろうと。
そして予感の通り、ドリナと出会った。
あの予感を信じるなら、生配信なんて絶対しちゃ駄目だったんだ。
俺の夢は世界一のダンジョン配信者になることだ。
でも、それはリルラを護ることに優先するような夢だったのか?
動画配信なんかよりも、リルラと一緒に暮らして、リルラと一緒に冒険して、彼女との生活を守ることの方がずっと大切だったのに。
『すみません。ややこしいときにややこしいことを言ってしまって』
「いえ、教えてくださってありがとうございます」
俺たちの前に、ブルースライムが10匹ほど現れた。
もちろん、俺たちの敵じゃない。
リルラとドリナが競い合うように倒す。
リルラはさすがの素早さで、8匹。残り2匹をドリナが戦斧でなぎ払った。
(もう、俺やることがないな)
一応、後方警戒係はしているが。
「ふんっ、どうだニャ。ボクの強さが分かったかニャ? 馬鹿力だけのお前なんかよりボクの方がずーっと強いニャ」
「ふん、最弱のスライムを倒して大喜びか。子どもは気楽でいいな」
うわぁ。まだまだ険悪だよ、この2人。
「どうニャ、クート。ボクとコイツとどっちが頼りになるニャ」
そういう二者択一を迫らないでほしい。
どっちを選んでも、あるいはどっちも強いとか言っても、2人はさらに険悪になりそうだ。
結局、俺は答えることはせず「とにかく女神の間を見つけて情報交換しよう」と言うのだった。
あっちも問題、こっちも問題、さてどうしたものやら。
ふと、俺はさっき台座から拾った虹の腕輪を見た。
この腕輪も問題だよなぁ。
一体どの問題から片づけたものやら。
さらに歩くと、女神の間が見つかった。
「よし、ここなら落ち着いて話ができるな」
俺はリュックからお茶入りのペットボトルを3本取り出した。
「とりあえず、喉の渇きを癒やそうぜ」
リルラはうなずいてペットボトルを受け取った。
一方ドリナは「いらん」と言って、自分の鞄から小さめの水筒を取り出した。
「いいのか? その水筒だけだとあまりもちそうもないが?」
「悪いが与えられた物を安易に口にできるほどには、まだお前たちを信用していない」
そうか。そうだよな。
リルラの時は割とあっさり信用してもらえたが、そういう反応ももっともなのかもしれない。
いずれにせよ、3人とも喉を潤したのを見計らって、俺は口を開いた。
「さて、どこから話すべきか」
「アタイから話そう。といってもたいしたことはない。スカラトーンのダンジョンを探索していたところ……」
ドリナがそこまで言ったとき、リルラがハッとした顔になった。
「スカラトーン? ボクの世界の地名だニャ」
だとしたら、ドリナとリルラは同じ世界からやってきたのか?
「お前の世界? それはどういう意味だ?」
「ボクは異世界転移したニャ。お前もそうだと思うニャ」
「異世界転移……エルバランスの女神とかいうヤツが言っていたのも、ほら話じゃなかったのか」
どうやらドリナも、リルラと同じく転移したときにエルバランスの女神に出会ったらしい。
その後も、まずはドリナの話を聞くことに。
ドリナはソロで行動する探索者。
リルラのような奴隷とかではなく、自分の意思で探索者になった。
地元では戦斧のドリナとして有名らしい。
今回もスカラトーンという場所にあるダンジョンに潜った。
そこで、普通とは違う転移の罠を見つけた。
「なにしろ、罠が虹色だったからな。これはなんだと思って試しに踏んでみた」
……って、おいおい。
「ははははっバカだニャ。わざと罠を踏むとか、ウケるニャ」
「なら、お前はどうなんだ?」
「ボクは罠に気づかなかっただけニャ。お前みたいにバカなことはしないニャ!」
いやー、どっちもどっちだと思うんだが。
リルラはゲラゲラと笑うが……いや、さすがにその笑い方は挑発に近いだろ。
「いくら子どもとはいえ、道理を知らんのか?」
「子ども子どもうるさいニャ! もういい加減、頭にきたニャ!」
「ほう、ならどうする」
「決闘ニャ! ぶっつぶしてやるニャ」
おい!?
ドリナがスッと目を細めた。
「決闘、だと?」
「そうニャ。お前とボク、どっちが強いか白黒はっきりつけるニャ!」
「いくら子ども相手でも、決闘を挑まれればドワーフの戦士として聞き流せんぞ」
「ボクは本気ニャ」
リルラは立ち上がり、ドリナに向けて拳を構えた。
「そうか。やむをえんな」
ドリナも立ち上がって、背中の戦斧を持った。
(おいおい、マジかよ)
だが、ドリナはこの決闘で戦斧を使うつもりはないらしい。
「空斗、悪いが戦斧を預かっておいてくれ」
俺は戦斧を受け取りつつ、2人に言った。
「お前ら、いい加減にしろよ。なんでこんなところで決闘なんて」
「アタイが知るか。喧嘩を売ってきたのはリルラの方だ」
「ごちゃごちゃうるさいニャ。ボクの方が空斗の役に立てるって証明するニャ」
結局、ヒートアップした2人を止めることができず、リルラVSドリナの決闘が始まってしまったのだった。




