第14話 御徒町の魔石鑑定士「お嬢ちゃんは人間じゃないな?」
翌朝。
俺が起きたとき、まだリルラはすやすや寝ていた。
「むニャァ、むニャァ、お子様ランチおいしいニャ……」
寝言にも『ニャ』がつくのか。
それにしても、猫耳がピクピクしててかわいいなぁ。
(しかし、これからどうするかな)
昨日は色々と勢いで動いてしまったが、一晩寝ればちょっとは冷静になってくる。
現実問題これからリルラをどうしたものか。
異世界人(しかも猫耳)をこの世界の人たちは受け入れてくれるものだろうか?
(かなり前途多難だよなぁ)
はっきり言って、ダンジョン配信どころじゃないかも。
いや、むしろ、リルラの食い扶持を稼ぐためにはダンジョンに潜って少しでも収入を得る必要があるか。
などと考えていたところ、スマホのSNSアプリに通知が来た。
(こんな朝早く誰だ?)
スパム広告かなと思って開いてみると、初心者ウォッチャーのはるるんさんからだった。
はるるん:おはようございます。空斗さん( ᐢ. ̫ .ᐢ )
空斗 :おはようございます
はるるん:今お時間大丈夫ですか?
空斗 :問題ないです
はるるん:よかった(⊃ ॑꒳ ॑⊂)
意外と子どもっぽい顔文字をつかうんだなぁ。
いや、イメージ通りかもしれないけど。
はるるん:1つご提案があるんですけど
空斗 :なんでしょうか?
はるるん:是非、私に空斗さんの動画編集係をさせていただけませんか?(ᐢᴖ ·̫ ᴖᐢ)
突然の申し入れだった。
ちょっと考えて、すぐにありがたい話だと気づく。
俺に動画編集の技能はない。
撮影した映像を切り貼りしてUPするだけでもできるかどうか。
はるるんさんなら、きっと俺よりも上手い編集ができるだろう。
空斗 :それはありがたいです。是非お願いします
はるるん:よかった。私頑張りますね!ദ്ദി ˃ ᵕ ˂ )
空斗 :お礼はどのくらい差し上げれば良いですか?
はるるん:そんなのいりませんよ(><)
空斗 :いえ、そういうわけにはいきません
懐具合はさびしいが、無償でお願いするわけにはいかない。
いくらなんでもそれは厚かましすぎる。
その後、『いらない』と言うはるるんさんに、俺は『払う』といいはった。
最終的に1本5千円、さらに将来的に動画の収益が出たら3割お支払いすることで話がまとまった。
はるるん:昨日の生配信って録画していますよね?
空斗 :はい。動画データを送りましょうか?
はるるん:おねがいします(ᗒ⩊ᗕ)ʕᦏ
しかし、ここからが問題だ。
空斗 :ただ、問題が1つ
はるるん:なんでしょう?
空斗 :リルラのことです。そのままネットに流してもいいものかと
異世界転移してきた獣人。
そんな話をWebにながしてしまっていいものか。
いわゆるデジタルタトゥーになってしまいそうだ。
はるるんさんもそれに同意してくれて、今回動画化するのはリルラと会う前、つまり第一階層までとすることになった。
はるるん:少し尻切れトンボになってしまいますが、やむをえませんね。
はるるん:レインボースライムとの戦いだけでも、十分な画になると思います。
そんなこんな打ち合わせを終えた頃、リルラが目を覚ました。
「うんニャ」
「おはよう、リルラ」
「おはようだニャ。今日はどうするニャ?」
どうするかと言われても明確な予定はない。
「そうだな……とりあえず朝ご飯……ってばあちゃんの葬式以来使ってないから冷蔵庫の中身空っぽだな」
「ご飯ないのかニャ?」
「まあ」
「大丈夫ニャ。朝ご飯なくてもリルラは元気ニャ」
そりゃ、朝飯くらい抜いても死にはしないだろうが、別に朝食を食べられないほど困窮しているわけじゃない。
「心配するなって。とりあえず今日は近所の牛丼屋で飯を食って、そのあと魔石を換金しに行こう」
「了解だニャ!」
俺はリルラに例のフード付の服を着せると、彼女と一緒に牛丼屋に向かった。
そこでも、リルラが牛丼屋で券売機に驚き、牛丼のあまりの美味しさに騒ぐ一幕もあったが……もう、昨日のファミレスの件とにたような反応だったので省略。
朝食の後、俺はリルラを連れて、電車で御徒町へと向かった。
リルラが電車の中で騒がないか心配だったのだが、特にそんな様子もなかった。
「リルラ、大丈夫か?」
「だ、大丈夫ニャ、リルラは強い子ニャ、で、電車くらい、だ、大丈夫なのニャ!」
いや、声も体も震えているんだが。
とはいえ、昨日の騒ぎに比べればだいぶましだ。
東京で暮らしていれば、電車にもそのうち慣れるだろう。
「ここが御徒町かニャ」
「そう。魔石の鑑定や買い取りならこの街が一番」
ちなみに、マジックアイテムを探すなら秋葉原。武器防具なら渋谷か池袋あたりが都内では有名だ。新宿はどちらもそろう。
もちろん、立川にだって魔石を買い取ってくれる店くらいはある。
わざわざ御徒町までやってきたのには理由がある。
(虹の魔石、はたしてどれくらいの価値があるのか)
はるるんさんは都市伝説とか国家機密とか言っていたが、さすがにそれは大げさだろう。
だが、この俺が見たことも聞いたこともないレア魔石だ。
きちんとした鑑定をしてもらう必要があった。
朝予約した店に入ると、ショーケースの中に魔石がいくつも飾られていた。
おっさんが冷たい目で俺を見た。
この店のWebサイトによれば、この男は『魔石鑑定士』のはずだ。
「どちら様?」
「朝予約した蒼凛というものですけど」
鑑定士は俺とリルラを見定めるようにながめた。
「ここは子どもが出入りする店じゃないんだ」
「探索者免許なら持っています」
俺の免許をチラッと見て、鑑定士は苦笑。
「昨日学園を卒業したばかりだろ? そういうのをここらじゃ子どもっていうんだよ」
ムカッ!
「初心者向けダンジョンの魔石なら、もっと普通の店で売りな」
鑑定士は帰れ帰れと右手を振ってみせる。
「ここじゃなきゃ、鑑定できないかもしれないんです」
「ふん、初心者がなにを言っているんだか」
ダメだな、これは。
実際に虹の魔石を見せないと話が進まなそうだ。
俺はリュックの中から、魔石を取りだした。
ゴブリンを倒したときの赤い魔石を見て、鑑定士はそれ見たことかという顔になった。
「ふん、そんなクズ魔石うちじゃあ買い取らないよ」
だが、次に俺が虹の魔石を取り出した瞬間、彼の目の色が変わった。
「ちょ、ちょっとまて! それはまさか……いや、ありえない。偽物に決まっている」
「あなた、魔石の鑑定士ですよね?」
「その通りだが?」
「鑑定士が鑑定もせずに偽物と決めつけていいんですか?」
「ずいぶんと挑発するじゃないか」
「そんなつもりはありません。俺は魔石の鑑定と買い取りをお願いしたいだけです」
鑑定士は「ふぅ」と息を吐いた。
「10万だ」
「……は?」
「鑑定代金。もし偽物なら10万もらう」
「本物なら?」
「鑑定代はとらん」
10万円。安くはない金額だ。
だが、これは間違いなく、俺がレアモンスターを倒して手に入れた魔石だ。
偽物なんてことはありえない。
問題は相手が『偽物だ』と言い張って鑑定代をせしめるケース。
だが、他に売る当てもないのだ。ここは信用する以外にない。
「わかりました。お願いします」
2つの虹の魔石を鑑定士に渡した。
「こりゃあ……嘘だろう。本物の……しかもすごい純度だ。いやいや待て、ここまで完璧というのは逆に怪しい……だが」
20分ほど虹の魔石と格闘した後、鑑定士は俺にたずねた。
「小僧、お前、こんなもんをどこで手に入れた?」
「もちろんダンジョンで」
「昨日学園を卒業したばかりの小僧がこれを? 一体どこのダンジョンだ?」
「新宿ダンジョンです」
「ばかをいうな! あんな低難度ダンジョンでこんな物が手に入るかっ! なにか裏があるはずだ」
裏と言われてもなぁ。
「未発見のレアモンスターと遭遇しました。レインボースライムと虹武者と名付けました」
「ちょっとまて、レアモンスターに2匹も遭遇したって言うのか?」
「はい、現に魔石が2つあるでしょう?」
「確かにそうだが……」
リルラが横から口を挟んだ。
「あと、トロールも出現したニャ」
「なんだとぉ!?」
鑑定士はリルラをチラッと見た。
「お前もダンジョンに?」
「とうぜんだニャ」
「お前、いったいくつだ? 探索者免許を持てる年齢には見えんが」
あ、これヤバイ方向に話が向かってる。
「そ、それはさておいて。魔石の鑑定結果は?」
鑑定士は「ふん」と鼻を鳴らした。
「うちじゃあ、換金はできんな」
「なんでですか? 本物でしょう?」
「本物だからだよ」
「意味が分かりません」
鑑定士は1枚の名刺を俺に投げるように渡した。
「そこに行きな。俺の紹介だといえば、まあ門前払いは喰らわねぇだろうよ」
(?)
「鑑定料はいらないんですか?」
「偽物ならもらうと言った」
つまり、この虹の魔石は本物だと鑑定したわけか。
鑑定士は俺に2つの虹の魔石を返してくれた。
「さあ、とっとと行きな。そんなもん、おいそれと持ち歩くな」
名刺に書かれていたのは、近くの雑居ビル。
(だけど、地下5階って)
エレベーターは地下4階までしかないのだが。
仕方なく、地下4階まで降りると、薄暗い下り階段があった。
立て看板に『ラボックの店』とだけ書かれている。
はっきりいって、めちゃくちゃ怪しい。
「ここで間違いないよな」
しかし、入るのはちょっと勇気がいる。
「どうしたニャ? ここに用事じゃないのかニャ?」
どうやら、リルラは特に怖いとは思っていないらしい。
「ああ、そうだな。とりあえず行ってみよう」
階段を降りると、薄暗い部屋だった。
中央にテーブルと椅子があり、白いひげを大量に生やした皺だらけの老人が座っている。
……老人だよな?
背丈がものすごく低い。
冗談ではなく4頭身だ。
背丈だけなら子どもと思ってしまいそうだが、顔の皺や髭はどうみても老人のもの。
まさか子どもが特殊メイクしてこんなところにいるわけもない。
リルラがハッと息をのんだ。
「ドワーフ!?」
いや、ドワーフって。
リルラの世界はどうか知らないが、地球上にそんな種族実在しない。
そう思ったのだが。
老人は目を細めてリルラに言葉を投げかけた。
「そう言うお嬢ちゃんも人間じゃないな。猫族の獣人かい?」
なっ!?
思わず、俺は声を出した。
「何でそれを!?」
俺が目を見開くと、老人は「してやったり」といった笑みを浮かべた。
現実世界では御徒町には一見さんお断りの宝石商がたくさんあったり。




