四魔卿
魔族領と魔獣の生存圏の境界上付近で戦闘を行っていたレイアとイージスは、聞き慣れた爆発音に笑みを溢す。
「……クレアの戦場とは距離がある筈なのに、ここまで聞こえてくるの凄い」
「そうだな。凄まじい規模と威力だ。あの爆発が直撃したら万全な私でも危ういかもな」
シーラからもうそろそろクレアが爆発するという連絡は来ていたが、新たな『自爆』の初お披露目であるため、花火でも鑑賞しているかのように感想を言い合うレイアたち。
戦闘中の筈の2人がここまで余裕な様子を見せているのは、突然信じられない規模の爆発を目の当たりにして、敵が戦闘どころではなくなってしまったいるからであった。
「お、おい、おいおい! 何だ何だ! あれは何だ!」
「おおお、落ち着けふーるふる。四魔卿の我々が狼狽えれば……」
「ソドム様、フフールですぜ」
「……すまん」
「落ち着きましょう」
目の前で大いに狼狽えている2人はルフェル陣営の中でも選ばれた四魔卿のメンバーであった。とてもそうは見えないが。
不死族の伝令が知らせてくれた情報によると、クレア陽動隊に1人、フォルティスたちの方に1人四魔卿は出撃しているらしいため全員が出撃している。
そうなるとルフェル陣営は今回の作戦についてかなり警戒していることがわかる。その上で今の爆発である。目の前のソドムたちもどう動けば良いか決めあぐねてるようであった。
「……そろそろいい? 続きをやる? それともあっちに行く?」
「も、もちろんだ。あのような爆発ごときに臆する我々では……っとどうしたフフール」
「いえ、ルフェル様から神託が……我々だけでも爆心地に向かえと」
「なんと……だが」
「私たちの作戦は一旦終了した。お前たちがそっちに向かうなら私たちは追わないが……どうする?」
大規模爆発によって信者どころか勇者すら全滅したことにより、今爆心地で何が起こっているのか知りたいルフェルからの神託。
それを受けたソドムは迷っていた。ソドムたちが爆心地に向かうとなれば、レイアたちを自由にしてしまう。そうしないためにソドムたちが率いていた部隊はこの場に残り足止めをしなくてはならない。
そしてソドムたちがいなくなったこの部隊でイージスの『無敵要塞』を貫ける存在はいないだろう。つまりそれは部隊を見殺しにするということなのだ。
そのためルフェルからの指示と部隊の安否の間で揺れるソドムを後押しするようにイージスが提案する。
「どういうつもりだ」
「そのままの意味。爆発が起きた時点で私たちは撤退指示が出てる。私たちを逃がさないつもりなら戦う。でも逃がしてくれるなら追わない」
「……そんな事を信じられると」
「ソドム様!」
「わかった。今日は見逃してやるぞレイア、イージス。だが次会うときは必ず貴様らを主神の元に送ってみせる! 覚悟しておくといい!」
「覚悟するのはそっち。じゃあね」
レイアたちがソドムたちを追ってきたり、ここから魔族領に進攻してきたりする可能性などもあるが、ソドムは部隊を引き連れて爆心地に向かう決断をするのであった。
ソドムたちが爆心地に向かって行くのを見送りながら、レイアたちは本当に撤退のため、転移場所である魔獣の生存圏内にある支配領域に戻っていた。
「……それにしても撤退するんだな。タイガだったら爆発から1手、2手嫌がらせするのかもと思っていたが」
「それをすると『不死の呪い』で復活したクレアがフリーになっちゃうから。今回の『偽りのウルザ陣営作戦』は顔見せが主だから」
「ここまで大掛かりなのにな……それにしても『不死の呪い』とは、本当に抜け目がないというか」
『道連れの呪い』は『誘爆の呪い』と異なり死因と直接的な関係の無い呪いなどは道連れ対象に付与されない。
そのためクレア爆弾を爆発させれば何もなければ、死亡したクレアの魂はウルザの元に行く筈である。しかしそれだとウルザ視点では不審な点があるだろうと考え、レイアが事前にクレアに『不死の呪い』を掛けておいたのだ。
そもそもクレアを操り人形にした理由は、裏切りに敏感なウルザにクレアが裏切ったと誤解させ、2度と蘇生されないようにするためであった。
しかし裏切ったのならば改宗しないのは変であるし、仮に改宗しないとなっても安全策である筈の『不死の呪い』を掛けておかないのはおかしいだろう。
だからこそ『不死の呪い』を掛けたのだ。
「蘇生後、ウルザが位置情報でクレアの位置を確認した瞬間に殺されるのが一番嬉しい?」
「そうだな……いや、ルフェル陣営がクレアを連れ帰る選択をした場合が一番かもな。魔族領でさっきの爆発が見られるからな」
「そうかも。それに多分、クレア爆弾をウルザに見せつけるのが一番効果的な気がする」
死亡ペナルティで『孤独の呪い』なども消えるので、ウルザは強制復活したクレアの位置情報を確認することができる。そしてクレアが不死族の街『ネクロ』から程近い魔獣の生存圏と魔族領の境界にいる事を知れば、より裏切りを確信してくれることだろう。
ただ、不死族と関係があるクレアを匂わすよりも、クレア爆弾をウルザに見せた方が2度と蘇生されなかったかもしれないと今更ながらレイアたちは思った。
「まあ、それをすると色々ごちゃごちゃするからな仕方ないな」
「まあクレア爆弾はこれで終わりかも知れないけど、ウルザ陣営の勇者を爆弾にする機会はまだあるから」
「それはそれで恐ろしいがな」
そんな振り返りをしつつ、レイアたちは撤退をするのであった。




