道連れの呪い
シーラに撤退の指示を出すようにお願いをした大河は、急いで不死族の者たちが準備をしてくれている場所に向かう。
大河がその場所に着くと、そこには何重にも張り巡らされた結界が展開されていた、
「お待たせしてすみません。準備ありがとうございます」
「何を何を、こんなのどうってことありませんよ……結界と生命力譲渡の準備は完了しています。レヴェト様もそろそろ戻ってくると思いますがどうされますか?」
「……いつでも自爆できるように用意だけしておきましょう」
「分かりました……おい、皆、用意に取りかかれ!」
大河はその結界の中に入り新たな『自爆』のための準備を始める。
相手が陣営幹部を総動員させるほどのインパクトを残せたのだ。『偽りのウルザ陣営作戦』自体は既に成功したと言ってよい。ルフェル陣営はこれまで以上にウルザ陣営の下にシーラたちがいるという誤った認識を深めたことだろう。
ただ最初からこの作戦自体の成功は確信していた大河が1点だけ不安視していた部分。それはルフェルたちからすると、今回の作戦がどういう意図で行われたのかが理解できない点であった。
今回の作戦をルフェル視点では見ると、陣営のトップであろうウルザの勇者クレアを捨て駒にした挙げ句、既に公開しているシーラ陣営だけでなく、ライカロープやエルフィードという隠しておけば有事の際の切り札になったかもしれない手札をルフェルに見せつけた。それだけである。魔界兵団など、それなりにルフェル陣営にも被害は出せたが、ウルザ陣営の方が損失を被っているのだ。
「ウルザみたく自分の都合よく解釈してくれる相手だと後のフォローが雑でもいいんだが、執拗に魔獣たち使って裏取りとかされると面倒だからな……」
ウルザであればそれだけのリソースを使った挙げ句、何の成果も得られなかった愚かな敵だと見下して終わるかもしれないが、宗教改革などを受けてのルフェル陣営の行動を見るに腑に落ちない点を放置してくれるほど甘い相手では無い。
そのため『偽りのウルザ陣営作戦』とは別にもう一つ作戦を用意したのである。
それが生命力譲渡を使ったより強力な『自爆』と、新たに見つけ出した呪いを掛け合わせた作戦であった。
そんな作戦の準備を大河がしていると、クレア陽動隊の伝令役を務めるゾンとストに指示を送ってくれていたレヴェトが戻ってくる。
「2人に撤退の指示を出しました。後、1分ほどで安全圏まで撤退できるとの事です。それと撤退を開始する直前まで問題なくクレアに呪気が出てきていたので安心してくださいとも言ってました」
「ありがとうございます。それなら問題ないですね」
レヴェトからの報告を受けた大河は少し安堵する。
今回の作戦の肝は新たな呪い『道連れの呪い』である。これは言うならば『誘爆の呪い』に似た性質を持つ。呪いに掛けられた者が死亡した場合、その者と同じ主神を仰ぐ勇者にも同じ目に遭わせる効果を持つ。
この同じ目に遭わせるというのがポイントであり、『誘爆の呪い』は死亡時に受けたダメージを与えるのに対して、『道連れの呪い』は死亡した時の状況を再現する。斬死すれば道連れ対象の身体も斬れ、焼死すれば道連れの対象の身体も焼かれる。
つまり大河が『自爆』したならば道連れ対象も『自爆』するのだ。つまり遠隔で『自爆』させられるということである。
『誘爆の呪い』との違いはもう一つある。それは、『誘爆の呪い』が呪われた者の範囲内にいる者全てに誘爆する効果であったのとは逆に、『道連れの呪い』は道連れ対象は1人である。その代わり距離は問わず呪われた者の最も近くにいる者が道連れ対象に選ばれるのだ。
そして、今回、大河から最も近くにいるウルザの勇者はクレアである。
「では、いきます!」
「承知しました!」
「……『自爆』!」
不死族の生命力を最大限取り込んで放った『自爆』は過去最大規模の閃光と轟音を響かせた、不死族総出で展開した結界ですら衝撃の全てを押さえ込むことはできなかった。
「……被害は?」
「爆風で建物が少々」
「よし、タイガ様が蘇生される前に建物を修復しろ」
「は!」
結界の綻びから漏れ出たのは不死族の落ち度であるが、爆風で被害にあったとなれば大河が気にするだろうと考えたレヴェトは、大河が復活する前に建物を修復するように指示を出す。
そして指示を出し終えたレヴェトは魔族領の方を見ながら呟くのであった。
「結界を破壊した威力もそうですが、ここからでもクレア爆弾の凄まじさが分かる規模……凄まじいですな」




