閑話 女神ウルザ
自身の領域である真っ白な『神域』で女神ウルザは『神々の聖戦』に関係する作業を行っていた。
[…エルフやドワーフたちの信仰移行率は半数未満ね。はぁ、仕事が遅いわね。自分たちの主神がどうなっても良いのかしら……ああ、もう元主神だったからしら]
自尊心が留まる事を知らないウルザにとって、生まれてからこれまで最高神の眷属として過ごしてきた日々は我慢の連続であった。そのため今回の『神々の聖戦』に対する思いはどの神々よりも強いという自負があった。
自身が次代の最高神になるため、神格を疑われるような悪どい手段も行い、それを非難する神もいた。しかしそういった神々は女神ウルザの勇者たちによって徐々にポイントを奪われていき、『神域』すら維持することができなくなる頃には、情けなくウルザの軍門に下ることを宣言するのだ。
そして軍門に下った神々の勇者たちを使いその神々を信仰する一般人たちに自分を信仰するよう促させ、信仰の移行が完了次第、勇者たちを亡き者にする。これが女神ウルザの常套手段であった。
[まあいいわ。亜人族は獣神のところ以外は支配領域に出来たわね。人族も抵抗している雑魚勢力はいても相手にならない。となると問題は魔神勢力ね。……まったくあのシジイ、魔獣やら魔人やら汚い手ばかり]
その甲斐もあって人族、亜人族の主神として広く認識されるに至ったウルザ。そんな彼女にとって唯一の対抗馬と言ってよい存在が、魔族や魔獣たちの主神として君臨する魔神ルフェルであった。
人族や亜人族が忌避する作戦や、非人道的な改造や実験などを嬉々として行う魔族たちは、一人一人が強力な信者として存在する。そのため数では勝るはずの人族、亜人族も魔族相手には苦戦を強いられているのが現状であった。
[……やっぱり勇者の補充が必要かしら? とはいえ数日前に引いた勇者はゴミだったのよね。まあ彼処までのゴミを引くことは早々無いとは思うのだけど]
この現状を打破するために必要なのは『神々の聖戦』のキーパーソンである勇者だろう。とはいえ勇者を抽選するにはそれなりのポイントが必要となる。数日の間に何度も引くというのは支配領域も広く、様々な神からポイントを奪い取っているウルザと言えど慎重にならざるを得ない。
特に前回の勇者が口に出すことも腹立たしいレベルの外れだったため、余計に勇者を引くことを躊躇ってしまう。
「うーん、取り敢えずここ最近のポイントの収支を見て決めようかしら? 亜人族たちからの信仰ポイントとかも入ってるでしょうし……」
とはいえ『神々の聖戦』において勇者を揃える事は定石である。目先のポイント損失を恐れれば逆に大きくポイントを失うこともある。
幸い幾つか支配領域を広げたばかりなので、少し奮発するつもりでウルザは、自身のポイント収支を確認する。
するとそこには、約5万ポイントという記載がされていた。
[5万ポイント? 初期勇者100体分くらいよね。ここ最近、大きな戦闘なんて起こっていない筈よね。となると誰が……え?]
あまりの大量のポイントに驚くウルザは、ここ最近の出来事について調べようとする。しかしその瞬間、ウルザはその5万という数字が記載されている欄が収入欄ではないことに気が付く。
[支出5万ポイント…いやいや、仕事のし過ぎで目がおかしくなったのね。そんな訳……え]
ウルザは目を擦ったり、何度もまばたきしたりする。しかし支出欄に書かれている5万という数字はそのままであった。
[ちょっ、え、なにこれ! そんな、そんな筈ない! 5万なんて、しょう、詳細を出しなさい。今すぐ!]
普段の尊大な態度など崩れ去ったウルザは、必死に失ったポイントの内訳を確認する。するとそこには勇者の蘇生と並んで記憶に新しい単語が書かれていた。
[…自爆代2万ごせ、な、なによこれー!]
その日、ウルザの『神域』に絶叫が響き渡るのであった。




