シーラ陣営最大の武器
クレアの『精神傀儡』を使っての作戦を行っていたレイアとイージスが『リュートの遺跡』に戻り報告してきた内容に大河は少し意外そうな反応を示す。
「……これで全員ですか? まだ数柱残っていると思いますが」
「現時点ではこれで全部。残ってる3柱の神は情報を掴んだ後も特に動きは見せていない」
「……これまでの揺さぶりでかなりウルザが荒れているという事は聞いていましたが、予想以上ですね。シーラ様、ライカロープ様とエルフィード様に連絡をして、今回俺の情報を得ても動かなかった神が誰であるのかを伝えてください。それと渡した俺の情報が嘘であることもその神々に伝えさせてください」
[はい!]
大河の予想ではこちらとウルザ陣営を天秤に掛けた際、自分という爆弾を排除できるのであれば、ウルザ陣営を選ぶ神々が多いだろうと考え、今回の作戦を実行した。
勿論、こちらの作戦にまんまと引っ掛かり、こちらに戦力を提供してくれた者たちも多かったが、3柱ほどの神がこちらに寝返ったまま動かないという結果に終わった。
全員裏切ればそれだけ偽りのウルザ陣営の戦力は増加したが、こちらに残ってくれるならそれでも構わない。
「いやちょっと待てタイガ。もしかしたらその中に、まだこっちとウルザ陣営を天秤に掛けている最中の神もいるのかもしれん。そうならこっちが劣勢になった段階でまた裏切るぞ」
「そうですね……ただ裏切った他の神々と違って状況さえ良ければこちら側につく気があるとも言えます」
「それはそうだな」
「なら、取り敢えず今回の作戦でその気持ちをもう少し高めてもらいましょう」
寝返ったふりをして、大河やシーラなどの情報を得ようとした者たちと異なり残った3柱は多少なりともウルザ陣営に居たくないと思ったということであろう。
その気持ちを育みたいと大河は考えたのだ。
「……取り敢えず、その3柱には、偽大河の事と、クレアを使って裏切った者たちが派遣してきた勇者たちを操り人形にした事実だけ伝えてください。どうせこれから使い捨てる駒たちの情報ですからバレても……あ、勿論クレア自身も操り人形になっているという情報は伏せてください」
[分かりました!]
とはいえ全ての情報を開示する訳ではない。大河がシーラ陣営を抜けてウルザの従属神の1柱に匿われているという偽情報は、これからレイアやイージスが獣人族やエルフたちと作戦行動をしていれば露呈してしまうため大した情報でもなくなる。
一方でクレアが裏切ったのではなく自分のスキルで自分を操り人形にしてしまった情報などはウルザに知られる訳にはいかない重大機密となる。
それら情報は吟味しながら渡していき徐々にこちらへの仲間意識を増やしていくつもりの大河であった。
大河がお願いすると、シーラは今頼まれた事をライカロープたちに伝えるべく、とことこと離れていく。
そしてシーラが離れたタイミングを見計らってレイアたちが質問してくる。
「……やっぱりクレアを捨て駒にするんだ」
「正直、もったいなく思ってしまうな。悔しいが『精神傀儡』の性能は捨てがたいからな。後、タイガの嫌がらせとの相性もな」
「……まあ有用な事は間違い無いですし、『精神傀儡』された勇者の視覚からならば主神ですら騙せる事も判明しましたからね。クレアの価値は高まってます」
「なら!」
大河としてもクレアの有用性は理解している。先日レイアに頼んで視覚共有や『精神傀儡』の仕様を確かめるため実験した結果は良好であった。
これを使えば2、3嫌がらせができるだろう。しかしそれでも大河はクレアをこれから行う『偽りのウルザ陣営作戦』で切り捨てるつもりであった。
「ですがクレアを使い続けると、我々シーラ陣営最大の武器を損なう可能性がありますので」
「私たちの武器? タイガの嫌がらせじゃないの?」
「違います。俺たちの最大の武器は……シーラ様です。見てくださいあの愛くるしいお姿を」
大河が指差した方を見ると、少し離れた場所でシーラがライカロープたちと通話をしていた。ポイント消費を抑えるため今回は音声のみでの通話のため筈だが、伝えることに必死になりすぎて身振り手振りを交えてしまう所にほっこりしてしまう。
「可愛らしいのは分かったが、武器?」
「武器です。シーラ様の神柄が分かっているからこそ、ライカロープ様やエルフィード様は危険を顧みず協力してくださいます。何よりウルザの勇者である俺が作戦立案するなど、シーラ様でなければあり得ないでしょう?」
「確かにな。私もしばらくの間、無宗教のままいられたしな」
「ふふん。シーラ様は凄い。一緒にいるだけで安心できる」
「はい。ですがそんなシーラ様のイメージと対局にいるのがクレアです。敵だけでなく味方すら心を休める暇がありません。クレアを有しているというだけで、他神から警戒されてしまう事になります」
ウルザなどはシーラのふわふわした雰囲気をバカにするかもしれない。舐められているだけだと。しかし警戒されないというのは立派な長所であると大河は考えている。
ただ、そんなシーラでもクレアを有してしまえば警戒されてしまう事になる。敵からも、そして仲間からも。逆に今の状況でクレアを手放す選択をしたという事実がより、シーラに対する他神たちの警戒度を更に下げることができる。
そうなるとシーラの長所とクレアの有用性を比べることとなるが、そんなものは考えるまでもない。
「クレアを捨てよう」
「そうなるな」
「はい。まあギリギリまで有効活用した末にですけどね」
大河の説明に、2人は必死に身振り手振りをしているシーラを見ながら納得するのであった。




